第五十七話「闘技大会初戦」

 階段を登る。

 長い、長い階段を登る。


 この建物は生成されて間もないだろうに所々古く、キズが付いているのはリアルの闘技場をイメージしているからだろうか。

 それか、運営の開発部門スタッフが闘技場そのものに古いという印象を持っているのかもしれない。


 階段の終わりが見えてきた。その先には青空。

 登りきる、そして、視界が開ける。


 さあ、俺の闘技大会初試合だ。

 気合い入れて行こうか。


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「これは、一体どういうことなんだろうか」


 目の前の光景は俺の知っているものじゃない。


 いや、ほんとは分かっている。

 まんまと奴の作戦にハマってしまったのだろう。

 思い込みは自分の首をめる。痛感した。緊張していたのだろうか、少し視野が狭かったようだ。


 俺の見る景色には、ガラガラな客席とその上に広がる青空。そして、俺の足下にあるのだろう扉から出てきたトパーズと、同じようにサラの足下にある扉から出てきたテイムモンスター。


 客席はどうでもいい。

 さっきまで人が大勢詰め掛けていたのはエリーの試合を見るためだ。今日のエリーの出番は終わっている。なら、他のテイマーの試合なんざ興味もないんだろう。

 だが、トパーズが出てきた時に失笑されたのは許さねえからな。


 しかし、そんなことよりも問題は、サラのテイムモンスター、むくろ

 俺はさっき、この名前から相手はスケルトンじゃないかと予想した。だから、物理攻撃力の高いトパーズを先鋒にしたのだが。


 忘れていた。考えが足りなかった。

 相手は俺のテイムモンスを三体中二体知っている。それは、どう考えても俺が不利だ。


 相手のテイムモンスターは予想通りスケルトン。これはいい。

 だが、その装備に問題がある。

 鎧、兜、そして、盾。しかも、盾は大きく分厚い、そして、その材質は木で出来ている。

 つまり、トパーズの角が刺さってしまうのだ。


 これは、確実に対策をされている。この分だとラピスに関しても対策されている可能性が高い。

 相手はプレイヤーのテイムモンスター。スケルトンは物理攻撃に弱いなんて敵モブの話だ。そんな目に見えた弱点、プレイヤーが克服させない訳が無い。


 こりゃ、エリーの対戦相手、犬士郎を笑えたもんじゃないな。

 ただ、犬士郎とは大きく違うこともある。


「これより、第一回闘技大会、テイマー会場第二試合を行う。始め!」

「……テイクさん、僕のことを恨まないでください。対戦相手があなただと知ってから、僕もただレベル上げをしていた訳ではなくて……。僕も勝ちたい、ので」

「ああ。完全にしてやられた。こっちのテイムモンスを知られてる時点で警戒するべきだったな」

「その、すみません。残念ですが、マルチスライムとホーンラビットでは多分、むくろに勝ち目はないと思います。なので、早々に三体目を出した方が」

「そう決めつけるのは早いと思うがな」


 プレイヤーのテイムモンスターは警戒する。確かにその通りだ。これからもいましめようと思う。

 だが、忘れてないか? ラピスもトパーズも俺の、プレイヤーのテイムモンスターだ。

 勝ち目がないなんて、他人に決められる筋合いはない。


「トパーズ。作戦に変更はない。思いっきりやってやれ」


 頷くトパーズ。遠目からでもいつも見ている相手なら雰囲気で仕草が分かる。

 きっと今、トパーズの後ろ足は突撃したくてぷるぷるしてるんだろうな。


「さあ、跳べ! トパーズ!」


 ウサギが軽く跳ねる。

 だが、このウサギの“軽く”は軽くない。


 一瞬でスケルトンとの間合いを詰め、確実に狙いを付けられる位置へ。

 後ろ脚に、力がこもる。


 そして、ウサギが、跳んだ。


 瞬間。


 辺りに響き渡るのは衝撃音!

 木製の盾は黄色い角が当たった箇所で真っ二つに折れ、破れ、破壊され、周りに木片となって飛び散った。


 いで響いた金属音。

 スケルトンの鎧へと真っ向から飛び込んだトパーズ。角は最も硬いであろう胸の装甲をいとも簡単に凹ませ、その所有者諸共に吹き飛ばす。


 そして、最後に響くは破壊音。

 闘技場の壁へとスケルトンと共に跳んでいき、着弾。壁はダメージを受け、破片が飛び散り、弾頭だったスケルトンは無残にも壁に少しめり込んだ状態でポリゴンとなり、虚空へと消えていった。


 訪れた、束の間の静寂。


 それを破ったのは一人の歓声と拍手。


「キャーっ! さすが、トパーズちゃん! サイッコーっ!」


 見ると、そこには見覚えのある二人組。

 てか、ユズとケンじゃねえか。来てたのか。

 ユズは立ち上がって手を振り、ケンは苦笑いのまま拍手を続けている。


 次第に歓声と拍手は広がっていき、決して多くはない観戦客は興奮冷めやらぬままトパーズをたたえた。


 座って毛繕けづくろいしているトパーズの角は名前の通りの色で光を反射し、勝利を誇っているようだった。


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「お疲れ様、トパーズちゃん! さっきの試合見てたわよー! もう、惚れた! 惚れ直した!」

「まあ、大体予想はしてたけど、実際見てみると迫力が凄いよね。まずは一勝、だね。おめでとう」

「ああ、応援ありがとう、ユズ、ケン」


 俺の一回戦が終わり、次の試合まで時間があったのでユズとケンと合流することにした。

 二人は剣士、ウォリアーであり、どちらも人気な職だ。しかも、戦闘職ということもあり試合数がとんでもないらしい。

 ボス戦フィールドと同じように別空間でトーナメントを進めてはいるものの、まだ全ての第一回戦は終わっていないようだ。


 二人曰く、とても慌ただしく時間厳守。少しでも試合開始に遅れるとNPCが辛辣になるとか。ほんとか、それ。

 今は大丈夫だが、試合開始時間が近付くと前倒しで始まる可能性もあるからあんまり居られないとも言ってたな。なんとも、大変そうだ。


 その点、テイマーは気楽だな。今日の試合予定は三つのみ。しかも、今のところ終わった二つの試合はどちらも一瞬で終わっている。

 スタッフさんもにこやかで平和だ。


「そうだ、テイク。掲示板見てみた? 面白いことになってるよ」

「面白いこと?」

「番狂わせだーとか、何が起こったーとかね。チートとか言ってるやつもいるけど気にしないわよね」

「言いたいやつには言わせとけばいい。ってスタンスだからな、俺は」


 掲示板っていうと、これか。“【青姫】闘技大会テイマー会場スレ#1【無双】”ねえ。初めはエリーが勝つだろうってことばかりだな。エリーが勝った時も当然だ、って感じであまり盛り上がってはいない。

 お、ここからが俺の試合か?


『次、オッドボールのギルマスの試合』

『相手は「曝首」ってやつ。読めん』

『オッドボールのギルマスって、アレだろ? スライム乗っけてウサギ抱いてるやつ』


『ちょ、ま、うぇ!?』

『ヤバいものを見た』

『うおおおおおお!!!』

『何あれ、チート? ホーンラビットが出せる火力じゃないでしょ』

『青姫終わってからもテイマー見ててよかった。こwれwはwひwどwいwww』

『ちょw骸飛んでったんだけどw俺の知り合い応援するために見てたけど、あのスケルトン結構硬いよ? 狼のハウリングは止められる』

『ウサギ>狼。こういうことかw』

『盛り上がって参りました!』

『何か覗いたら祭りやってんだけど。何があったし』


 おーおー、トパーズの株が上がってんなー。

 これでホーンラビットが雑魚とか言うやつはいなくなってくれるとありがたいな。特に俺の精神安定的な意味で。


「どうだった?」

「俺がエリーに勝ったらどうなるか楽しみになった」

「あー、確かにそれは見てみたいわね。できるの?」

「さあな。とりあえず、次の試合勝たないと戦うことさえできない。何にしても全力でやるだけだ」


「うんうん、ウチもぜんっりょくで行ったるからよろしゅうな、テイクはん!」

「ん?」


 振り向くと、そこには先ほどの対戦相手であるサラともう一人、頭からうさ耳を生やした少女がビシッとポーズを取って俺へと指を向けていた。


 ……また、面倒そうなのが出てきたようだ。

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