第四十一話「天は荷物を与えない?」

『カカカカ』


 障壁バリアか。

 恐らく、あの内側に入って攻撃をすればダメージを食らうんだろう。入って攻撃して離脱。その後、回復してもう一度入って攻撃して、の繰り返し。

 普通はそれで勝てるのだろうが……。


「問題は俺達の中に耐えられそうな奴がいないってことだな! 《火球》!」


 俺を狙う魔法を撃ち落としながら考える。もう一つ闇球も撃ってくるが、トパーズとアウィンは避けられるから放っといていい。

 消費MPは1,200。七倍だ。これでも少し押し返せるか。次は六倍を試そう。

 で、ここで悪い知らせだ。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 プレイヤー名:テイク

 種族:ヒューマン

 ジョブ:テイマー(Lv.18)

 HP  1000/1000

 MP  516/3160 (used 27)

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 今の《火球》でMPが底をついた。次に六倍で撃ち落とせるのは四十秒後。

 それまでには、確実に撃って来るんだろうな。

 くそ、何か手はないのか。


 そういえばあの骸骨、アウィンの攻撃をテレポートせず障壁で防御したな。

 もしかして、テレポートは連続で出来ない?


 お、障壁が消えた。これで、攻撃を当てたらテレポートしたりとか?


「《光球》」


 消費MPは20。普通の魔法だ。これを障壁の消えた骸骨へ撃ったんだが、HPが少し減っただけ。動じない。

 予想が外れた? まだテレポートは出来ないのか。


 いや、結論はまだだ。さっきと攻撃の種類が違う!


「アウィン! 行け!」

「はい、行きますっ!」


 魔法を避けるため遠ざかっていたアウィンが成金骸骨に急接近する。

 さすが、速い。ボス戦フィールドは“森林の大狼リェース・ヴォールク”の時よりも少し狭いがそれでも、端から端まで四十メートルはある。

 それを六秒程で走り抜けた。中学生女子としては速すぎないか。しかも、あの走りにくそうな大狼の靴でだぞ。

 まだまだ極振りはここから伸びる。今後が楽しみだ。


 ガリィィ!


「やっぱ、テレポートしたか。てか今、壁に当たったけど刃こぼれとか大丈夫なのかね」

「あ! 逃げられました! 盗れませんでした!」

「ん? もしかして……アウィン! お前、《盗む》スキルを使ったのか!?」

「え、あ、はい! だって、お金欲しいです!」


 《盗む》スキルはほとんど威力のない攻撃だ。アイテムを盗れるってことがメインだし、当然だな。それでもテレポートしたってことは威力は関係ないのかもしれない。恐らく、物理攻撃が当たる時にテレポートするんだろう。

 アウィンの金への執着心で退散させたってことは、きっとない。……と、思う。


 さて、出現位置がどこか割り出さないとな。俺の予想は、俺達と一番距離が取れる場所に出てくるんじゃないか。というもの。

 俺とラピスが今いる場所を六時とすれば、トパーズは八時、アウィンは十一時の場所。

 ってことは。


「二時半の位置、十二時から七十五度!」


 俺がその場所を見ると同時に出現する成金骸骨。

 よし、きっと俺の予想はあってる。

 テレポートで見失い、不意を突かれることはなくなったな。


 骸骨からの魔法はトパーズとアウィンへ。危なげなく回避する二人。次の魔法を撃ち落とせる程度のMPも回復した。

 仕掛けるなら、ここだ!


「トパーズ、こっち来い! アウィンは障壁を骸骨に出させてから来てくれ!」

「障壁って何ですか!」

「……バリアだ!」

「キュイン、パンッ! のやつですね!」

「ああ、うん、多分そうだ!」

「任せてくださいっ!」


 アウィンはどうしてこうも残念なやつなんだ。もうちょっと脳みその出来が良ければなあ……。INT知力値上げれば変わったんだろうか。

 頭にいるラピスを手に取りながら独りごちた。今更INT知力値振る気はないがな。


 ラピスクッションで《跳躍》して来たトパーズを受け止め、アウィンを待って……。


「お兄ちゃん、ナイスキャッチです!」

「…………おう」


 いや、驚くまい。アウィンの速度的にはもう到着してるはずないんだが、こいつの身体能力は異常だ。

 障壁張られるのが分かってるなら、壁蹴って速度を落とさずに走り出すくらいしてしまうのだろう。

 ああ、これでアホの子じゃなければ……。


「お兄ちゃん、どうしました?」

「ちょっと、世の中の仕組みに嘆いてた。天はゲームでも二物にぶつを与えないらしい」

「荷物、ですか?」

「よし、作戦を説明する」


 アウィンはアウィンだ。変更はできない。

 俺がしっかりしてればいいんだ。諦めよう。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「魔法、撃って来たか! 動きは理解したな? 大事なのは位置だ。アウィン、頼んだぞ!」

「はい!」

「トパーズ、俺に向かって跳べ! うごぉぁあ!」


 容赦ねえな、こいつ。跳べとは言ったが、至近距離から全力で跳びやがった。

 ダメージは無いし、ラピスのお陰で角が刺さることもない。結果的に骸骨の火球を避けられたから良しとしよう。

 ん? 待てよ。今、魔法は一つだけだったような?


『ヵカヵカ』

「っ! また撃ちやがった!?」


 魔法一つだと連続で撃てるってことか!

 今回はアウィンの方にも撃っているから二つ。これさえ避ければ! 避ければ……。避けるってことは、アレか。


「トパーズ、もう一度頼む。でも、もちょっと優しぐぅぉぉおっ!?」


 さ、避けれた? 当たってないよな?

 ダメージが無くても衝撃はしっかり伝わっている。俺の内臓、歪んだんじゃないかな。


「お、俺はさっきの位置に戻る。トパーズも大体の位置に移動しておいてくれ。細かい調整はアウィンがやってくれる」


 大らかに頷くトパーズ。落ち着いてんな。どこか大御所の雰囲気まで醸し出してんぞ。ちっこいウサギだけど。


「お前がこの作戦のかなめだ。頼んだぞ」


 俺はさっきまでいた六時の位置に、トパーズは三時の位置へ移動する。

 アウィンも六時から時計回りに、九時を通って十二時の位置へ。

 成金骸骨の障壁も既に消え去っている。


 準備は整った、魔法を撃たれる前に早く!


「トパーズ!」


 キィィィィーーーー


 三時にいるトパーズが二時半の骸骨へハウリング。これだけ近ければ外すこともない。


 消える骸骨。出現位置は分かっている。いや、出現位置は操作した・・・・

 今、トパーズは三時、俺は六時、アウィンは十二時にいる。このままでは九時に現れることになる。だが、そこには先客。


 ラピス(1/8)だ。

 アウィンに遠回りして移動してもらったのは九時の位置にラピス(1/8)を連れて行ってもらうため。


 中心に出現する成金骸骨。よし、作戦通り。ラピスに頼らず、正三角形にするのも考えたんだが、俺達から一番距離が取れる場所が四つに増えるから却下した。正四角形なら確実に中心へおびき出せる。

 弱点、というか懸念はあるが……。ま、これは確率の問題だ。気にしてもしょうがない。


 アウィンがトパーズのいる三時へ移動する。

 トパーズの突撃にはアウィンの補正が必要不可欠だ。攻撃するには障壁が邪魔だが、そこは考えがある。

 勝つための、策だ。


「アウィン、まだか!」

「距離があって狙い辛いです! もう少し……!」

「急げ!」


 できれば、骸骨が魔法を撃つ前に仕留めたい。俺やトパーズ、アウィンに撃つのならどうとでもなる。もう一度、仕切り直せばいい。

 だが、この作戦に懸念していることが的中してしまうのは避けたい。


「トパーズさん、ここです! どうぞ!」

『ヵカヵカ』

「くそ、撃ちやがった! 狙いは俺と」


 ――ラピス!

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