第十五話「オッドボール」
町盗賊を追い詰める方法を考えている間に、冒険者ギルドに着いた。
町盗賊のことは一旦置いておいて、まずはギルド立ち上げだ!
「……そういえば、ギルドマスターは、誰?」
「いつも通り、テイクでいいわよ」
「ギルドメンバーがほとんどいないから、ギルマスの仕事なんてないようなものだけどね」
「この三人で一番有名なのが俺だからだな!」
「ああ、うん。ある意味有名よね」
「極振りで最後までやり切る人が珍しいっていうのもあるね」
「……ん。なら、良し。ユズか、この人が、ギルマスだったら、繭がやってた」
「あの、繭さん。僕、ケンです。よろしくです」
「ん。……“やわらか城壁”の、“日和見タンカー”さん。よろしく」
「ばっちり知ってるじゃん!?」
「名前は、今、初めて知った」
「言わなくていいよ、それ!」
「はいはい。ほら、繭、受付行くぞ」
ギルドの受付嬢には三種類ある。クエストの斡旋、素材の換金、そして、その他だ。
今回はギルド登録をしに来たから、その他の受付に行けばいい。
あの、胸の大きな受付嬢だな。
「ふんっ」
「いってえ! いきなり何すんだ! トパーズ落としちまったじゃねえか」
「理由は自分の胸に手を当てて考えなさい!」
くそ、無言で足を踏み抜いてきやがった。ダメージや物理的な痛みはないが、こう、幻肢痛的な痛みを感じる。
トパーズは無事か?
どうやら、上手く着地してその他の受付へ向かっているようだな。
ん? 別の受付に行かなかったのは偶然か?
……もしかして、俺らの言葉が理解出来てるとか。
「なあ、トパーズ。お前、言葉が分かってたりするのか? もしかして、ラピスもだったり?」
左手でカウンターの上に飛び乗ったトパーズを、右手で頭の上に鎮座しているラピスを撫でながら聞いてみる。
すると、両手から二人が擦り寄ってくる感覚が!
「そうか、そうだったか。悪いな、さっきまでずっと、除け者みたいな扱いだったよな」
「どうしたのよ?」
「言葉って?」
「多分だが、ラピスとトパーズは俺達の言葉を理解してる」
「トパーズちゃん、私のとこへおいで!」
自分で角度を変えながら俺の左手で撫でられまくっていたトパーズがゴロンと寝転がる。左手はトパーズの腹。
そのまま、わしわしと手を動かしてやると前足でハシっと手を掴んでくる。
何だコイツ。可愛すぎるだろ。
「きゃーっ! 可愛い! 何この子、ヤバいよ! 萌える! 萌え尽きちゃう!」
「……繭のお店の、マスコットと、なってもらおう」
「繭、勝手に決めんな。トパーズは今もこれからも、俺のテイムモンスだ」
『ペシ、ペシ』
ラピスに頭をペシペシ叩かれた。
抗議してるのか? それとも、トパーズに嫉妬か?
「お前も可愛いやつだな。もちろん、ラピスだってずっと俺のテイムモンスだ」
ぷるぷる震え出す頭。ラピスが感極まったらしい。
最初の頃は、ラピスをすぐ解雇して別のモンスターに変えるとか言ってたし、言葉が分かってたなら結構ショックだったのかもな。
それは、申し訳ないことをした。反省しよう。
「あれ、結局、私のとこに来なかった」
「俺の方が良かったんじゃねえの?」
「テイクの言葉だけ理解できるとか?」
「ユズの、ところには、行きたくなかった。きっと、そういうこと」
「ケンの意見採用! じゃなかったら、トパーズ私に冷たいよ!」
「……あの、どうされましたか? 後ろが
バッと受付嬢を振り返るトパーズ。ユズの時とは反応が違うな。
「これは、ユズに問題があるな」
「トパーズ……どうして……」
「後ろ、誰もいないよ?」
「NPCの、固定メッセージ。放置したら、出てくるやつ」
「あー、えっと、すみません。ギルド登録しに来たんですが」
「テイク様ですね。申し訳ありません。現在のテイク様ではギルドを作ることは出来ません」
「ん? なんでだ?」
「テイクは土地を持ってないから、ね」
ああ、なるほど。
ダメな理由も教えてくれればいいのに。ギルドを作る方法が広まってないってことは、聞いても無駄なんだろうな。
多分、あのヘルプNPCみたく、突発性痴呆症が始まるんだろ。
「……ギルドを作るのは、繭」
「繭様ですね。かしこまりました。ギルド名を教えてください」
「うっ……。ねえ、繭? やっぱり、別の条件にしない?」
「……何を今更。ダメ。変更は、しない。繭の、最後の条件は、ギルド名」
そう。繭が最後に出した条件はギルド名を繭が決めるというもの。
ただ、問題なのは繭が決めたギルド名だ。
「……ギルド名は、“
「かしこまりました。登録番号005、ギルド“オッドボール”を登録致しました」
「ああ、ほんとにやっちゃったわ……。ギルド“オッドボール”って、“変人集団”ってことじゃない」
「ま、まあ、これで、リリースされて五番目のギルドになれた訳だし、喜ぼうよ」
「これから土地を買う金を集めてたら間に合わなかっただろうしな」
ギルドの登録方法について、運営に問い合せたやつは絶対にいる。そいつに運営から返答が来れば、すぐに掲示板や攻略サイトに載せるはず。
そうなれば、ギルド登録ラッシュ待ったなしだ。
これから土地を買う金を集めてたら、五番目どころか余裕で二桁台の有象無象ギルドだったぞ。
「繭に、感謝するがいい」
「助かったのは認めるわ。でも、散々な条件を出しまくったことは忘れないから」
「繭は、職人でもあり、商人でもある。足下を見て、有利にことを、進めるのは、当然」
「繭さんには、ギルドを作るメリットなんてなかった訳だもんね。自分で、ギルドを作ることに利益を設けた訳だ」
「ん。大体、合ってる。……テイク、ギルドマスターを、委譲した。後は、任せる」
「おお、サンキュー」
メニュー内のギルドの項目を選ぶと現在所属しているギルド、つまりオッドボールの詳しい情報が出てきた。
オッドボールの名称については、別にユズ達ほど忌避感を持っている訳ではない。俺のプレイスタイルは一般的ではないし、むしろ奇人と言われる類いだと自覚している。
何より、オッドボールに変態という意味はないしな!
ギルドメニューでは、ギルドマスター権限で色々いじれるようだ。ギルド加入の条件だったり、ギルド情報を書いたり、誰かを脱退させたりだな。
うん、使わない。今後、ギルドメニューを開くことはあるんだろうか。
「あ、掲示板で僕らのことが書いてる」
「え、何の掲示板?」
「【運営の】ギルド登録したいんだけど【返信待ち】ってやつ」
「耳が早いのね」
「オッドボールの、知名度アップ。計画通り」
「なんで、知ってんだ? 登録してたとこ見られてたとかか?」
「冒険者ギルドの資料室で調べられるんだって。とりあえず、テイクも掲示板見てみなよ」
ケンに言われて外部リンクから掲示板を開く。VRゲームしながらネットも出来るってやっぱ便利だな。
で、肝心の掲示板は、と。
『なんか、目の前でギルド増えたんだけど』
『
『
『オッドボールって何?』
『知らね。誰か辞書引け、辞書』
『oddball:風変わりな人。意訳、変人』
『
『GJ。なら、このテイクってやつが変人ってことか』
『ギルマス?』
『最初は繭、ってなってたけど、今はテイクがギルマスだとさ』
『オッドボール、納得だわwアイツかww』
「なあ、俺、特定されてんだけど。しかも、俺が名付けた感じになってるし」
「ああ、私もこの変人ギルドに所属してるのよね……。私もこんな対応されるのかしら」
「ちょっと遡ってみたけど、今は“イワン生産職連合”の他に“黒氷騎士団”、“青薔薇”、“強いやつ来いや”ってギルドがあるみたいだね」
「最後のなんだよ」
「ギルド名が一番目に付くから、そこにメッセージを入れたんだと思う。掲示板では略して“いやいや”って呼ばれてるけど」
「……これからは、そこに、オッドボールも、加わる」
「喜んでいいのか、嘆けばいいのか」
とりあえず、ギルド登録は済んだし、次は帰ってラピスとトパーズのレベル上げだな!
……の前に、店の掃除でもするか。
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