第3章「闘技大会編」

第五十一話「大会準備」

 第二の町、ローツ。

 そこから南へ歩いた草原にて、動物を追いかけたわむれる人影があった。


「《火球》!」


 訂正。

 動物を燃やしてやろうと悪虐非道の限りを尽くしている人影だった。

 まあ、俺なんだが。


「いやー、新しい鞭が予想以上に便利だな。INT知力値が四十上がるってことは単純計算でステータスが今までの五倍。消費するMPも節約できる」


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 スケルトンの呪鞭 武器


 スケルトンウィザードの持つ

 杖芯が埋め込まれた鞭。

 呪いがかかっているため、

 移動に制限がかかる。


 INT知力値 +40

 DEX器用さ・素早さ -30

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 プレイヤー名:テイク

 種族:ヒューマン

 ジョブ:テイマー(Lv.27)

 HP  1000/1000

 MP  5244/5950 (used 36)

 ATK  10

 VIT  10(+6)

 INT  10(+40)

 MIN 10

 DEX  10(-24)


 スキル

 《鞭》Lv.1

 《火魔法》Lv.1

 《水魔法》Lv.1

 《土魔法》Lv.1

 《風魔法》Lv.1

 《光魔法》Lv.1

 《闇魔法》Lv.1

 《HP自然回復》Lv.6

 《MP自然回復》Lv.1

 《即死回避》Lv.1

 《魔法複数展開(Ⅱ)》Lv.☆

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 六日前、泥蛙戦へ行く時に繭から渡されたスケルトンの呪鞭。普通、レベル二十七だとINT知力値が百は軽く超えているはず。マイナスがある分それでも大幅な強化にはなるだろうが、倍にはならない。

 その点、俺は初期値だったからステータスが一気に上がった訳だ。先に進むにつれ敵も強くなっていくと思うが、今のところはMPが足りなくなることも無く、《MP自然回復》でまかなえている。


 ちなみに、闘技大会に備えてラピス達のレベル上げをしていると、俺のレベルも二つ上がった。

 六日でレベル二つ。やはり、テイマー道はイバラの道のようだ。


「ラピスも強くなった……よな? お前が戦うところをあんまり見ないからなんとも言えないんだよな。あー、うん。分かった。俺が悪かったから頭を包み込むのはやめてくれ。視界が青で染まる」


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 モンスター名:ラピス

 種族:マルチスライム(Lv.20)

 HP  800/800

 MP  210/210

 ATK  3

 VIT  9

 INT  2

 MIN 196 (used 20)

 DEX  1


 スキル

 《粘着》Lv.1

 《吸収》Lv.1

 《分裂》Lv.5

 《擬態》Lv.1

 《物理攻撃無効》Lv.☆

 《被魔法攻撃5倍加》Lv.☆

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 ラピスが俺の目から撤退して頭の上で一つにまとまる。景色がラピス色だとウィンドウだって見にくい。

 よし、今回のレベル上げ目標のレベル二十は達成してるな。スキルポイントはいつも通り《分裂》に振っておこう。


 《分裂》がレベル五、か。

 つまり、ラピスは最大三十二体に分裂ができるようになった。笑いが止まんねえな、おい。

 そして、MIN精神力もほぼ二百だ。これなら、ちょっとした魔法を無効化することだってできるかもしれない。

 相手のINT知力値にも寄るんだろうが、これは要検証案件として覚えておこう。


 ちなみに、さっき俺の頭を包み込んだのはラピスが《分裂》をして、かつ、《粘着》スキルで自分の分身を自身にくっつけ支えていたのだ。

 ラピスが溶けたとか、そういうんじゃないぞ。


「さてと、ラピスのレベルが上がったってことは、そろそろあいつもレベルが上がってんじゃねえかな」


 ウィンドウでテイムモンスのレベルを確認しようと視線を動かす。

 メニュー開いて、職業の欄から……。


 ここで突然、前方約二十メートル先に砲弾が着弾。砂煙が舞う。

 砂煙が風に流され、無残にも細く削られた地面があらわになる。


 白いふわふわな毛並み。くりくりとした真ん丸な瞳。トパーズ色に着色して貰った金属三角錐を自前の角に装着した、小さなウサギ。

 どうやら、トパーズ怪物が帰って来たようだ。


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 モンスター名:トパーズ

 種族:ホーンラビット(Lv.20)

 HP  2500/2500

 MP  20/20

 ATK 198(+10) (used 20)

 VIT  5

 INT  2

 MIN 2

 DEX  6(-3)


 スキル

 《跳躍》Lv.5

 《気配察知》Lv.1

 《採取》Lv.1

 《ハウリング》Lv.☆

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 武器補正も合わせるとついにATK筋力値が200を超えた。見た目からは想像もつかない筋力を秘めているウサギだ。

 町の中では女性プレイヤーの注目を集めまくる存在が、戦いの場では死を振り撒く砲弾と化すなんて、誰が予想するだろうか。


 トパーズが飛んできた方向を確認。

 見渡す限り、小さなクレーターが散見できるな。恐らく、視界に入っているのはトパーズの狩り範囲の端っこ部分。もっと奥へと行けばそこは戦場跡地となっていることだろう。

 戦場と言っても一方的な蹂躙ワンサイドゲームだったことは間違いない。


 ここまで話せば分かっているだろうが、俺達は別れてレベル上げを行っていた。同じマップ内にいればテイムモンスが倒した経験値が俺と全てのテイムモンスに入る仕様を利用した形だな。

 トパーズは一人で狩りをした方が効率がいい。遠くから文字通り一足で近付き、軽めに角でチョンとすれば敵モブは消えていく。もちろん、最低限のラピスアーマーはけていたが。

 ここは草原なので角が突き刺さるようなものもない。思いっきりジェノサイドを遂行できたはずだ。


 そして、もう一つのチームが俺とラピス。俺が固定砲台になって、近付かれた敵はラピスで防御。といった感じだ。

 纏めて来られるとどうしても処理しきれず、攻撃を受けてしまうことが何度かあった。

 ラピスが受けきれるなら衝撃が伝わるだけで問題ないが、ラピスはトパーズ達のアーマーもしているし、元々がバスケットボール程の大きさしかない。俺がダメージを負うこともあった。


 問題は、既にもう少しで《即死回避》が発動しそうってことなんだよな。ボスならともかく、雑魚敵からの攻撃ですら即死するHPとVIT生命力。いや、危なかったのはクリティカルになった攻撃だけだったが、これはなかなか精神的に来るものがある。

 慣れ始めて来たとは言え、《即死回避》は辛いのだ。


「よし、トパーズも来たことだし、俺達もアウィンのとこに向かうか。アウィンはラピス達よりも後にテイムしたからレベルの上がるタイミングは遅いはずだし」


 トパーズの来た方向とは、反対方向を見る。

 誰もいないように見えるが、今もアウィンは戦っているのだ。


 サバイヴミートの肉 ×99

 スマッシュポークの肉 ×99

 ドライブチキンの肉 ×99

 …………


 今も刻一刻と増え続けている敵モンスターからの盗品と遺品達。

 そんなに盗んで何に使うってんだよ……。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「誰もいない」


 何だこれは。アウィンどころか、敵モブすらもいないぞ。

 プレイヤーがいないのは、泥蛙戦前にユズ達とレベル上げをした時のように、不人気な場所を選んでいるからだ。


 ただ、あの時よりも四日前辺りから妙にプレイヤーが増えたんだよな。そのせいで、俺達は毎回、遠いところまで歩き続ける羽目になった。俺達のレベル上げ方法は他のプレイヤーからすれば迷惑になることもあるし、仕方ないことだがな。

 トパーズのやり方とか、迷惑この上ない。


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 モンスター名:アウィン

 種族:町盗賊(Lv.20)

 HP  637/2110

 MP  20/20

 ATK  2(+4)

 VIT  2(+3)

 INT  2

 MIN 1

 DEX 210 (+5) (used 20)


 スキル

 《盗む》Lv.5

 《暗器》Lv.1

 《隠密》Lv.1

 《気配察知》Lv.1

 《闇魔法》Lv.0

 《罠設置》Lv.0

 《罠解除》Lv.0

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 ウィンドウで、アウィンの状態を確認。DEX器用さ・素早さがステータスのみで200を超えたか。どんなスピードになっているのやら。

 ふむ、やられた訳では無さそうか。だが、問題はHPだ。半分以上削られている。アウィンのVIT生命力では、恐らくあと一発食らえばお陀仏だ。


「アウィンのやつ、一体どこで何やって」

「お兄ちゃん!」

「うわっ! おま、いきなり出てくんなよ。何やってたんだ」


 後ろから急に出てきたアウィンにとりあえずHP回復薬を渡す。周りに敵がいないとはいえここは戦闘区域。HPが減っているなら回復するに越したことは無い。


「ありがとうございますっ! えへへ、ちょっとドジしちゃいました」

「お前が鈍臭いのはいつもの事だろ」

「臭い!? お兄ちゃん、わたしいつも臭かったんですか!? あわわ、どうしよう! と、とりあえずお兄ちゃん、わたしから離れてください! 嗅がないで!」

「意味が違えよ。それよりも、この辺りの敵はどうした? 倒しても無限にスポーン生成するだろ?」

「それよりって何ですか!? 女の子にとって死活問題ですよ! それに、ここの牛さん達は倒してません」


 は? 倒してない?

 だが、俺のアイテムボックスには大量の素材が。

 てっきり《盗む》スキルと倒した時のドロップ品だと思ってたんだが、もしかして、これ全部盗んだやつか!?


「やっぱり、盗んでいい相手からは盗めるだけ盗みたいじゃないですか。だから、まず盗んでから倒そうと思ってたんです。盗んだ相手はわたしを追い掛けてくるので、まだ盗んでない相手かどうか分かりやすくて楽でした!」


 ああ、なんか、オチが見えた気がする。

 《盗む》スキルは小さなダメージが発生する。つまり、タゲを取ってしまうのだ。

 そして、アウィンはその敵を倒さずに次の敵へと盗みに行き……。

 と、そうやって繰り返した結果待っているのは。


「盗むところまではよかったんですが……。あんな風に追いかけっこの鬼がいっぱいになっちゃって困ってました」

「なんでお前、トレインしてんだよっ!?」


 多くのモブからタゲを取りながら移動するトレイン行為。

 それを意図せず引き起こしたアウィンの後ろからは、大量の牛豚鶏が土煙をあげて迫って来ているのだった。

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