第三十七話「洞窟」
円筒型にくり抜かれた暗い坑道を手元の《光種》で照らしながら歩く。通路に何本か敷かれたレールは赤褐色に錆びており、使用に耐えうる状態ではない。
壁に等間隔で掛かったランプは割れ、ガラス片が飛び散っている。人工物が無惨に打ち捨てられているのは儚さを感じるな。
昔は大きな鉱山だったのだろう。坑道自体は何人ものプレイヤーが移動していても不自由でない程の大きさだ。広さは線路が二本ある地下鉄って感じかね。
東の森のようなオープンフィールドとは違い、決まった通路がある西の洞窟では他プレイヤーによく会う。
それはつまり、アウィンを見られる機会が増えてしまう訳でして。
「あの、すみません。一緒にいるのってNPCですよね? 何でここに?」
ほら来たよ。これ、洞窟来てから何回目だ。
何度も聞かれると対応だって決まってくる。声を掛けてきたプレイヤーへ向き直り早口で答える。
「こいつはクエスト用NPCで、護衛対象だ。どうやらテイマー専用のクエストらしくてな。路地を駆け回ってたら見付けたんだ」
「職業専用のクエストですか? 戦闘職では聞いたことないですね。弓士専用のクエストもありましたか?」
「それは、分からないが、探せばあるかもしれないな」
「確か路地ですよね、ありがとうございます!」
「頑張ってください」
大体はこんな感じで納得してくれる。嘘はクエスト用NPCってとこだけだぞ。
テイマーだからアウィンを連れてる訳だし、路地を駆け回って見付けたのも事実だ。職業専用クエストだって探せばあるかもしれない。その可能性はある。路地にあるかは知らんがな。
ああ、もう一つ嘘があったか。アウィンは護衛対象ではない。大事な戦力だ。
さすがに、人が見てそうなとこでは攻撃させてないが。
「お兄ちゃ……じゃなくて、テイクさん。もう喋っていいですか?」
「洞窟だと声が反響するからあんまり喋るな。大事なことか?」
「えっと、おしゃべりしたいなーと思いまして」
「黙っとけ」
「うう、意地悪です!」
不満そうに頬を膨らませるアウィン。頭にいるラピスと小声で話すくらいは別にいいんだがな。
アウィンにはボロを出さないよう俺のことは「テイク」と呼ばせ、出来るだけ喋らせないようにしている。
今のところは大丈夫そうだ。“
ガシャ、ガ、シャン
お、珍しい。第一エリアでエンカウントか。
第一エリアでは人が多いこともあり、敵との遭遇率は低い。俺は移動を優先しているので尚更戦闘は少ない。
全く無いわけではないが、そろそろ第二エリアだと言うのに第一エリアのエンカウントはこれで三回目だ。むしろ、アウィンについての質問者とエンカウントする方が圧倒的に多かったな。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
スケルトン Lv.2
△△△△△△△△△△△△
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
ケイブバット Lv.2
△△△△△△△△△△△△
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
ケイブバット Lv.4
△△△△△△△△△△△△
骸骨一体と、コウモリ二匹か。
スケルトンは武器も何も無い丸腰の骸骨で、140~180センチのバリエーションがある。コウモリは真っ黒で全長約20センチ。日本でよく見るコウモリに比べるとデカいな。
洞窟に来る前、オッドボールで会ったユズとケンからのアドバイスを思い出す。
「スケルトンの魔法防御は高いから、アンタのMPが無駄になるだけよ。やるなら物理攻撃にしときなさい」
「と言っても、軽い攻撃だと効果は薄いみたいだけどね。まあ、一般プレイヤーならスキルの技を使って倒すのが普通かな」
「ラピスのスリップダメージは効かないってことだな。逆にトパーズとは相性が良さそうか」
「あと、ケイブバットは厄介よ。ちょこまか動くから遠距離攻撃はあんまり当たらないわ」
「僕達だと、僕に集まってきたコウモリをユズが叩き落としていったね」
「ケイブバットには物理攻撃よりも魔法の方が効きやすいけど、物理が効かない訳じゃないし。変に魔法撃つよりも物理でしばいた方が楽ね」
「なるほど。参考にしてみるわ。で、何でお前らここにいんの?」
「死に戻ったのよ! あの泥蛙、βとは違う行動取るからやりにくいったらありゃしないわ!」
「遠距離型が欲しいとこだね」
「いや、野良で募集しろよ」
「人数集まるまで待つのが面倒!」
「苦戦するのも楽しいからね」
「……やっぱり、変人、集団」
「ちょっと、繭! 聞こえてるわよ! いつもいつも、アンタは」
はい、回想終わり。必要ないとこまで思い出してしまった。このままじゃ回想が終わらない。
えっと、スケルトンにはトパーズだよな。問題は初見のケイブバット。
今は飛んだりスケルトンに着地したり、プレイヤーの持つ《光種》や《火種》、手持ちランプでは照らせない高さへ飛んでいったりと
ケンが言っていたことを考えると、恐らく遠距離攻撃手段はない。なら、近付いてきたところで攻撃だな。
「トパーズ、頼む。アウィンはトパーズの補助だ」
「狙いは骸骨さんでいいですか?」
「ああ」
俺の肩から飛び降りたトパーズを両手で挟みこむアウィン。トパーズがよく突撃を外すのは
「もう少し右です。行き過ぎました、ちょっと戻してください。はい、そこです」
「よし、行け、トパーズ!」
トパーズが地面を蹴る。完璧な方向に飛んで行ったな。さすが、アウィン。
だが、高さはトパーズ頼り。出来れば胸を狙って欲しかったが、少し高いか?
黄色い角がスケルトンの首に突き刺さり貫通した。HPバーも一瞬で消滅だ。強くなったなー。
「お兄ちゃん、コウモリが!」
「お兄ちゃん言うな。分かってる。狙いは俺達の誰かだな。アウィン、ラピスを連れて俺の近くに寄っとけ」
どうやら、トパーズの方へ行くコウモリはいないようだ。それはつまり、あと三人の内誰かを狙っているということ。アウィンにトパーズを回収してもらう手間が省けて何より。三人が近くにいれば、俺の近くに攻撃しに来るはず。
出来れば、片方ずつ来てくれるとありがたいんだが。
「同時か!」
右側からLv.2、左側からLv.4が急降下してくる。攻撃魔法は一度に二個撃つことは出来ない。よって、対応出来るのは片方のみ!
アウィンには攻撃させたくない。というより、攻撃が出来ると他のプレイヤーに思われたくない。
んで、ラピスにコウモリを退ける程の力はないから、結論、俺が何とかするしかないってことになる。
まあ、見とけ。
こういう時に輝くのが便利魔法だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます