第六話「塩対応」

「えーっと、こっちね。今度は二匹いるみたいよ」

「僕はまた様子見?」

「レベルアップまではそうなんじゃないか?」


 これまで、計四匹のスライムを屠ってきたが、一向にレベルが上がらない。始まったばっかだし、仕方ないところもあるが、Lv.1からLv.2まで長くないか?


「うーん。一体の経験値が決まっていて、それをパーティで分配してるのかしら。一応、高レベル帯のマップでレベル上げしてる訳だし、そう考えないと説明出来ないわ」

「適正レベル外だと経験値が激減するとかは? ありそうじゃない?」

「このマップには一応Lv.1のスライムも出てくるし、そういう仕様ならマップのモブレベルを統一するはずよ」


 確かに適正レベル外だと経験値が減るゲームは前にやったことがあるが、レベルはマップごとに固定だったな。


「そこら辺は、レベルアップしてからパーティ解散したりして確かめればいいんじゃないか? それより、魔法一発でどんだけ削れるかは大体分かったし、次は二体いるなら一発で何体に当てられるか試してみたい」

「そうね。まずは、レベルアップしないことには始まらないし。……っと、いたわね」


 ユズの向いた方向を見ると、スライムが二体ズリズリピョンと動いているのが見えた。

 Lv.4とLv.8か……。


「ユズ、Lv.4は七割まで削ってくれ。Lv.8は半分だ」

「オッケー、了解!」


 ユズがマッドトパーズを振りかぶる。後はもう見慣れた光景が繰り返されるだけ。スライムの動きは鈍いし、攻撃してきても《直感》《回避》スキル持ちのユズに当たる事はなかった。

 Lv.4には二回、Lv.8へは三回の攻撃を終えたユズの合図を確認して右手を構える。

 狙いは二体の中間!


「《光球》!」


 淡く光る発光体がスライムの間へと飛んでいく。初期魔法はDEX器用さ初期値でも、ある程度コントロール出来るのが有難いな。

 30cmほど離れていたスライムのちょうど真ん中に着弾した光球は少し光を放って霧散。

 その横でスライムが元気にピョン。


「あれ、魔法の有効範囲狭すぎ……?」

「直撃しないとほぼ無意味って感じね。二体以上に当てるなら密着してるところを狙わないといけないみたい」

「野球のストライクアウトで二枚抜きする感じだね」

「スライムが重なった時に間を狙えばいいのか。急にタイミングゲーになったな」


 つまり、スライム同士が隣合う位置に飛んだら間を打ち抜けばいい。

 それには、スライムが移動することと、片方のスライムに近付く方向に飛ぶこと、上手く隣に着地して……。


「ケン、スライム押してきてくんない」

「いや、やだよ? なんでわざわざダメージ受けにいかなきゃなんないのさ」

「そうよ。ケンが戦闘に参加することになっちゃうじゃない」

「ユズさーん。ツッコミ所そこじゃない気がするなー」

「お前、ダメージ受けるのが仕事のタンクだろ」

「うわ、まさかの僕にツッコミ来ちゃうパターン!?」


 いや、俺今、正論言っただけだし。


「ったく、しょうがないわね。テイク、とりあえず、魔法が複数に当たるかの検証よね? ダメージ見るのも一体で充分ね?」

「ん、ああ」

「なら、私が剣で押してくるわ」

「おー、サンキュー。どっかの名ばかりタンクとは違うなー」

「しょうがないでしょ。ユズに参加禁止されてるんだから」


 おーおー、尻に敷かれてますなー。


「今、なんか不名誉なこと考えたでしょ」

「べっつにー?」


 さてと、ユズが剣でいい感じに押してくれたみたいだし、もっかいチャレンジだな。

 ちなみに、剣で押しただけで接触ダメージがスライムに発生したっぽい。細かいなー。


「そんじゃ、次は《風球》!」


 俺の手のひらの前に風の塊が出現、同時に撃ち出される。

 風球自体は、向こうにある色は分かるけど、細かい景色は見えない感じ。風の球は見えないから、奇襲し放題なんてことはなかった。少しは見辛い気もするけど。


 風球は無事着弾。二体のHPバーもちゃんと削れる。耳に聞こえるレベルアップのファンファーレ。

 目の前でスライムが元気にピョン。


「1体残ったね。計算間違い?」

「いや、複数に魔法が当たると威力が分散するんだと思う。まあ、残ってるコイツのMIN精神力が桁外れにデカいとかの可能性はあるけど」

「1体は倒せたわね。その経験値で私はレベルアップしたわ。戦闘継続中でもレベルアップするのね。邪魔にならなければいいけど」


 ユズとレベルアップのタイミングが同じってことはラストアタックボーナスはないのか。

 二人に差を付けられるかと思って期待してたんだがな。


「ユズもレベルアップ? 僕も今したよ」

「なるほどなるほど。経験値の仕様はパーティー山分けが濃厚ね」

「《闇球ダークボール》。んで、こっからはどうすんだ、ユズ?」


 残ったスライムは闇に葬る。

 《闇球》は火球と同じソフトボール大の暗黒物質が直線上を飛んでいくものだった。スライムに当たっても何のエフェクトもなく、ただただスライムが消えてったとことか軽くホラーだな。


 とりあえず、ユズにこれからの予定を聞いてみたが、俺としてはスライムを狩る効率が落ちなければ何でもいい。むしろ、ユズの機嫌を損ねる方が効率が悪い気がする。


 レベルアップした後のステータスはこんな感じだな。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 プレイヤー名:テイク

 種族:ヒューマン

 ジョブ:テイマー(Lv.2)

 HP  1000/1000

 MP  136/200 (↑100) (used 11)

 ATK  10

 VIT  10

 INT  10

 MIN 10

 DEX  10


 スキル

 《鞭》Lv.1

 《火魔法》Lv.1

 《水魔法》Lv.1

 《土魔法》Lv.1

 《風魔法》Lv.1

 《光魔法》Lv.1

 《闇魔法》Lv.1

 《HP自然回復》Lv.1

 《MP自然回復》Lv.1

 《即死回避》Lv.1

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 一瞬でMPが倍になっちゃったよ。

 うん、やっぱ極振りって楽しいな!


「うーん、そうね……。ケン、ちょっとパーティー抜けて一人でスライム倒しといて」

「やーいやーい。ケン、ハブられてやんの」

「パーティー抜けたら経験値がどうなるかの確認だね。分かった」

「ちょいちょい、無視いくないよ」

「次にレベルアップしたら戻ってきて。そこからはスライムをテイムするまで狩りまくるわ」

「了解。それじゃ、パテ抜けるね」

「あれー、俺のこと見えてる? おふたりさん?」

「……時々、テイクって子供っぽくなるわよね。なに、情緒不安定なの?」

「気付いてくれてありがとう。だが、その答えはノーだ!」

「ハイハイ、私達も行くわよ」


 くっ、これが塩対応ってやつか……

 でも、テンション上がってる時に塩対応されると、逆にテンション上がってくるのは何でだろうな!


 おし、パパッとスライムテイムしてやろうじゃねえか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る