第五十九話「闘技大会二回戦」
「審判さん、おかしいやんって! 戦う相手おらへんのに試合開始とか言わんといてくれまへんか!」
「…………」
「ほんで、だんまりかい。テイクはんも何か
「ミル、落ち着け」
「ウチにかい!」
第一回闘技大会テイマー会場第三回戦。俺にとっては二回戦が始まった。
だが、俺のテイムモンスはいない。いるのはミルのテイムモンスターだけだ。
サラとの試合よりも遥かに多くなった観客達もザワザワしている。審判が始めって言ったんだから、問題はないって分からんもんかね。
ミルのテイムモンスターは悪戯エイプ。ちょっとした俺のトラウマモンスターだ。
そしてやはり、防具を身に付けている。サラのスケルトンもそうだが、人型モブは防具が作りやすいのだろう。
どうやら皮鎧のようだ。動きやすさ重視か?
だが、特筆すべきは手に付いている爪を模した武器。風が渦巻いているように見えるんだが、気のせいだよな?
「テイクはん、はよテイムモンスター出してや」
「その必要はないな」
「はっはーん。やっぱ、そういうことかいな」
ミルが何かに気付いたようだ。まあ、俺としても気付いてもらわないと困る。
だが、とりあえず、そのうさ耳を揺らすのをやめろ。
「ぷーちゃん! なんや知らんけど相手はもうそこにおるみたいや! 気いつけて探してみてくれんか!」
ぷーちゃん……。
いや、悪戯エイプの“ぷ”を取ってきたんだろうが、急に無職の毛深いおっさんが相手な気がしてきた。
悪戯エイプが職……じゃなく、戦う相手を探し始める。
ミルの考えは間違ってない。だが、それも俺の計画の内。
悪戯エイプは様々な場所を探した。壁、闘技場の中心、自分が出てきた扉と相手が出てくるはずだった扉。
さっきの試合で、トパーズがサラのスケルトンを吹き飛ばして出来た壁の修復はされていたようだな。もしかすると、違う空間の闘技場なのかもしれない。
「あー、もうアカン。やっぱおらへんやんか。これ以上どないせえっちゅうねん」
ミルも観客も飽き始めた頃。
突如、悪戯エイプの頭上にHPバーが表示された。
これはつまり、悪戯エイプのHPが減ったということ。
さあ、攻撃開始だ。
~~~~~~~~~~~~~~~
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先に断言しておくが、これはバグでもチートでもない。
俺のテイムモンスターはマルチスライムのラピス。ただ、そのスライムが三十二体に《分裂》しているがな。
その結果、ステータスが三十二分割される代わりに大きさも三十二分割されている。光を透過する体色、《擬態》スキルの効果もあいまって、ちょっとやそっとじゃ見付けられない。
《擬態》はLv.1だからあんまり期待できないが。
俺は試合が始まる前、ラピスに試合直前で限界まで《分裂》しておくように言った。また、試合が始まれば扉の影に隠れろ、とも。
その結果、敵は見事にラピスを探しまくって扉へ近付いてくれた。あとは、貼り付いてスリップダメージを与え続ければ
しかも、相手はおあつらえ向きに装備をしてくれている。隙間に入り込めれば詰み、チェックメイト待ったなし。
そして、現在。
「ぷーちゃん、しっかりしいや! まだこっから何とかなる可能性はあるはずや!」
試合開始からある程度時間が経ち、悪戯エイプは毒になってHPの減りが加速し始めた。
そして、毒などの状態異常というのは、プレイヤーに対してはシステム的に作用するが、敵モブやテイムモンスターにはHPの減り以外にも身体的な影響がある。
実際、毒になってから悪戯エイプの動きが少し鈍くなった。
残りHPは三割。毒が自然治癒する度に再び毒になるので勝つには毒を仕掛けてくる元を
ま、その元は自分の装備の内側にいるんだけどな。その事に気付けない限りどうしようもないぞ。
時間がないという焦りからか、ミルは当てずっぽうに攻撃を繰り返すという暴挙に出た。
「きっと相手は、姿を見せずに毒で削ってくるアサシン系のモブや。遠距離攻撃してきとるなら、それで方向を見極めたる!」
なんて言ってたんだけどな。見当違いも
その推理、俺の三体目のテイムモンスターにはニアピンってとこなんだが。あいつに姿を見せないなんてことができる気がしない。どっかでドジを踏むに決まってる。どっちにしろ不正解か。
「絶対、どっかにはおるんや! 諦めへんかったら当たるはず! 気張りよ、ぷーちゃん!」
『ハッ、ハッ、キキャァァァー』
ぷーちゃんも息絶え絶えって感じだな。家で食っちゃ寝してるからそうなる。
悪戯エイプのHPは残り一割を切ったか? そろそろ決着だ。
と、ここで悪戯エイプが振るった爪の軌跡上にHPバーが出現、砕け散った。
あれは、腕にしがみついていたラピスか? 遠心力で飛ばされたところに、運悪く爪が襲い掛かったってとこだろう。
くそ、やはりあの爪は属性持ちだったか。なんでそんな貴重なもんをテイムモンスターが持ってんだよ。
「あ、当たった! 今、当たったで! しかも、倒してもたってことはウチの勝ちや! ようやったで、ぷーちゃん!」
「何言ってんだ、まだだぞ」
「ちょいちょい、テイクはんこそ何
「なら、審判が勝者を告げないのはなんでだ?」
「……いやいやいや、審判さん、おかしいて。勝ったやん。今、ウチ勝ちましたやん! まさか、テイクはん、賄賂でも渡しとんのと違うか!」
「んなことしねえよ!」
一体やられてしまったのは誤算だが、まだ終わってはいない。何故なら闘技場内に俺のテイムモンスターが残っているからだ。
それも一体、二体どころの話ではない。
「そうや、テイクはんは三体もテイムモンスターおるんやった。やけど後はトパーズちゃんとマルチスライムや。トパーズちゃんの攻撃を避けられれば勝てるはず!」
「ミル、残念だが、先鋒が倒されれば恐らく審判は何かしらのジャッジをするはずだ。それがないってことはまだ俺の一体目はやられてないんだよ」
「なんやねん、テイクはん! ウチはもうよう分からんわ! どないすりゃウチが勝てる
「そのことなら、簡単だ」
闘技大会の勝利条件は相手のテイムモンスターを倒すこと。闘技場内に己だけが立っていれば
つまりは。
「さっきのまぐれ当たり、あと三十一回やればお前の勝ちだぞ」
「はあ!?」
「まあ、そんな時間はもう無さそうだけどな」
「なっ、ぷーちゃん!」
毒の他にも微量な継続ダメージを食らい続けていた悪戯エイプは、ついにHPバーを
訪れる静寂。さっきの試合でもこんなことあったな。
だが、今回はユズもケンもいない。歓声も拍手もなく、広がっていくのは戸惑いと疑問の声。
「そこまで! 試合終了、勝者テイク!」
これ以上、ここにいても仕方がない。
後ろを向き、階段を降りながら小声で呟く。
「《リコール》」
表示している簡易ステータス上でMPの千の位が一つ減る。
それと同時に俺の手の中には無数の青い直径二センチ程の球体が出現。瞬く間に一つのバスケットボールに早変わりする。
「お疲れ、ラピス。作戦通りだったな、よくやった」
俺の最古参テイムモンスターは応えるようにプルプルと震え、勝利を誇るのだった。
次は決勝、エリーとの勝負だ。
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