第百六話「二人のリベンジ」

『旦那、マジでいいんだな? 今の俺は手加減できねぇぞ?』

「今までだって手加減してたとは思えねぇよ。いいから、急げ!」

『おっしゃ、ストレスぶちまけたらぁ!』

「いや、ストレス発散の的には、ごふぉっ!?」

『……くぇー』


 信じらんねぇ。

 このウサ公、自分の主人でストレスを解消しようとしてやがる。

 確かに最近、突撃したくてもできない状況が続いたからな。


 結果的に、俺が歩くよりも速く移動できるのなら仕方ない。受け止めてやろうか。

 もってくれよ、俺の内臓。


『わっほーいっ! はやいはやーい! あなた、凄いね! こんなに速く走れるなんて!』

「あ……、うん、ありがとう。……ございます」

『アウィン』

「大丈夫です。ラピスさん」

『あなた、アウィンって言うのね! ヒューマンがこんなに速く走れるなんて、わたし、知らなかった!』

「……喜んで頂けたようで、わたしも嬉しいです」


 アウィン、結構こたえてんな。

 友達だと思っていたチンチクリンに初対面のような反応をされてる訳だし、当然か。


 なぜこのチンチクリンは記憶が無くなったような振る舞いをするのだろうか?

 いや、きっと振る舞いなんてものじゃない。本当に記憶が消えてしまったのだ。


 その原因なんて一つしかない。

 防衛イベント。その副産物、自我持ちへの攻撃。

 おそらく、チンチクリンは敵モブに殺された。どうやら、自我持ちがやられたとしても消滅する訳では無さそうか。


 それでも、現在フェアリーの里が危険であることは変わらない。

 だからこそ、こうして俺のできる最速で森の中を突き進んでいるのだ。


 だが、分からないこともある。

 消えた記憶は一部分のみだということ。

 全ての記憶が消えるということは無いようだが、それならどの部分の記憶が消えるのだろうか?


「次は、向こうの木で左だ! ごっふぉ!?」

『ねえねえ、あのウサギさんに飛ばされてる変なヒューマンはどこに向かってるの? わたしの向かってるところと同じ方向みたい!』

「多分、目的地も一緒です。わたし達は助けに来たんです。フェアリーさん達を、ヒメちゃんとミドリちゃんを、助けに」

『ええ!? なんでわたしの呼び名を知ってるの!? それにミドリちゃんまで! 里までの道順も合ってるし、どういうこと?』

「おい、チンチクリン! 里の状況はどうなってるか分かるか!?」

『えーとね。大工ジュニアがいつも通り走り回ってて、おばばが何か忙しそうにしてたよ。繕い物屋さんは張り切ってたし……。あ! 柵の向こうのチークさんが、三叉みつまたのチークさんに比べて日が当たらないって言ってた!』


 こりゃ、ダメだな。

 襲撃のことを話してる風には見えない。日常風景を笑顔で語られても状況判断材料にはなりそうもないぞ。

 もしかして、記憶が消えたのは里が襲われたショックからだったりするのか?


 あとは、俺達プレイヤー関係の記憶のみ消えた可能性もあったが、それも違うみたいだ。

 むしろ、一定期間の記憶が抜けた感じだろうか。


 フェアリーの里がどうなっているのかは分からない。

 それでも、とにかく近付かなければどうにもならない。

 今は一刻も早く……!


ご主人様マスター! 前方に!』

「蜂か! ラピス、アウィン! 作戦通りに頼むぞ!」

「分かりました! 行ってきますっ!」

『え、なに、わぁぁぁ!?』


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 特攻蜂 Lv.39

 △△△△△△△△△△△△


 目の前に現れたのは特攻蜂が一体。

 道中では敵と遭遇することはなく、スムーズに進めていたんだが、ここでエンカウントか。


 敵の居場所はローツに続く門と、フェアリーのいる里の推定二箇所。

 他にも自我持ちのいる場所があればそこにも集まっている可能性があるが、俺の知っているところはこの二つだ。


 ここで敵と遭遇したということは、フェアリーの里に近付いたからか。

 あるいは、フェアリーが倒した敵モブがリポップしたってこともあり得る。


 だが、どちらにせよ、フェアリーがまだ奮闘していることには変わりない!

 まだ、間に合う! 俺達が助けに入る意味はあるっ!


『ちょ、アウィンちゃん!? はや、速いって!?』

「今度は負けません! てい、たぁ! ラピスさん!」

『ええ、任せなさい』


 蜂はこちらに気付いていなかった。

 それは、アウィンへと大きなアドバンテージとなる。

 今まで、飛ばされていく俺に並走していたアウィンは全く全力ではなかったようだ。

 いきなりスピードが上がったと思えば、もう既に蜂へと踊りかかっている町盗賊の姿が。


 何度か切りつけたところで、アウィンと一緒にいたラピスが蜂へと乗り移る。

 蜂はと言えば、羽ばたく速度が遅くなり、かろうじて空中へ浮いている有様。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 隠しナイフ(カスタム) 短刀(暗器)


 暗器として用いられるナイフ。


 ATK筋力値 +2


 カスタム

 鈍足の粘液が表面に塗られている。

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 アウィンが両手に持つナイフの詳細だ。

 今まで使っていた隠しナイフ(麻痺)や新しく作ってもらった毒レベル二の隠しナイフ(毒)は永続的に状態異常攻撃ができる。

 それに対して、粘液を塗っただけでは、状態異常攻撃が途中でできなくなってしまうのだ。


 それでも、鈍足ぐらい状態異常に掛けやすいのなら表面に塗ることだってなかなかに有効。

 今だって、蜂の動きを鈍らせたのは鈍足の状態異常になったからに他ならない。


 そして、乗り移ったラピスは毒ラピスだ。しかも、レベル二。

 ま、そのダメージは俺のように体力が初期値であればかなり脅威だが、高レベルになると気休め程度でしかない。


 それよりも本命はラピス自身。

 蜂の鈍くなった羽ばたきへトドメをさすかのように片方の羽の付け根へとラピスが巻き付いていく。

 粘着質なラピスによって蜂の翅はほぼ停止。落下する。


 そうなってしまえば、おしまいだ。


「トパーズ」

『ったくよー。突っつくだけとか、面白くねーよー』


 通りがけにトパーズがつつくか蹴っ飛ばせば戦闘終了だ。

 乗り移っていたラピスもささっと回収して、すぐにまたフェアリーの里へ向かう。


 ここからはできるだけ早く、効率的に処理をしていく必要がある……!


ご主人様マスター、今度は』

『おっしゃあ! 出やがったな、カマキリ野郎っ! 風穴空けてやらぁっ!』

「トパーズ! さっき言ったことは」

『こう、だろ! やってやったぜ、旦那ぁ!』


 おおう、なんつー早業はやわざだよ……。

 タンクマンティスが見えたと思えばトパーズが突っ込んでいって、ポリゴンと化したぞ。

 カマキリのレベルを確認する暇もなかったな……。


 トパーズへ言ったことは単純なもの。

 確実に攻撃を当てるため、近くに跳んでから軽く跳ねろ。それだけだ。


 遠くから見当違いな場所へ突撃したらどうしようもないが、ある程度近付けばそこまで外すこともない。

 タンクマンティスは攻撃を耐えることに重きを置いている敵モブだ。

 避けることはないだろうと見ていたが、案の定まともに食らったな。


 トパーズの攻撃を耐える可能性?

 いや、まあ、一応考えてはいたが……。


『うおっしゃぁぁっ! これだよ! このぶつかり合うこの感覚! これを求めてたんだよオレはよぉ!』

「おう、そりゃよかったな、ほら行くぞ」

『おし、次のカマキリだな! ただ、もうちょい硬くてもよさげだよな。思ったより簡単に貫通しちまった』

「……そうだな」


 カマキリの鎌までへし折ったトパーズには余計な心配だったようだ。

 トパーズのお眼鏡に適う相手は来るのだろうか……。


 蜂に大雑把な突撃は当たらない。だから、ラピスとアウィンに任せる。

 カマキリにアウィンでは決定打がない。だから、トパーズでぶち抜く。


 これだけ見れば、意外とこのパーティはバランスがいいのかもしれない。

 だが、致命的な欠陥もある。

 いや、それは今考えることじゃないな。


 カマキリのドロップを確認する手間も惜しい。

 すぐにフェアリーの里へ向かおう。



 ~~~~~~~~~~~~~~~

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 カクヨムでは、初めまして。

 作者のろいらんです。

 前書きも後書きもないので今までご挨拶ができず、申し訳ありません。


 この百六話をもちまして、なろうで公開している話数に追い付いてしまいました。

 また、現在、私はリアルの都合上休止中です。

 なので、次のお話は9月に、予定では隔日更新をするつもりです。


 少しの間、更新がストップしますがどうか、これからも「極振り好き」をよろしくお願い致しますっ!

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