第九十六話「進撃開始」
さて、と。
何だか、一瞬の内に色々起こりすぎて状況についてけないし、整理してみようか。
今いるここは、フェアリーの里らしい。
里っぽさの全くない森の中だが、里の端っこってことなんだろうな。
で、敵だと思われた俺達は大量のフェアリーに囲まれた。
で、ここからがよく分からないんだが、何とか説得しようと頑張っていたところ、いきなりフェアリーの一人がスナイプされ消えた。
俺からすりゃ、全員森に注意を払わず俺達だけを警戒してたんだから、その外側から奇襲されるのなんて当たり前じゃねえか、と言いたいところ。
だがまぁ、同じ敵モブから攻撃されるなんて思って無かったんだろうな。
敵モブが別の敵モブを襲うなんて見たことも聞いたこともない。
で、フェアリーは俺達を放って、とりあえず里へと帰ったようだ。
その時、光の玉へと姿を変えていたので、一緒にいたハーピーもフェアリー達へついて行ってしまったのは……別にいいか。
「ってことで、俺達はどうするべきだろうか」
『旦那! んな事言ってる場合かよ!?』
『その通りです。周囲に敵が潜伏している可能性があります』
「いや、もちろん警戒はするぞ。つっても、ずっとここで立ち止まってたってしょうがねえだろ」
「お兄ちゃん! わたし、フェアリーさん達のお里、行ってみたいですっ!」
トパーズやラピスの言うことも
胸の前にある握りしめた手を無意識に震わせ、そのキラキラさせた青い瞳で俺を真っ直ぐに見上げてくる姿はまさに、動物園入場前の子供。
でも、やっぱ行きたいよなぁ、フェアリーの里。
ここまで来た時にあれだけ妖精の鱗粉が見付かったんだし、里へ行けばもっと多くの鱗粉が見付かるかもしれない!
帰れと言われたが、なんか緊急事態っぽいし? 助けられれば、鱗粉プレゼント? 的な?
ハーピーもついてっちゃったしなあー。連れ戻さないとなー。心配だもんなー、ハーピー。
「よし、とりあえず目的地はフェアリーの里だ! 奇襲に注意しながら慎重に」
『
「《土球》。トパーズ、アウィン」
「あ、は、はい! えっとえっと、ここです!」
『こいつ、突撃してもあんまり手応えがねえんだよ、なっ!』
ま、今更一体で奇襲したってもう何時間も繰り返してた奇襲対策は身体と頭に染み付いている。
一人ほど手間取ってた奴がいたが、倒せたんなら問題ない。
「んじゃ、今度こそフェアリーの里目指して」
『左腰、八時、水平ですっ!』
マジか!?
また連続で奇襲してきやがったか……!
だが、同じ手は通用しねえぞ。腰ぐらいの高さなら!
「《土種》!」
ちょいと消費MPを増やした土種でカバーできる!
《魔法複数展開(Ⅱ)》は攻撃魔法を二つ撃った時に発動する。便利魔法に関してはその限りではない。
これで一定時間攻撃魔法使用不可のデメリットは回避。
先に撃った土球も消えた。
《土魔法》は質量があるから防御に使いやすいが、長い時間残り続けるのが少し厄介かもな。
「さあ、三回目の奇襲来るか? こちとら、迎撃の用意はできてんぞ」
『……
「来たか!? どっちだ? どの角度だ!?」
『いえ、奇襲ではありません。これは、結構、危機的状況というものかもしれません』
「は? それはどういう……」
あ、いや、なるほど、理解した。
右側にある木々の隙間から見えたのはでっかいカマキリと蜂の集団。
ミニマップ上では今、ローツ北エリアの第一エリアと第二エリアの境界付近。
もう少し進めばあの人並みの大きさを持つカマキリと、ブンブンと飛び回っている大型犬程の蜂に出会っていたのだろう。
あいつらが第二エリアの敵モブか。
まだこっちには気付いていない様子。
よかった。あんなもんにいきなりご対面なんざ真っ平ごめんだしな。
先に姿を確認できたのはありがたい。主に俺の精神的に。
「あいつらか。確かにヤバそうだな。見た目とか特に。だが、まだこっちに気付いてる訳じゃないし、そんな危機的状況ってもんじゃねえだろ?」
『その、
「…………うーわ」
視線を上げると見えてくる影、影、影。
こいつは、確かに危機的状況。というか、絶望的状況だな。
周りの枝という枝にカマキリと蜂がびっしりだ。
葉や幹の色に溶け込むように俺を取り囲んでやがる。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
タンクマンティス Lv.41
△△△△△△△△△△△△
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
特攻蜂 Lv.39
△△△△△△△△△△△△
カマキリの数は蜂に対して少ない気がしてたが、これはまたお高いレベルをお持ちなようで。
名前からして、前衛がカマキリ、遊撃が蜂、んで、遠距離の後衛が奇襲野郎ってとこか?
徒党を組まれたら厄介この上ない布陣だな。
自我のないデータで動く敵モブがほとんどでよかった。
……てか、おい、ちょっと待て。
そういえば、トパーズとアウィンはどうした。
あいつらは、木の上から奇襲してきた敵を倒しに行ったはず。
帰って来ない二人。樹上で
まさか……!
急いでメニューからテイムモンスターのステータス画面を開く。
しかし、そこには灰色になり選択できなくなった二つの欄が。
「くっそ、もうやられて」
『
「っ! 《火球》!」
目の前の木から一匹の蜂が針を向けて飛んでくる!
とにかく、倒せ! 魔法を撃て!
『後方からも!』
「《風種》! んで、《土種》! もいっちょ《火球》!」
『上から来ます!』
真上に振り下ろされたカマキリの鎌は、ある程度まとまって大きくなったラピスによって弾かれる。
だが、カマキリにはもう一つの鎌がある!
くそ、手数が足りない。防ぎきれない!
「ぐ、ぅああぁぁぁあ! い、ぎぃ、あ、《土球》!」
『
いったい、痛い痛い痛いっ!
咄嗟にガードした左手は、きっと途中から先が無くなって血が吹き出してる気がする! ゲームだからそんなことないんだろうけど!
い、今、魔法撃ったのか、俺?
とりあえず、目の前の緑がいなくなってよかったが、どんだけMP使ったんだ。
頭も重い。それに、意識も消えかけだな。
ついに、ボスでもないのに《即死回避》か。
ん? 何かが落ちてる。あれは、何度も見たな。仕込み針か?
アウィンが落としたのか。いやでも、アウィンの向かった方向とは逆だ。
あーもう、いい。しんどい。頭痛い。
何も、考えたくない。
一回死んどこう。
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