第五十八話「リコール」
「…………」
「なんや、人がよろしく
「そろそろ、初対面の人がお姉ちゃんの耳を見てどう思うか、知った方がいいと思う」
「なんでや! うさ耳可愛ええやんか!」
さて、どうしようか。
俺の気持ち的には今すぐこの場から立ち去りたい所なのだが、そうもいかない。
先ほどの言葉からして次の対戦相手はこのうさ耳女だろうし、どうやらサラの姉でもあるらしい。
さっきの試合がアレだったからな。数少ない序盤テイマーとは仲良くやって行きたい。
ん? 次の対戦相手ってことは、このうさ耳もテイマーか?
……やっぱり、合う合わないって大事だよな。仲良くやるのは少数精鋭でよろしく。
「あら、ミルじゃない。なによ、テイクが次戦う相手ってミルだったの?」
「あ、ほんまや。ユズちゃんや! いやー、こんな偶然あるんやなー。いつぶりやろか?」
「四日ぶりかしら。あの時はレベル上げが
「そうなんよ!
「この名前はお姉ちゃんに付けられたんだけど」
「ユズ、知り合いか? てか、喋り方が気になるんだが」
ユズの交友関係は広いが、またもこんな形で見せ付けられることになるとは。
まだゲーム始まって一ヶ月も経ってないってのに知り合いと再開なんてなかなかないぞ。
あと、喋り方が気になる。テレビで聞いた関西弁とも違う気がするんだが。
「ええ。ミルとは闘技大会前にレベル上げしてる時に会ってね。テイマーが知り合いにいると話が合うのよ」
「話し方は堪忍な。関西圏のとこグルグル回っとったら変な感じに色々吸収してもてん」
「だから、その喋り方はやめた方がいいのに」
「サラちゃんみたく、お姉ちゃんは器用やないねんて。ほんで、話に聞いていたトパーズちゃんがその子なんやろ? さあ、モフらせえ!」
「なっ、てめ、いきなり何すん、おい、トパーズ!?」
ユズが撫でていたトパーズを迫り来る魔の手から守るべく立ち塞がったのだが、左肩に重量感。視界の端には黄色い角。
肩にトパーズの足がくい込む。そして、跳躍。トパーズはうさ耳女、ミルの胸に収まった。
おい、守るべき対象が敵へ跳んでいってんじゃねえ。
「なんやこの子、めっちゃ可愛ええな! うさ耳やからか!? ウチのこと、仲間や思たんやろか?」
「返せ」
「向こうから跳んで来はったんやもん。これはしゃーなしやって。はー、モフモフやわー、癒されるわー!」
「僕としては、あんまりいい印象はないけどね……。あ、でも気持ちいい」
「はっ! そうやった! サラちゃんの
「実行犯はお前の手の中にいるんだが」
「トパーズちゃんはええねん! 黒幕はテイクはん、あんたや!」
「理不尽すぎねえか、それ。まあ、いいけど。サラ、骸は大丈夫だったか?」
さすがにやりすぎた気もしたしな。敵モブのスケルトンなんて貫通してしまうトパーズの突撃だ。後遺症があったとしたら、なんか悪いし。
ミルはとりあえずスルーで。どうせ戦う相手だ。覚悟も何もない。
「骸は大丈夫です。むしろ、被害が甚大なのは装備の方でした。《リコール》。ほら、こんな感じで」
「ひぃっ!? いや、ちょ、サラちゃん! アカンて! 急に出てくるんはアカンて!」
「あ、ごめんなさい。お姉ちゃん」
「可愛いから許したる」
骸の装備は胸部分が陥没し、その中心に穴が空いていた。これは、トパーズの角が貫通した跡か。
骸自身は大丈夫と行っていたし、装備さえ更新すれば問題ないんだろう。
それよりも、気になったのは骸が急に出てきたことだ。
骸の大きさは人ひとり分。隠れることなんてできないと思うんだが。
「何言っとるんや、テイクはん。大丈夫なん?」
「テイクさん、もしかしてヘルプ見てないんですか?」
「ヘルプ?」
ケンを見る。
ヘルプを読んで必要なことを分かりやすく教えてくれるケン先生に伝え忘れがあったのだろうか。
結構重要そうなことだぞ。
「いや、僕テイマーじゃないし。ヘルプが見れるはずないでしょ」
「だよな。すまん」
俺にウォリアーのヘルプが見れないのと同じく、ケンではテイマーのヘルプは見れない。そりゃそうか。
今までメニュー開いて何となくでやってたが不便はしてなかったからなあ。ヘルプ見るどころか存在を忘れていた。
「……読んでなかったみたいですね。テイムモンスターをその場に出現させる《鞭》スキルの初期魔法《リコール》です。初期と言っても消費MPは1000なので序盤では使えないんですが」
何その便利魔法。
確かに、《鞭》スキルは使わないから全然チェックしていなかったな。
テイムモンスター呼び出し魔法《リコール》か。これは有難い情報を聞いた。
「《リコール》」
「ああ!? トパーズちゃんがおらへん!」
「おお、確かに便利だ」
「ぐぬぬ、ウチの弟が折角教えてやったっちゅうのに」
「姉であるお前は関係ないだろ」
出現する場所も指定できるようだな。とりあえず、肩の位置に出そうとしたがちょっとズレたか。
目視できないと調整が難しいな。
「そういや、ユズはミルのこと知ってんだよな」
「ええ。そうよ」
「なら、ミルのテイムモンスター教えてくれよ」
「ちょ、それはズルいんとちゃうか、テイクはん! そんなん無しやわ!」
「なんでだよ、お前は俺のテイムモンスター知ってんだろ? フェアじゃない」
「いや、知っとるのはトパーズちゃんとマルチスライムだけやし、トパーズちゃんがあんな物っ凄い攻撃できるなんて知らへんかったからな!?」
「そうなのか、ユズ?」
「話したのはトパーズちゃんの毛並みのことだけね。むしろ、それ以外の話題は不要だったわ」
「……そうか」
それほどの熱意がどこから生まれるのかよく分からないが、この二人にとってはそういうものらしい。
分かりたいとは毛ほども思わないが。
「ユズ、時間大丈夫? 僕はそろそろウォリアー会場行こうと思うんだけど」
「え? あ、これちょっとマズいかもしれないじゃない! ケン、もっと早く言ってよ!」
「無茶苦茶言わないでくれますか」
「テイク、ミル、二人とも頑張ってね!」
「見には行けそうにないけど、応援してるよー」
「おう、とりあえず遅刻で不戦敗とかやめてくれよ」
「ユズちゃんも頑張ってやー!」
で、取り残された俺達テイマー三人。
しかも、俺だけが敵という何とも疎外感を感じる組み合わせだ。
「ほな、ウチらも控え室行こか。試合、そろそろやろ?」
「……ああ。そうだな」
うさ耳、生首と歩く俺。隣のインパクトが大きすぎて俺の存在感が薄くなってねえか、これ。
だが、このうさ耳に勝たないとエリーに挑戦することもできない。
気を引き締めて挑もう。
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第一回戦で登った場所に立つ。
見える風景はあまり変わらないが、観客が増えたな。さっきの試合がそんなにも話題になったのか。
審判をするNPCが壇上に上がる。ついに試合開始。
ミルはと言うと、何故か戸惑っているようだ。
「これより、第一回闘技大会」
「ちょ、ちょっと待ちいな!」
「テイマー会場、第三試合を行う」
「意味分からへん、どないなっとんねん!」
「始め!」
「戦う相手おらへんのに何を始める
ミルのテイムモンスターが相対するはずの相手、俺のテイムモンスターは出てくるはずの扉から一向に出て来ない。
それどころか、影も形も見当たらない。
闘技場には、ミルのテイムモンスター一体のみがいる状況の中、俺の第二回戦が始まった。
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