第三十八話「このロリコンどもめ」
左右からコウモリが迫る。同時に対応は難しい。
それならまずは、分断だ!
「《火種》、《火種》、《火種》」
左側のコウモリの両隣りに熱と光を放つ火種を次々に生み出していく。
が、便利魔法で与えられるダメージが皆無だからか、気にも留めず突っ込んでくる。野生の動物ならまだしも、AIには効かないか。
それなら。
「《土種》!」
指定した場所に土を出現させる
で、戦闘職はどうしろと。家庭菜園でもやれってか。
俺は敵を分断するために使うが、どうせ本来の使用用途とはかけ離れてるんだろ。
便利魔法と攻撃魔法を同時に使えることは確認済み。土種や火種、光種が存在していても攻撃はできる。
《土種》の消費MPで変えられるのは量と体積。つまり、この二つを弄ることで土の固さを変えられるってことだな。
左から飛んできたコウモリの前に出現した土は、量を二十倍した消費MP200の代物。と言っても、普通の《土種》が銭湯とかの洗面器分程度しかないから大量って訳でもない。
しかし、飛行中に頭上から土が降ってくれば回避するしかないだろう。ダメージは無くても質量はある。俺が《土種》で指定したのはコウモリの通るであろう経路の少し上。そのまま突っ込んで来ていたら土に潰されていたかもな。
これで、右から来るコウモリに集中できる。
「アウィン、俺の手を取れ」
「ふぇ!? お、おおお、お兄ちゃん!? この手を取ったらわたしの全てを捧げるとかそんな契約が結ばれちゃったりしちゃうんですか!?」
「違う。話を最後まで聞け。俺の手を」
「盗りますっ!」
「聞け」
「あうっ」
デコピン一発。いきなり何をほざいてんだコイツは。
「ほら、来るぞ! 俺の手をコウモリに合わせろ!」
「わ、ひゃい!」
照準はアウィンに任せてタイミングを計る。
まだ、まだだ。手の平から生み出された魔法が、直接当たるくらいまで引き付けろ。
「ぶ、ぶつかっちゃいますーっ!?」
『キキィィーッ』
「……《水球》」
消費MP200。威力二倍。魔法の方が効きやすいらしいし、こんなもんだろ。
俺の手から放たれた水球はすぐにコウモリに当たり破裂。土球ほどではないが、質量を持つ水球はコウモリを少し押し返す。
お、HPちょっと余ったのか。
「《スラッシュ》」
腰に差したツタの鞭を振るい、《鞭》スキルの技を使う。
魔法よりも射程範囲の狭い衝撃波のようなものが生まれコウモリに直撃。ポリゴンへと変わり消えていった。
《スラッシュ》の消費MPは30。うん、重い。
魔法無効とかの敵が出ない限り使うことはないな。射程は短い、消費は重い、鞭を振るう必要がある。魔法の方が断然使い勝手がいい。
「おおおー! ビシュ! って出ました! これ、かっこいいからもっと使えばいいと思います!」
「効率が悪い。却下」
「あ、ほら、トパーズさんも言ってるじゃないですか!」
「ああ、おかえりトパーズ。貫通した後、結構吹っ飛んだな。でも、言葉が分からん。何か言ってんのか、お前」
帰ってきたトパーズの目が、いつもよりキラキラしてる気がする。何を言われようが、俺は効率を追い求めるぞ。
さっきのは、まだ《水球》が有効ですぐに別の魔法が使えなかったし、コウモリに体制を立て直されると厄介だと思ったから《鞭》スキルを使っただけだ。
攻撃魔法は一度に一個までとか、運営の野郎、面倒な設定付けやがって。
『キキィッ』
「ああ、Lv.4のやつか。アウィン、照準は任せた」
「アウィン、任されましたっ!」
さっきのLv.2はMP200で丁度だった。テイムモンスと敵モブが同じなら、Lv.4になりレベルが二つ上がることで、魔法防御に関わる
ラピス達のステータスを考えれば、魔法の効きやすいケイブバットの元々の数値は2~4ってとこか。
つまり、さっきのLv.2の
ふむ、とりあえずさっきの二倍で撃ってみるか。
「は、早くぅー! またギリギリですかー!?」
「……《水球》」
消費MP600。威力は四倍。コウモリのHPは一瞬で消え去った。
やっぱり、相手の
MPを無駄にする可能性が高いか。あんまりやらない方がいいな。
「おし、んじゃもっと奥に行って」
「おい、そこのテイマー」
……またか。そんなにアウィンが気になるもんなのか? あれか、顔がいいからか。
アウィンは小学生か中学生だぞ。このロリコンどもめ。
「あー、こいつはクエスト用NPCで、護衛対象なんだよ。どうやらテイマー専用のクエストらしくてな。路地を駆け回ってたら」
「あ? んなことどうだっていいんだよ。それよりも、スケルトンの素材寄越せ」
……は?
おいおい、なんだコイツ。いきなり話し掛けて来たと思ったらアイテムを寄越せだと?
正気か?
「……理由を聞かせてもらっても?」
「俺が倒すはずだったスケルトンを、そこのホーンラビットに横取りされた。マナーぐらい守れ。ほら、さっさと謝って素材渡せ」
「スケルトンはこっちにタゲを取っていた。つまり、俺とエンカウントしてたんだ。横取りと言われる
「俺が倒せばドロップしたかもしれないだろうが」
ダメだ、話にならんな。
こういう輩には関わらない方がいい。付き纏われるのも鬱陶しい。無視だ。
「生憎、スケルトンの素材は持っていませんので、さよなら」
「は、正論言われたらすぐ逃げんのか。雑魚が」
はいはい、無視無視。
「お前、テイマーだろ? 雑魚職の。ボスをテイムしてるなら別だが、マルチスライムとホーンラビットとか雑魚中の雑魚じゃねえか。んなもんを連れてる時点で」
「黙れ」
「あ?」
はい、無理でした。無視出来ませんでした。
俺ってこんなに煽り耐性低かったっけ?
どうやら俺は、ラピス達のことになると頭に血が登るらしい。ま、何だかんだ言ってもこいつらのこと好きだし、仕方ないことだな。うん。
「んだよ。雑魚が
「とりあえず、人のテイムモンスをいきなり雑魚とか言ってくるやつにマナーとか言われたくないってのが一つ。テイマーは不遇かもしれないが雑魚ではないってので二つ目。んで、後もう一つは」
件の狂人に向き直り、相手の目を見て言い放つ。
俺が信じて疑わない、俺の中の事実を。
「お前が雑魚っつったスライム達は、強いぞ」
「……は? お前、頭おかしいんじゃね? 何言い出すかと思えば、スライムが強いとかある訳ねーだろ」
「根拠もないのによくそんなことが言えるな」
「理由なんざ、スライムってだけで充分だっての。はい、論破」
あー、ウザってえ。
やっぱ、関わりたくねえわ。だが、馬鹿にされっ放しってのも面白くない。何か手は……。
ん?
「やる気か?」
「雑魚のお前に現実を見せてやるよ。同じ作業ばっかで面倒だったしな。ちょいと雑魚潰しだ」
ニヤニヤ笑って気持ち悪いやつだ。
正直、コイツに付き合ってやる理由はない。ラピス達を貶されたから言い返したが、さっさと奥に進みたい気持ちもある。
だが。
俺は目の前に浮かぶウィンドウへ肯定の意思を送った。
そして広がる、PvPフィールド。
今の時点での極振りで、どこまで通用するかデータを集めてみるのも悪くないだろ。
「頑張って耐えてみろよ、雑魚テイマー」
「うるせえ、返り討ちにしてやるよ」
だからって、負けるつもりはないがな!
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