第十話「トパーズ」
「おっ! やっとイワンまで戻って来れたな! 今日は助かったから二人に何か奢ろうか!」
「イェーイ! テイク太っ腹ー! テイマー最高っ!」
「はいはい、嬉しいのは分かったからもうちょっと静かにしようねー」
「んだよ、ケン。奢らねーぞー」
「それは困る」
見ての通り、絶賛テンション爆上げナウである。
実はさっき、悪いことと良いことが同時に起きたのだ。
悪いことっていうのは経験値の話。
どうやら、パーティで山分けされた経験値を、テイマーはさらにテイムモンスターと山分けしているっぽいのだ。今までずっとパーティを組んでいたユズだけがレベルアップしたからおかしいとは思ってたんだがな。
どうやら、三人パーティでテイムモンス一匹の現状、俺に入ってくる経験値は三分の一の半分。つまり、六分の一程度となっている。
レベル上げはソロでやるしかなさそうだな。
だが、良いことの度合いが大きすぎて経験値の仕様なんぞ、どうでも良くなった。
経験値なんて人より頑張ればいいんだよ、うん。
んで、良いことってのはコレ。
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モンスター名:(名前を入力して下さい)
種族:ホーンラビット(Lv.1)
HP 600/600
MP 20/20
ATK 8
VIT 5
INT 2
MIN 2
DEX 6
スキル
《跳躍》Lv.1
《気配察知》Lv.1
《採取》Lv.1
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任意のステータスに
1ptを振り分けてください。
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なんたる幸運!
あれだけラピスをテイムするのに時間がかかったというのに、帰り道でホーンラビットのテイムを成功させてしまったのだ!
昨日、ネットでテイム報告がなかったってことは俺達がスライムに苦戦しまくったって訳でもない。相応にテイム難易度は高いはず。
だが、テイム出来る時は出来ちゃうんだろうな! 自分の運の良さが恐ろしいっ!
ユズも、俺がホーンラビットをテイムしたことで、いつでもウサギを抱けるようになりご満悦だ。
さてと、コイツは何の極振りをしてやろうかな!
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「で、無事に町に着いたのはいいんですがね。ケンさん、何かおかしな人がいますね」
「そうですね、テイクさん。僕らの近くに不審者がいますね」
「し、仕方ないでしょ! あの人、いないでしょうね!?」
「町に入った途端、思い出したかのようにコレだもんな。何か悪いことでもしたんですか、ユズさん?」
「してないわよ! 私、悪くないもん!」
「なら、ウサギで顔を隠す必要も無いだろ。後、それ俺のテイムモンスだからな」
「うーん、でも本当にいないね、カリムさん。運営に消されちゃったかな?」
「おおう、NPC破壊伝説濃厚だな」
「わ、私、悪くないわよね? 私のせいになったりするのかな!? ペナルティーとか、もしかしたら垢BANとかっ!?」
「「さあ?」」
キョロキョロしまくってるユズは放っといて町の中央にある冒険者ギルドへ向かう。
ここで、スライムからドロップした大量の素材と、少しの犬、鷹、ウサギ素材を換金して貰うのだ。
スライムは序盤だと倒しにくいからか、素材が結構高額でウマウマなんだよな。
ちなみに通貨の単位はG(ガランド)。こんなもん、ゴールド、とかゼニー、とかでいいのに運営は変なとこで凝ってる気がする。設定ではこの町がある国の名前だとか何とか。
プレイヤーは全員
「確か、こっちの路地に行った方が早かったはず。こっちから行こうぜ」
「えー、大通りの方から行こうよ。色んなお店も見てみたいし」
「大丈夫。私はまだここにいるわ。垢BANもされてない。ゲームは続行中。きっと見逃して貰えて」
「あの、すみません。少し、いいですか?」
「はひぃっ!?」
近道をするか否かで、ケンと話していたら後ろから声を掛けられた。
腰まで届くゆるふわな金髪。茶色でクリっとした目。そして、圧倒的な存在感を放つ胸。すげえ。何だこの
いや、待て。運営がプレイヤーとして参加しているって話は聞いたことがある。
……ふむ、つまり、ユズとはここで暫しの別れってことか。キャラ再作成したらレベル上げでも手伝ってやるかな。
「えっと、貴女、ユズさんで……」
「す、すすす、すみません! 私、あの、別に壊そうとした訳ではなくてですね! ヘルプNPCかなって思って、それで、知りたいこと質問しただけって言いますか! あ、いや、言い訳がしたいんじゃないです! カリムさんのことは事故でして、私が意図した事件ではなく、むしろ事件性は低く私は限りなく白に近いんじゃないかなと思ったり思わなかったりしている訳でして! 本当に申し訳ないとは思ってるんですよ? でも私のゲームのプレイを貫き通した結果でありまして! 反省はしてますが、後悔はしていません! って、いや、あの、そういうことを言いたいのではなくてですね! ……ご、ごめんなさい! 垢BANは勘弁して下さい、お願いします!」
「ええっと……」
これは、アレか。仔牛がドナっていく歌でも歌えばいいのかね?
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「改めて自己紹介させて頂きます。プレイヤー名、
「ギルド?」
「私のお店?」
「恥ずかしい。運営じゃなかった。もういっその事垢BANして下さい」
ユズがパニックした後、俺達は癒香に連れられて一件の店にたどり着いた。
そこで、私のお店だと紹介された訳だ。今は店の中でテーブルを囲んで談笑中。近くで見て初めて気付いたんだが、癒香の耳は尖っていた。だが、長い訳ではないから、種族はノームだろうな。
ちなみに、客はNPCに対応を任せているらしい。
てか、序盤でプレイヤーが店を持てるもんなのか?
「ねえ、癒香さん。私のお店って?」
「呼び捨てでも構いませんよ。このお店は私のβ特典です。自分で作ったアイテムを規定数以上プレイヤーへ売れば自分のお店が持てるようですね。ただ、おかしな値段で売っていたり、不良品が混ざっていたりすると選べなかったりするようですが」
「なあ、ケン。プレイヤーメイドの店って結構あんの?」
「全然。すっごい少なかったはず。露店とかならいくつかあると思うけど」
「ま、癒香なら当然よね。βで唯一の上級回復薬を作れた薬師なんだし」
「ユズ、この人知ってんの?」
「βの時は
「僕としてはむしろ、テイクが知らなかったのが驚き。結構有名だよ、癒香さん」
いやー、ゴブリンしばきで忙しかったもので。
「薬師って実は調合書みたいなのがほとんど無いんだって。何となくの材料とか、曖昧な作り方とかばっかりらしいよ」
「慣れれば案外分かってくるんですが、最初の頃は苦労しました。今は攻略サイトを見れば、《調合》スキルでとりあえずの回復薬は出来てしまいますから、自作レシピを作らないとお店をやって行けないんですよね」
「へー」
「アンタ、絶対大変さを分かってないわね」
「んなこと言われてもなあ」
「ふふふ」
話を聞いた感じでは大変なんだろうってことは分かったが、経験してみないことには大変さなんていつまでも分からないだろ。
しかも、俺は薬師でもなければ《調合》スキルを取る気もない。共感することなんて金輪際出来ないだろうし、俺がいたわることでどうなる訳でもない。
そもそも、今、癒香を癒せるのは俺じゃない。
「ふふー。もふもふですー。気持ちいいよー」
「でしょでしょ! この子の毛並みは私が保証するよ!」
「だから、ソイツは俺のテイムモンスだっつってんだろ」
そう。俺がついさっきテイムしたホーンラビットが、完全に癒し系ペットとして女子達の中心でモフられまくっているのだ。
癒香が俺達に声を掛けてきたのは、ホーンラビットを触りたかったかららしい。
βの頃からずっと想い続けていて、どこかのテイマーがテイムして、自分の店に来てくれないかなー。なんて思っていたところで目の前に抱かれているホーンラビット。
気付いたら声を掛けてしまっていたとか、どんだけウサギ好きだよ。
そして、今、癒香に抱かれるホーンラビット。俺も男だ。自然と目で追ってしまう。
何をって、そりゃ、ユズとは正反対の豊満なバストだ。
「テイク、私の分、二倍奢れ」
「やべ、口に出てたか!」
「勘よ。言質は取ったわ」
女の勘、怖ぇ……!
「そういえば、テイク。この子の名前付けてないんじゃない? ラピスちゃんは名前が見えるけど、ホーンラビットの方は見えないから」
「ああ、そういや忘れてたな」
癒香の胸に挟まれているウサギを見て名前を考える。クソ、羨ましい。
ホーンラビットの角は何種類かの色があったが、コイツは黄色だな。
ふむ。
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モンスター名:トパーズ
種族:ホーンラビット(Lv.1)
HP 600/600
MP 20/20
ATK 8 (uesd 1)
VIT 5
INT 2
MIN 2
DEX 6
スキル
《跳躍》Lv.1
《気配察知》Lv.1
《採取》Lv.1
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「トパーズって、宝石の?」
「ラピスも宝石の名前から取ったしな。統一感あっていいだろ」
「どうせ、どこかでメンバーチェンジするんでしょ? 宝石ネームの引き出しなんてあるのかしらね」
「あれ、皆さん、知らないんですか?」
「ん? 癒香、どゆこと?」
「知らないって、何を?」
「おい待て、話の流れ的に嫌な予感がする」
いや、きっと、宝石の名前のモブやアイテムがあってややこしくなりますよー、とかそういう感じだと
「一度テイムしたモンスターは変更不可らしいですよ?」
最悪だった。
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