第六十話「メイド」
【
『で? 結局、テイクってやつはチート使ってんの?』
『今北。状況がよく分からん。三行で説明よろ』
『一回戦はテンション上がったのに二回戦はマジ「は?」って感じだったな。毒になって狂い出した猿を見てるだけだった』
『チートだろ』
『闘技大会でチート使うバカはいないだろ』
『一回戦見れなかったから二回戦見に行ったけど、あれは間違いなくチート』
『じゃあ、なんで垢バンされてねえんだよ。闘技大会には商品もあるんだから、チートで勝ち取ったなんてことになれば運営が面倒になるだけだぞ。つまり、既にチートかどうか調査済み、その結果バンされてない。どう考えても白だろうが。はい、論破』
『俺らじゃ、分からんってことね。把握した』
『ウサギ>狼
透明人間チート?
わっしょいわっしょい←今ココ』
『我らがエリーちゃんの優勝が阻まれるというのか……!?』
『言っても、火力おかしいホーンラビットと透明になる新モブ、んでマルチスライムだろ? 対抗できるのなんて新モブの遠距離毒攻めぐらいで見付かったら終了じゃね?』
『青姫の優勝はまだ固いな』
『悪戯エイプの使ってた武器に興味あるんですが、どなたか知りませんか?』
~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~
ある程度読んだところで掲示板を閉じる。
二回戦は
ラピスを先鋒で出したのは、序盤だと魔法攻撃がないと思っていたから。初戦のサラへも初めはラピスを出そうとしていた。物理攻撃のみの相手にはラピスが無双できる。
しかし、あの武器には風属性が付与されていた。属性付きの武器はユズの持つβ特典“マッドトパーズ(剣)”以外に見たことが無い。
ミルのβ特典は特別職のテイマーだろうし、何故属性付きの武器を持っていたのか気になるところだ。
エリーも持っているのだろうか。
そうだとすると、計画が狂うぞ。また、練り直す必要がありそうだ。
幸い、テイマー部門の決勝は明日だ。考える時間はある。
「って、思ってたんだがな」
「…………」
「何の用だ、時間稼ぎか?」
「何のことでございましょうか。私はエリーお嬢様から仰せつかった
闘技大会会場のあるフィールドから出て、イワンの町中央にある噴水まで転移すると、目の前にメイドがいた。
言わずもがな、エリーの横にいつもいるやつだ。
名前は何て言ったか。エリーの印象が強すぎてよく覚えていない。
「改めまして、エリーお嬢様に仕えさせて頂いております、メリーです。以後、よろしくお願い致します、テイク様」
「読心術でも使えんのか、お前」
「あ、あの、わたしも自己紹介した方がいいですか!?」
「すまん、今はそういう空気じゃないから黙っててくれ」
「あぅ、ごめんなさい」
「ふふ、大丈夫です。ちゃんと貴女のことも知っております、アウィン様。素敵な名前ですね」
「……っ! はい! お兄ちゃんが付けてくれたんです! わたしの宝物なんですっ!」
「いいから、さっさと用件を話せ。こっちは暇じゃないんだ」
俺達を探るように話すやつは苦手だ。しかも、頭のいいやつだと尚更。
アウィンがボロを出さないか心配になるし、こっちも頭を使わないといけなくなる。疲れるのはごめん
「そうですか。もう少しお喋りしてみたくはありましたが、仕方ありません。テイク様、貴方にはエリーお嬢様と会って頂きます」
「断る」
「断れません」
「なんでだよ」
「“はい”を選ぶまで無限ループですよ」
「お前はNPCじゃねえだろうが」
強制イベントとでも言いたいんだろうか。だが、俺には関係ない。こんなもん無視だ無視。
「帰るぞ、アウィン」
「え、いいんですか!?」
「そうですよ、エリーお嬢様が貴方に話があると仰っているのです。実のある談話になると思いますよ」
「俺のイライラが増すだけだ。少なくとも、決勝が終わるまでアイツと話すつもりはない」
「……この世界のことをお話されるようです」
……この世界?
ああ、このゲーム世界、ESOの世界観ってことか。
「興味ないな。ストーリーはスキップすることが多いんだよ」
「……恐らく、メグミさんのことも触れると思いますが」
「あ? おい、今なんつった。なんでその名前を知ってんだ!?」
姉はこのゲームの運営チームに所属する一人。確かにこのゲームのことを話していれば珍しいことだが、運営スタッフの名前が出てくることもあるかもしれない。
しかし、今の口ぶりからして、このメイドは俺にメグミという姉がいると知っていたように聞こえる。
一体、どういうことだ。
「……気が変わった。会ってやろうじゃねえか。ほら、主のとこまで連れてけよ」
「ああ、それともうひとつ。テイムモンスターも含め、お一人で来て頂きます」
「お兄ちゃん……」
「アウィン、ラピスとトパーズを連れてオッドボールへ戻ってろ。いつでも来れる準備はしてろよ」
ラピス達がいなくても、最悪の事態には《リコール》が使える。
三人呼べばMPが三千も減るが、手数を増やすのが最優先だ。
「心配しなくても、戦闘可能区域へは出ませんよ。貴方に危害が加わることはありません」
「そっちの言い分を真に受ける義理はねえな。誘い込まれてやろうってんだ。相応の準備はさせてもらう」
「はあ、そうですか。無駄になると思いますが。では、こちらへどうぞ」
「お兄ちゃん、無事に帰って来てくださいね!」
「保証はできない」
「い、いつでも呼んでくださいねっ!?」
「ああ」
メリーに続いて路地へと向かう。
エリーは何故、俺の姉を知っているのか。何を話そうとしているのか。姉貴に何かあったのか……?
気になる。気になってしまっては調べないと落ち着かない。
「テイク様」
「……んだよ」
「先ほどのアウィン様とのやり取り、あれでよろしいんですか? 日本男児としてのプライドというものはないのですか」
「何だそれ、いつの時代だよ」
「……残念です」
なんか、勝手に落胆された。なんだこれ、俺が悪いのか?
そこからは、何を話すわけでもなく、黙々と歩き続け、ある路地の一角で急にメリーが足を止めた。
付いていくしかない俺も立ち止まるが、いや、ここって路地だよな? こんなとこにエリーがいんのか?
「テイク様、もう少しでエリーお嬢様の待つ場所へ到着致します。ですが、貴方に伝えておかなければならないことがあります」
「そうかい。んじゃ、さっさと言って、さっさと行くぞ。さっきも言ったが俺は暇じゃうぐ!?」
振り返ったメリーがいきなり俺を壁へと押し付けた。町の中なのでダメージはないが、急に何すんだこのメイドは!?
「もし、万が一、お嬢様へ手を出そうとしたならばただじゃおかない」
「はあ!?」
「少しでも変な気を起こしてみなさい。後悔することになるわよ」
「ふざ、けんな!」
メリーを押し返して拘束を抜ける。ガントレットが押し付けられてちょっと痛かったじゃねえか。
てか、エリーがなんだって!?
「では、こちらです」
「おい、ちょっと待て。今のは何だったんだよ!?」
「そのままの意味です。貴方が戦闘準備をしているのならこちらも警戒する必要がありますので。これは警告です」
俺が戦闘を考慮して動くのなら警戒する。確かに理には
口で言えばいいじゃねえか。
「くれぐれも、私達を失望させないでくださいませ」
勝手なことを言って歩き出すメリー。上から目線にも程がある。
エリーにしろ、アイクにしろ“青薔薇”にはこんなやつしかいないのか。
だが、そんなことを言っていても仕方ない。俺は姉貴という人質を取られているようなもんだ。
ここまで来たのに帰るわけにもいかない。
さあ、この世界のことと姉貴のこと、聞かせて貰おうじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます