第四十三話「答え合わせ」

「それで? スケルトンウィザードは倒せたのよね?」

「でもテイクが言うには、ラピスちゃんもトパーズも致死量のダメージを受けたはず。どうやって勝てたの?」


 一度ボス戦フィールドから戻ってきて、現在、オッドボールの談話室内。

 そこには、ユズとケンもいて、ちょうど死に戻りしてきたらしい。北のボスはどんだけ強いんだろうか。


 今は別に急ぎの用もなかったから情報交換することになり、俺達のボス戦を話したとこだな。


「最初、スライムで色々実験してただろ。その時に二体同時に着弾させたらどうなるかの実験もしたの、覚えてるか?」

「ストライクアウトの二枚抜きだね」

「あー、なんかやってた気がするわ。確かダメージが八割に減少するとか言ってたわね」

「ああ、それだ。で、今回はトパーズに七体のラピス。合計八体が魔法にぶち当たることになる」


 すると、どうなるか。もちろん威力の減衰が起こる。障壁のダメージは恐らく継続ダメージ。だとすると、攻撃魔法よりもダメージは低いはず。

 成金骸骨の火球や闇球は、威力を五倍にした俺の魔法で相殺できたことから大体の威力を割り出せる。

 Lv.1のホーンラビットを一撃で倒すのに必要な魔法は威力二倍。Lv.1のトパーズはHP600。トパーズのMIN精神力はLv.1から変わっていないので攻撃魔法をそのまま食らえばおよそ1,500のダメージを食らっていたのだろう。


 そこで、もし二体同時に着弾させるとどうなるか計算する。1,500の八割は1,200。トパーズのHPは1,380なので耐えられる。

 だが、障壁を張られた時のダメージは分からない。継続ダメージと同じか、もしかするとその時だけ大きいのかもしれない。

 そこで、ラピスを出来るだけ付けて威力の低減を狙ったのだ。


「結果的にトパーズは生き残って、突撃をスケルトンウィザードに当てられたってことかあ。なるほどねえ」

「それは理解したわ。でも、継続ダメージを食らい続けたらトパーズちゃんは死に戻っちゃうじゃない。ラピスはもういないんでしょ?」

「……ああ。最初のダメージを分散させた時にトパーズと一緒にいたラピスは全滅した」


 魔法の無効化を七体の内誰かが成功させる可能性も無くはなかったが、さすがに無理だった。

 救いは、恐らく即死だったことだろう。アウィンが言うには、即死なら痛みは感じない。


 トパーズはダメージを食らって生き残ったことからきっと痛みを感じたはずだ。だが、テイムモンスは痛覚設定がHPの割合ではないらしい。

 アウィンに通訳してもらうと、どうやら身体の内側が熱くなったとのこと。敵の魔法を受けてそれだけで済むはずもないと思うのだが、強がっているんだろうか。


 そして、トパーズが死に戻らなかった理由だが、道中でスケルトンを貫通した時を思い出して欲しい。

 もちろん、スケルトンウィザードよりも格下だが、どう見てもオーバーキルで勢いがほとんど落ちることなく骨を貫いて跳んでいった。

 俺は、スケルトンウィザードでも、一撃で葬れば貫通できると考えたのだ。あの成金骸骨、物理防御が低いからこそあれだけ物理攻撃へ当たらないように動いていたんだろうしな。


 そのために、成金骸骨を中央へ誘導させた。本当はトパーズの突撃が届くところなら場所は中央じゃなくてもよかった。それでも、中央に出現させたのは、貫通した後トパーズが壁にぶつからないようにするためだ。

 壁に当たって止まったら、まだ障壁の中でした。なんてシャレにならないからな。


「なるほどー。それを初見で見破って、活かして、撃破した訳だ。さすが変態」

「おいケン、誰が変態だ」

「何度も戦って、死んで、データを集めるのも、初見で敵の動きを把握して作戦を組むのも常人じゃなかなかできない事なのよ。変態さん」

「お前らも俺の立場になったらこれくらい思い付くだろ」

「付かない!」

「私達は変態じゃないから!」


 解せぬ。凄い剣幕で否定された。

 極振りで勝つには必要なことだろ。


「ま、テイクがスケルトンウィザードに勝った方法も面白かったけど、私としてはもっと興味深いものがあるわね」

「ソロ討伐報酬、だね」

「大狼の魂か」


 三人でトパーズを見る。

 後ろ足で立って前足で毛づくろい中。俺達が見ていることに気付き、ジッとこっちを見詰めてくる。

 うん、可愛い。


 その後ろでアウィンが苦笑いしてるな。どうしたんだ?


「ああ……。やっぱりトパーズちゃんは私の癒しね。早く私のものにならないかしら」

「ならねえよ。なに期待してんだ」

「トパーズがあの“森林の大狼”の《ハウリング》を使うなんて想像つかないね」

「あれと比べたらお粗末なもんだけどな。今見せてくれとか言うなよ。MP消費があるから使った後MP回復薬使わないといけなくなる」


 あれ、結構高いんだよ。しかも、MP回復薬にはいい思い出がないし。

 ……何だろう。何か忘れていることがある気がする。でも、思い出したくない。

 いいや、気にしないでおこう。


「スケルトンウィザードを倒した時はなかったのよね?」

「ああ。スクショは撮ってるぞ」


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 東の森ボス“森林の大狼リェース・ヴォールク

 討伐報酬


 大狼の毛皮 ×3

 大狼の素材 ×7


 東の森ボス“森林の大狼リェース・ヴォールク

 ソロ討伐報酬


 なし


 東の森ボス“森林の大狼リェース・ヴォールク

 初回ソロ討伐報酬


 大狼の魂 ×1

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


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 西の洞窟ボス“スケルトンウィザード”

 討伐報酬


 スケルトンウィザードの素材 ×12


 西の洞窟ボス“スケルトンウィザード”

 ソロ討伐報酬


 なし

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 ん? 並べてみると違いがあるな。


「初回ソロ討伐報酬がないわね」

「そのプレイヤーが初めてソロクリアしたら貰えるって訳じゃないんだね」

「ってことは全プレイヤーで最初にクリアしたら貰えるってことだな」


 “森林の大狼リェース・ヴォールク”に関してはテイマーのようにソロでも戦力を分散させないとどうしようもないだろうから俺が初のソロクリアでも納得だ。

 スケルトンウィザードを既にソロクリアしたやつがいるのか。俺と同じテイマーだろうか。


「スケルトンウィザードのソロクリア、僕も出来るかも」

「は? いや、魔法で集中攻撃されて詰むだろ。あの骸骨、相手が一人だと一発しか魔法撃たないから休みないぞ」

「あー、つまりケンは半ゾンビプレイする訳ね」

「半ゾンビプレイ?」


 ゾンビプレイってのは、簡単に言えば死に戻り前提で挑み続ける方法だ。“森林の大狼リェース・ヴォールク”戦での俺の戦い方に似てるな。

 だが、相手もHPが回復したらあまり意味がない。何度も死に戻りして、少しずつダメージを蓄積させるのがゾンビプレイの真骨頂だ。


 で、ユズの言う半ゾンビプレイってのは何だ?


「要するに、死んじゃう前に回復しちゃえばいいのよ。そうすれば死なないでしょ」

「いや、クールタイムがあるだろ。回復魔法と回復薬を連続して使うには再使用までの時間を待たないといけない。その間魔法が飛んでくるし、攻撃出来るのは障壁を出している時だけ。多分間に合わないぞ」

「僕には《応急処置》スキルがあるから」


 ……あったっけ?

 ケンのステータスを見たのなんて何日前だよ。

 メール欄のケンから送られてきたものを確認する。あー、確かにあるわ。


「《応急処置》はアイテムをノータイムで使用できるスキルだよ」

「は、何それズル過ぎだろ。回復しまくれんじゃねえか」

「もちろん、デメリットもあるわよ。使用したアイテムは一度に五つ消費され、しかも効果は半減するの」


 つまり、《応急処置》を使うと十個で普通に使う一回分になるってことか?

 うわ、破産待ったなしだな。

 で、これでゾンビプレイするってなると……。


「ケン、お前そんな金ねえだろ」

「一応、ソロで勝つ方法はあるってだけで現実的ではないよねえ」

「でも、スケルトンウィザードの魂、もしあるとしたら欲しいわよね。“森林の大狼リェース・ヴォールク”が《ハウリング》なら、スケルトンウィザードは?」


 魔法同時発動か、障壁バリア展開。


 スケルトンウィザードの技で珍しいのはこの二つか。

 これは、何としてでも欲しい。一度に二つの魔法が撃てれば戦略の幅が広がるし、障壁も懐に入り込まれた時にぜひ使いたい。


「私も魔法剣士として、二つの魔法が撃ちたいし、障壁展開しながら駆け回って撹乱したい!」

「でも、初回ソロ討伐報酬は別プレイヤーが取ってっただろ」

「アンタね、こんな便利なものを一人のプレイヤーに独占させるゲームないでしょ。手に入れる方法はあるわ」

「ズバリ、それは?」


 ケンの合いの手に乗っかったユズは自信満々に言い切った。


「ソロ討伐報酬よ」

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