第五話「詠唱」
「ほら、次のスライム倒しに行こうよ。テイクは魔法一回で何割削れるか調べるんだよね?」
「お、おう。そうだな。最初の方はスライムのレベルを気にせずに調べてみようと思う」
ケンがスライムを狩りに行こうと提案してきた。
ナイスだ、ケン。
正直、喋り出しにくい雰囲気だったからありがたい。
「ユズは何かある?」
「そうね……。パーティにどうやって経験値が入るのか知りたいし、ケンには今度こそ手を出さないで見ていて欲しいわね」
「えー。まあ、初戦を一緒にやりたかっただけだしいいけど」
ユズは経験値取得のメカニズムを調べたい、と。戦闘の貢献値で一人一人の経験値が違うゲームもあるし、知っといて損は無い情報だな。とどめを刺すとボーナスがあるとかなら俺が真っ先にレベルアップか。
一度のレベルアップでMPがどれだけ増えるのか結構楽しみだったりする。
「んで、次はどこ行けばいいんだ? 探索系スキルないから俺には全く分からんぞ」
「そういえば、探索系も無かったね……。今は僕達がいるからいいけど、ソロになった時大丈夫?」
「序盤なら問題無さそうだけど、不意打ちとか奇襲してくる敵が出るとキツそうよね。……《気配察知》スキルによるとあっちに一匹いるみたいよ」
マップは大量のプレイヤーを一つのサーバーに収めたためか、実に広大なものとなっている。視認等、リアル五感でしか情報を得られない俺には敵モブを発見することは少し難しい。ケンと話していた時は開けた場所だったから遠目にある程度認識できたが、今は草で見えない。
探索系スキル持ちに頑張って貰おう。
ちなみに、一つのサーバーで運営できるものなのか、運営スタッフの姉さんに聞いてみたが企業秘密だとかで教えてくれなかった。
……便利な言葉だよな、企業秘密って。
「そういや、俺のステータスとかスキルは見せたけどユズ達のは見せてもらってないな」
「そうだっけ? それじゃあ、スクリーンショットでも撮ってメールで送っとくわね」
「そっか。製品版だとメールが実装されたんだったね。僕のもそれで二人に送っとくよ」
視界の端にメールのアイコンが浮かび上がる。
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メールが2件届いています。
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メッセージも出てきた。アイコンに意識を合わせれば、開けるみたいだな。
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プレイヤー名:ユズ
種族:エルフ
ジョブ:剣士(Lv.1)
HP 1000/1000 (used 1)
MP 100/100 (used 1)
ATK 8 (used 2)
VIT 8 (used 1)
INT 12 (used 2)
MIN 12 (used 1)
DEX 10 (used 2)
スキル
《剣》Lv.1
《水魔法》Lv.1
《風魔法》Lv.1
《光魔法》Lv.1
《回避》Lv.1
《気配察知》Lv.1
《直感》Lv.1
《MP消費軽減》Lv.1
《MP自然回復》Lv.1
《詠唱破棄》Lv.1
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プレイヤー名:ケン
種族:ドワーフ
ジョブ:ウォリアー(Lv.1)
HP 1000/1000 (used 2)
MP 97/100 (used 1)
ATK 12 (used 1)
VIT 12 (used 2)
INT 8 (used 1)
MIN 10 (used 2)
DEX 8 (used 1)
スキル
《槌》Lv.1
《水魔法》Lv.1
《土魔法》Lv.1
《挑発》Lv.1
《気配察知》Lv.1
《直感》Lv.1
《堅守》Lv.1
《受け》Lv.1
《MP自然回復》Lv.1
《応急処置》Lv.1
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やはりというか何というか、そりゃ、普通は全部のステにポイント割り振るよね。
スキルだって、魔法スキルは最低限。補助スキルと自分のプレイスタイルにあったスキルをバランス良く取っていって……。
うん。改めて思う。
「俺って色物だな」
「何を今更言ってんのよ」
分かってたことだけど、ここまで定石から外れると不安もあったりするんだよ。唯一共通してる《MP自然回復》が光り輝いて見えるな。
もちろん、自分だけのスタイルでどこまでやれるか楽しみになってる期待の方が大きいのは言うまでもない。
「ここら辺ね。あ、ほら、いたわよ」
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マルチスライム Lv.2
△△△△△△△△△△△△△△
「Lv.2もいるんだな」
「大体はLv.8とかね。少ないけどLv.1やLv.2もポップするのよ」
「僕は見てればいいんだよね」
「ええ。行くわよ!」
ユズが駆け出してスライムに一撃を叩き込む。さっきと同じように剣は弾かれたが、出現した水飛沫でスライムのHPが目に見えて減る。
四割ぐらい削れたか?
レベルが低いったって倍も食らうのかよ。
「テイク、いいわよ」
「ん? もう、か?」
流石に六割は……と思ったが、二割が四割になったなら、さっきのスライムに三割ダメージ出せてたら六割ぐらい削れる計算になるのか。
「とりあえず、撃ってみりゃいいか。《土球》」
火球と同じ大きさの土の塊が、これまたさっきの火球と同じくらいのスピードで飛んでいった。岩とかじゃないんだな。
避けようともしないスライムに直撃。物理ダメージっぽいが、はね返されることもなく六割のHPを削りきって、スライムは消えた。
ん? さっきノックバックしたか?
「スライムがノックバックしたってことは土球には質量がある? そういや、最初のスピードは火球と同じだと思ったが、減速してた気もするな」
物理演算まで細かいのか、どんだけ優秀なんだよ、このゲーム。
「レベルは上がらないみたいね。テイムも出来なかったみたいだし」
「それについては残念だったけど、僕としてはもっと気になることがあるんだよね。テイク、さっき何て言ってた?」
「ん?」
さっきって、何か俺、変なこと言ったか?
「物理演算がどう、とかか?」
「違う! スキル! 詠唱!」
「《土球》か?」
「それ! 《アースボール》でしょ! 何さ《どきゅう》って!?」
分からん。俺は何でツッコまれてるんだ。
ボケたつもりは全くないぞ。
「うわ、真顔だ。真面目に真剣に《どきゅう》って言ったんだ、この人」
「ケン、テイクよ。諦めなさい」
「別にいいだろ。発動してるんだし」
かきゅう、すいきゅう、ふうきゅう、どきゅう、こうきゅうの方が言いやすいし、効率がいい。
問題は《闇球》だな。《ダークボール》は長いが《やみきゅう》もそんなに変わらないし。そもそも発動するのか?
……。
「《やみきゅう》!」
「やみきゅう!?」
ダメだ。発動しない。MPも減らないし、この読み方はダメってことか。
仕方ない。《やみだま》は噛みそうだし、《ダークボール》にしとくか。
「ユズさん、ユズさん。ついにやみきゅうとか言い始めたけど、これも諦めた方がいいの?」
「さすがに見てられないわね。一緒にいる私達が恥ずかしいわ」
「酷い言い様だな、お前ら」
なんと言われようが、俺は俺の効率を求め続けるだけだがな。
さあ、さっさと次に行くぞ。
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