第四十五話「アウィン≒カエル」

「ズルい」

「まだ言ってんのかユズ。いい加減、諦めろ」

「もっと先に進んでレベルを上げてから挑もうよ。きっと、そっちの方が楽だよ」

「それでも羨ましいのよ! 《魔法複数展開》とか! ソロじゃないのにソロ討伐報酬とか!」

「運営に言ってくれ、俺に言うな」


 現在、北の第二エリア。ラピスと同じマルチスライムがズリズリピョンピョンしているスライム天国である。

 初日から二日間、ずっと狩り続けていたせいでもはや見慣れたいつもの場所だ。今でも時々金策のために訪れては魔法で燃やし尽くしている。

 ちなみに、ラピスもトパーズも同族殺しについて思うところはないようだ。今日も元気に同じスライムを毒におかして、ウサギにタックルをかましている。


「しかも、テイクのレベルはまだ十八なのよ!? トパーズちゃん達のレベルだって十二か十三って言うし!」

「ユズ達のレベルは二十五だったっけか。テイマーのレベル上げ遅すぎんだろ」

「テイクがあんまりレベル上げしてないのもあると思うけど」


 ま、一区切りつくか、詰んだら上げるさ。上げなくても進めるなら問題ないだろうし。

 そういえば、テイムモンスを待機状態にさせることもできるんだよな。大狼の靴を作って貰ってる間にアウィンだけを連れて行こうとした時、初めてテイムモンスのメニュー欄に待機ボタンがあるのを知ったよ。

 ヘルプ読めばあったのかもしれないが、俺は説明書を読まずにゲームするタイプだ。

 この待機機能を使えば、効率的にレベル上げできる気もするな。


「ねえ、ユズ。もし、レベル十二から十八のパーティで“森林の大狼リェース・ヴォールク”やスケルトンウィザードに挑んだら勝てると思う?」

「パーティの質にもよるけど、勝てなくはないと思うわ」

「そりゃそうだろ。俺達で勝てたんだからプレイヤーで組めば余裕だって」

「ただ、周回が安定するとは思えないわね。高速周回なんてもってのほかよ」

「相性がよかったんだろうな」


 極振りは相性の善し悪しで勝ち負けが決まるようなもんだ。成金骸骨とはATK筋力値極振りのトパーズと相性がよかったからな。

 それに比べて一般的なステータスの上げ方をすれば、大体の敵には対応できるだろうし、突破口も見えるはず。


 ユズとケンは平均的とは言えないが、アタッカーとタンカーで二人パーティとしてはいい組み合わせのはずだ。それなのに、北のボスで苦戦してるのはどういう事なんだろうか。


「なあ、北ボスの……泥蛙だっけか? どんなやつなんだよ。お前らがこんなに負け続けるなんてよっぽど強いのか?」

「……あー、なんて言えばいいのかしら」

「えーと、実は“沼の主 異形の泥蛙マッドマスター”はね、強くなった・・・んだよ」

「ごめん、意味が分からん。βの頃は弱かったってことか?」

「それも合ってるわ」


 ますます意味が分からなくなったぞ。

 アウィンが盗んできたスライム素材を受け取りながら考える。

 β時代に弱かった敵が製品版で修正されて強くなることはある。それなら分かるんだよ。だが、それの他に“強くなった”ってことのどんな意味があるってんだ?


「βの時は、簡単に狩れて経験値も美味しい敵モブだったんだけどね」

「《火魔法》か《光魔法》を当てて、皮膚が固くなったところを物理で殴る。魔法が当たれば怯んで動かなくなるし、怯みから回復する時にもう一度火か光の魔法を当てればまた怯む。これなら殴り放題よね」

「で、ボスだから経験値美味しいし、攻撃が飛んでこないからレベルが低くても安全に狩れるってことか」


 聞いただけでもボーナスモブでしかないな。βではさぞかし狩られまくったのだろう。やられた泥蛙は何体になることやら。

 だが、疑問は深まったな。ユズは《光魔法》を持ってたはずだ。そんな奴になんで負ける?


「製品版の泥蛙はとにかくずる賢いのよ。多分AIが変わったのね。それか運営の一人が動かしてるか」

「それってリアルタイムでってことか? そんな話聞いたこともねえぞ」

「でも、そう思っても仕方ないぐらい変な動きをするんだよね。僕の《挑発》スキルも効き辛いし」

「《挑発》が効かないボスがいてもおかしくないと思うんだが」

「もう、色々疑わしくなっちゃうぐらいとんでもないってことよ!」


 なんだその説明。百聞は一見にしかずってことか。

 ずる賢いやつねえ……。


「お前も大概ずる賢いかもな」

「あ、難しいお話終わりましたか!? あと、はい! マルチスライムの核と粘液です、お兄ちゃん!」

「おう、ご苦労」

「完全に使いっ走りになってるね、アウィンちゃん」

「それを嬉々としてやっちゃってるアウィンに犯罪臭がするわね」

「あらぬ誤解を産むな。こいつは俺のテイムモンスだ。別にいいだろ」


 それに、俺が強要してる訳じゃない。このエリアに来た時、アウィンはすぐにスライムから素材を盗みに行ってしまう。恐らく、スライム素材が癒香に高く売れることを知っているからだろう。

 ダメージ判定はあるからタゲを取ることになるが、アウィンがスライムの攻撃を受けるはずも無い。俺のとこへ戻ってきたタイミングで、アウィンに向かって来ている見える範囲のスライムを狙い撃つのがいつものやり方だ。

 今はユズとケンもいるから負担は少ないがな。


「そういえば、アウィンちゃん達もAIで動いてるNPCだよね。全然そんな気はしないけど」

「最初に会ったカリムさんとは受け答えの仕方もはっきりしてるわよね」

「カリムって誰だ?」

「ほら、ユズのNPC破壊伝説の被害者だよ」

「あー、突発性痴呆症のやつか」

「あんた達ちょっと酷すぎない? あと、私は壊してないわ! 断じて!」


 だが、あれからカリムという名のNPCを見ることはなかったそうな。

 これは、ちょっと弁護のしようがないな。完全にブレイクされてんだろ。恐ろしい。


「で、アウィンがどうしたんだよ」

「うん。その北ボスの“異形の泥蛙”がアウィンちゃんと似てるなーと思って」

「アウィン、お前カエルに似てるんだとさ」

「え!? そ、そんなことないもん! ケンお兄さん、なんでそんなこと言うんですか!? 意地悪です!」

「待って、誤解だよアウィンちゃん!」

「わー、ケンお兄さんひどーい」

「女の子とカエルを似てるなんて言っちゃダメよー、ケンお兄さーん」

「テイクとユズは黙ってて! てか、テイクのせいだからね!?」

「ねえ、お兄ちゃん。私、カエルさんみたい?」

「むしろ、トパーズがカエルっぽいな。いつも跳んでるし」

「はっ! 確かにトパーズさんはカエルさんです! あ、ごめんなさいトパーズさん! 睨まないでくださいっ!」


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「ここか。北のボス前広場は」

「これでテイクもイワンの町からここまで転移できるね」

「で、どう? 攻略できそう?」

「話を聞くだけじゃ何ともなあ……」


 和気藹々わきあいあいと話しながらボス前広場へ到着。どうやらボス戦フィールドは沼地になりそうだな。沼の奥に進む道が一本だけある。ここを行けばボス戦の開始なんだろう。

 あと、プレイヤーの多いこと多いこと。どんだけここのボスで詰まってんだよ。


 そういや、俺も一緒になって雑談しまくったせいでもあるんだが、結局ボスの情報はあまり分からなかった。

 分かったのは、俺がラピス達に自我があるんじゃないかと思うように、この北ボスにも自我があるかもしれないってことぐらい。それでケンは、泥蛙とアウィンが似てるなんて言い出したのか。

 ちょっと二足歩行してるカエルを想像しちまったじゃねえか。あの後、アウィンを見る度に吹き出してしまって、拗ねたアウィンをなだめるのに苦労した。


 で、攻略法だが、正直、今でも何が何だか分からんってのが感想だ。

 こればっかりは挑んでみないことにはな。


「ってことで、アイテムも全部置いてきたしいざ出陣」

「死に戻り前提なのね」

「お前らが死にまくってる相手に初見で勝てるなんて思わねえよ」


 ボス前広場からボス戦フィールドへ行くために、背の高い草が両脇に生えまくっている道を進む。あまり歩かない内に視界が広がった。

 そこは、沼に周りを囲まれた円形のボス戦フィールド。

 そして、北ボスである泥蛙との決戦場……だったはずなんだが。


「あー、えっと、これはどういうことだ?」


 ボス戦フィールドはもぬけの殻。

 沼の主は不在だった。

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