第十四話「条件」

「……ただし、条件があるの」


 いきなりだが、前言撤回する。

 繭はそこまでチョロくなかった。


「そりゃ、簡単にはいかねーわな。何だ? 素材か? 金か? 金ならねーぞ」

「とりあえず、確認。繭のお店を、ギルドとして使うって、なに?」

「ギルドを作るには土地を買わないといけないらしいのよ。で、色々あってお金が無くなった私達は、裏技としてお店を持ってる人にギルドを作って貰おうってことになったの」

「なんという、唯我独尊。自己中心。断崖絶壁」

「最後のは関係ないでしょ! アンタだってお子ちゃま体型なくせに」

「繭は、脱げば、すごい」

「そうなの?」

「なんで俺に聞く。知らねーよ」

「テイクには、後で、見せてあげよう」

「いらん」

「ロリコンの変態」

「最悪じゃねえか!」

「ほら、話脱線してるよ。繭ちゃんもあんまりユズを弄らないでね。それで、条件って?」

「……」

「わー、ついに無視されちゃったよー」


 確かに、脱線してたな。初期ギルド勢参入のためだ。出来るだけのことはやってやるさ。


「繭。それで、条件って?」

「……ん。繭のお店が、ギルドになる、なら、繭もギルドメンバーになる。それが、道理」

「ああ、元からそのつもりだ」

「仕方なくだけどね!」

「これから仲良くしようね? 無視は嫌だよ?」

「なら、条件一つ目。ギルドになったとしても、お店は続ける」

「了解。それぐらいなら問題ない」

「二つ目は何よ」

「二つ目、繭は、フィールドに出ない。余った素材は、出来るだけ、繭に、提供して欲しい」

「出たわね、引きこもり」

「うーん、お金が必要になることもあるだろうし、そこまで余ったりはしないと思うよ」

「……それだと、繭が、困ってしまう。繭は、戦闘が出来ない。生産スキルで、欲しいものを、取ったら、枠が埋まった」

「生産に極振りか!」

「さすが、テイクと同じ変態」


 繭から送られてきたステータスはこうだ。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 プレイヤー名:繭

 種族:ヒューマン

 ジョブ:鍛冶職人(Lv.4)

 HP  1220/1220 

 MP  156/156 (used 2)

 ATK  17 (used 3)

 VIT  10 

 INT  16 (used 2)

 MIN 10 

 DEX  25 (used 6)


 スキル

 《鍛冶》Lv.1

 《火魔法》Lv.1

 《水魔法》Lv.1

 《風魔法》Lv.1

 《細工》Lv.1

 《彫金》Lv.1

 《鑑定》Lv.1

 《MP自然回復》Lv.1

 《精密操作》Lv.1

 《呪術》Lv.1

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


「魔法あんじゃねえか」

「…………その発想は、なかった。さすが、テイク」

「何で気付かないのよ」

「魔法は、生産の、補助。……そういう、認識だった。あるのと、ないのとじゃ、全然違う」


 まあ、それはいいとして、細々としたものだって売れば金になる。余るものはないかもしれんな。

 だが、繭は二本立てている指に薬指を追加し、三本目を立てた。


「……そこで、繭の条件、三つ目。ギルドメンバーの、武器防具。これは、繭が優先して、作ってあげる。鍛冶をして、経験値が貰えればいいから、代金は、いらない。……でも、繭の作った、武器防具だけを、使って」

「はあ!? あんたの趣味に付き合えっての!? 冗談じゃないわ! なんでそんなこと」

「お店のPR。呑めないなら、ギルドは諦めて」

「ぐぬぬ」

「別に良くね? どうせ俺は、ここの武器しか使わねえし。色んな素材持ってくりゃ繭のレベルが上がって強い武器も使えるようになる。繭の腕がいいのは知ってんだろ」


 素材を持ってきて武器作って貰って、その武器で強い敵倒しゃ、その素材でさらに強い武器が手に入る。

 まるで、繭育成ゲームだな。


「なら、デザインは私達の言う通りに作ってよ! だったら、まだ……」

「繭の、気分による」

「アンタ、ほんといい加減にしなさいよ」

「ユズ、抑えて抑えて! それで、条件は終わり? えっと、繭……さん?」

「ん、よろしい。あと一つ、最後に、すっごく、大事なこと。これは、絶対」


 繭は、これだけは絶対に譲らないという確固たる意思を見せながら、重々しく口を開いた。


「繭の、最後の、条件は……」


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「……あうぅ。夕日が、繭の体力を、着々と削っていく」

「んな訳ないでしょ。アンタ、不健康すぎるわよ」

「ま、夏休みで一日中ゲームしてる俺達も同じようなもんだけどな」

「時々、ゲームだってこと忘れそうになるぐらいグラフィックやリアルの再現が凄いよね」

「うん。それは、同感。……服のしわまで、あるゲームは、他にない。無駄な気は、するけど」

「そういや、スライムのことで忙しかったけど、俺ら初期装備のままだな」

「繭さんに装備作って貰わなきゃだね」

「……腕がなる」


 俺達は今、冒険者ギルドへ向かっている。

 繭の最後の条件を呑んで俺達のギルドを作って貰うことになったからだ。

 土地の所有者である、繭が冒険者ギルドに行く必要があったので、こうして引きこもりを護送している。

 別に明日でも良かったんだが、出来るだけ早くギルドを作って初期勢に加わりたいだろ。そのためにこんだけ苦労したんだから。


 で、前から言ってた冒険者ギルドってのは、プレイヤーの仕事斡旋所みたいなとこだ。ここで、魔物討伐とか薬草採取のようなクエストを受けて、達成すると報酬が貰える。素材の換金場所もここだな。

 他にも、このゲーム世界の文献がある資料室や、スキル等を確認できる練武場があったりする。前にユズが言ってた、大規模防衛戦のようなイベントが告知されたり、ギルド手続きとかも出来るとこだ。


 と、ここで、俺に誰かがぶつかった。何すんだ、頭のラピスが落ちそうになったじゃねえか。

 てか、なんか、すっげえ急いでんなこの人。


「うおっと」

「あ、悪い! ちっ。どこ行きやがったあのガキ、お嬢のための金だってのに……!」

「あ、行っちゃった」

「また町盗賊ね。運営はまだ対応しないのかしら」

「まあ、リリース二日目だと色々やることあんじゃねえの? それよりも、俺は絶対あの町盗賊を仕留める」

「……DEX素早さ初期値じゃ、無理。無謀。運営からの、お詫びや補填を、期待するのが、吉」

「いや、仕留める」


 じゃねえと、俺の気が済まん!

 だが、確かに繭の言う通り、DEX素早さ初期値じゃ追いつくなんて無理だ。


 何か、いい方法があればいいんだがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る