第二十話「双子」
ザッ、ザザッ
周囲の木から悪戯エイプが何匹も降りてくる。
くそ、何か手はないか。
悪戯エイプの攻撃方法は引っ掻きに噛みつき、体当たり。今のところ、魔法攻撃はして来ていないはず。
ここは、物理攻撃を無効にできるラピスを軸にして動くのが吉か。
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プレイヤー名:テイク
種族:ヒューマン
ジョブ:テイマー(Lv.15)
HP 545/1000
MP 1290/2415
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HPも回復しきっていない。不意打ちで攻撃されてからまだ十秒かよ。
このHPだと、さっきのが不意打ち&クリティカルだったとしても、二回殴られたら終了だぞ。
何より怖いのがトパーズだ。こいつ、この数相手でも怯みもせずに突撃しようとしてやがる。俺よりも
トパーズを抱き上げながら、近くの木まで少しずつ移動する。
後ろにも猿がいるのが分かる。完全に囲まれたなこりゃ。
そうだ、別に全部倒す必要なんてない。逃げればいい。
この包囲をラピスで攻撃を捌きながら突破して全力で走るんだ。
どこまで? 町まで。
どこから? 第二エリアから。
「詰んでんじゃねえか……。逃げるのもダメ。倒すのも難しい。どうしろってんだ」
……もういい。こうなったら最後の手段だ。
トパーズとラピスを木の根本に下ろし、その前に両手を広げて立つ。
俺が死に戻れば、きっとラピスとトパーズも一緒にイワンの町まで飛ばされるはずだ。こいつらに必要の無い痛みや恐怖は味わって欲しくない。
死に戻りのペナルティーは、一定時間取得経験値低下と所持金減少、アイテムのいくつかが無くなるんだっけか。別にいいか、それぐらい。
「さあ、来いよ猿共。俺を、殺せよ。」
あ、出来るだけ早くで。俺のHP回復しきったら、無駄に痛くなるじゃん。
あと、小分けに攻撃してくれたら嬉しいな。
なんて願いも虚しく、お猿さん達は誰が獲物を狩るのかお互いで牽制し合っているようで、なかなか飛びかかって来ない。
早くー。HP、七割まで来ちゃったよー。
と、やきもきしていた、その時。
パンッ
頭上で軽い破裂音が聞こえ、上を見上げた瞬間、光が目に飛び込んできた!
眩しい! 見えない! 攻撃いつ来るの!? 怖い!
「しーっ、落ち着け、動くなよ」
「だっ……!?」
いきなり、耳元で声が! 誰なのか問おうとすると口を塞がれたぞ。
~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~
「いやー、お兄さん、危なかったねー! まさに、危機一髪! 生きてるって素晴らしーっ!」
「何とかなって良かった。何であんな無謀なことしたんだよ」
「ああ、助かった。ありがとな。えっと……」
「あたしの名前はココ! んで、こっちがピカリン!」
「オレはテオ。ココは双子の妹だ」
このココという騒がしい女の子と少し尖っている雰囲気の男の子が、さっきの状況から俺を救ってくれた救世主だ。双子らしいが、二人とも中学生か? あの痛覚設定を知った今、年下の子があの痛みを味わう可能性があるのはちょっと怖いな。
あと、あの時、どうなったのかは正直、よく分からん。目が見えるようになったところで、猿が俺を探しまくってどこかに行ったのは見た。
やっぱり、意味が分からん。
「そうか。ありがとう、ココ、テオ。で、ピカリンってのはそのふよふよ浮いてるやつだよな? ココはテイマーか?」
ピカリンと言って紹介されたのは光るボールだ。何だコレ、こんなやついんのか? 西の洞窟とかにいそうではあるが。
「テイマー? 違うよ? あたしは治癒術師! ほら、ヒーラーってやつ!」
「ヒーラーって、あの、特別職の?」
「ん? 兄ちゃんも特別職じゃねえのか?」
「それはそうだが、俺はテイマーだ」
確か、殲滅数上位はテイマーで、下位はヒーラーだとか。
パートナーがどうとか言ってた気もするが、あん時はスライムを早くテイムしたくて焦ってたからな。ほとんど覚えていない。
ココが、そのヒーラーってことか。
「それで、俺のことを助けてくれた、ってことでいいんだよな? なんでだ? そもそも、どうやって?」
「お兄さん、質問多いねー。それでは! ココちゃんが教えてしんぜようっ! まず、あたし達が森で素材採取してたら、おんぎゃぁー! って赤ちゃんが泣くような声が聞こえたの。もっと野太かったかな?」
「それは、忘れてくれ。その後は?」
「その後はねー」
ココの説明は分かりにくかったから、省略。ポーンとか、ズバーンとか、ピッカーンとか、擬音多すぎなんだよ。
テオが説明してくれたことをまとめると、ココとテオが俺の声を聞いて、来てみると悪戯エイプに囲まれた俺達がいたとのこと。
で、手持ちのポイズンバタフライの鱗粉を詰めた袋にピカリンを入れて、猿達の頭上へと移動させた。
袋にモブを突っ込むとか、よく思いついたな。なんと言うか、中学生らしい発想って感じか。
そして、そこをココが火球で狙い撃って、爆発を起こしたらしい。なんでも、ポイズンバタフライの鱗粉は火に反応して破裂音を発するとか。
破裂音に気を取られ、全員が上を向いたところでピカリンが光魔法の《光種》、つまり光源を出来るだけ大きく展開して、目を眩ませた隙にテオが俺達の近くに移動してきた、と。
「ふむふむ、それで? それだけじゃ、まだピンチから逃れられた訳じゃないだろ」
「ふっふっふ、ここでテオの秘密兵器が登場するんだよ! じゃじゃーんっ!」
ココの音頭で仕方なさそうにテオが虚空から取り出したものは……何だ? 半透明な、布?
「これはねー、風の羽衣っていうテオのβ特典!」
「風の羽衣(β)な。効果はLv.20までの敵性モブから見つからなくなるってやつだ。βで《隠密》スキルと《裁縫》スキルを取得すると貰えた」
「《裁縫》?」
このツンツンしてる少年が《裁縫》スキルを取ってたのか。今時の男の子は多彩だな。
「んだよ、悪いかよ」
「何が? わざわざゲームで《裁縫》スキルを取ったってことは、リアルでもやってんのか。すげえな」
「……別に、大したことねえよ」
「テオ照れてるー」
「うるせえ、ココ! 照れてねえ!」
「もしかして、テオは
「ま、この服装じゃそうだろうな。だけどオレは、服飾職人だ」
二人の格好は、一言で言えばコスプレ。
ココは水色の髪に金色の眼。そして、頭に髪と同じ色の猫耳、お尻には猫の尻尾が生えていた。種族、獣人の“
テオは……その、黒髪黒目なのはいい。短い尖った耳が付いた、ノームなのもいい。服装が、忍者の格好に十字架とか傷跡とか、色々なオプションがくっついた、
この頃は格好いいと思うんだよな。いや、今でも男なら少しは思うんだろうが、それを自分で着るとなると……。
何年か後のテオが、悶え苦しまないことを祈ろう。
「とにかく、助かった。ほんとにありがとな。何かお礼しないと」
「ええ!? いいよいいよ! そんなことのために助けた訳じゃないもん!」
「ん? それじゃ、なんで助けてくれたんだ?」
「「格好良かったから!」」
おおう!?
さすが、双子。見事なハモり……ってそうじゃない。
さっきの負け犬ルート疾走中な俺のどこに格好いいとこがあったんだ!?
「最初は、何か意図があって悪戯エイプを呼んだんじゃないかと、様子見してたんだが」
「お兄さんは、怖がるウサギちゃんを抱っこして少しずつ後ろへ下がって行って!」
「それに合わせて猿達も円を移動させていくとこなんて映画みたいだったぞ!」
「しかも、その後! 頭のスライムとウサギちゃんを下ろして、お猿さん達を振り返る!」
「こっから先は通さねえ、と言わんばかりに両手を広げたところで静かな一言!」
「さあ、来いよ猿共」
「俺を、殺せよ」
「「格好いいっ!」」
「やめろーっ!?」
実況すんなよ! 説明すんなよ!
トパーズは怖がるどころか威嚇して飛びかかろうとしてただけだし、猿が移動したのも獲物の取り合いしてただけだ!
しかも、俺、そんな恥ずかしいこと口走ってたのか!?
確か、出来るだけ痛くありませんようにって祈ってたとこだろ!
「あのセリフ聞いたら、いても立ってもいられなくなっちゃったよね、テオ!」
「どうにかあの人を助けなくちゃいけない気がしたんだよな、ココ」
「そ、そうか」
「あたしたちも物語の登場人物になっちゃったみたいだったんだよ、お兄さん!」
「もう、この人に師匠になってもらうしかねえ! って思ったんだぜ、兄ちゃん!」
「お、おう。……ん?」
おい、ちょっと待て、今、テオが変なこと言ってたぞ。
「なってくれんのか! 兄ちゃん!」
「ほんと!? やったーっ!」
「え、いや、ちょ、待て待て待て! んなこと言ってねえ! 話を聞け!」
「「師匠!」」
「ちげーよ!」
ああー!
どうしてこうなった!
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