第四話「初陣」
「とりあえず、一体だけを相手にして様子を見ましょうか。行ってくるわね」
北の第二エリアに入ってすぐ、ユズは一人で駆け出していった。
俺としても、出来るだけスライムを倒したいところなので別にいいのだが、忙しすぎやしませんかね。
「それじゃ、僕達はユズがスライムを連れて来るまでここで待機だね」
「ああ、そうなるな。それにしても、スライムったって色んな種類があんだなー」
目の前にあるスライム天国は実にカラフルで、赤や青、黄、緑、黒、等々たくさんの色のついた饅頭が跳ね回っていた。
バスケットボールくらいの大きさがある饅頭だけどな。
赤は火属性、青は水属性とかあるのかね?
「あー、やっぱりそう思っちゃうよね。僕も最初は勘違いしてたなー。ほら、よく見てみなよ」
「勘違い?」
ケンに言われた通り、一匹一匹をよく見てみる。
別に特に変わったとこは……ん?
赤いスライムをよく見てみる。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
マルチスライム Lv.9
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青のやつは。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
マルチスライム Lv.8
△△△△△△△△△△△△△△
……黒。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
マルチスライム Lv.5
△△△△△△△△△△△△△△
「……レベル高くない?」
「うん、今はそこじゃないよね」
いや、レベル高いのも歴としたツッコミ所だと思うんだが。
ケンが言いたいのは色が違っても全部同じ種類だってことなんだろう。
なんつー紛らわしいことしてくれんだろうか、運営様は……。
「おーい! テイクー! ケンー! 連れてきたからこっち来てー!」
ケンと話している内にユズがスライムを引っ張ってきたようだ。
結構長いことかかったな。
ケンと一緒に声の聞こえた方へ向かう。沼地に近付くからか、背の高い草が邪魔で足元がちょっと見辛いな。
ユズのいる場所まで来ると一匹のスライムがいた。こいつはピンクか。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
マルチスライム Lv.8
△△△△△△△△△△△△
相変わらず俺達とのレベル差が激しい。
このゲームはレベルが一だけ違えば結構ステータスに差ができる。あんまり格上とは戦わない方が無難なのだ。
ま、低レベル帯ならそこまで変わらない。低いレベルのスライムも湧くらしいし、なんとかなるだろ。
「遅かったな、ユズ」
「私が遅かったんじゃなくて、このスライムが遅かったのよ。タゲを取ったとこまではよかったけど、着いてくるのが遅くて遅くて」
タゲってのはターゲティングのことで、ヘイトとも呼ばれる。要は敵の狙いのことだ。
大抵は攻撃されたら攻撃してきた奴にタゲが向けられるな。
そして、肝心のスライムはまだノロノロとユズに向かって動き続けている。時折跳ねて進むが、また遅々とした動きに戻っていく。
ユズが俺達のいる場所まで来ずにこっちに呼んだ理由がよく分かるな。
「んで、ユズが削って俺が魔法でトドメを刺せばいいんだよな。ユズ頼むわ」
「え、待ってよ。僕の役目ないの?」
「スライム一匹に対してタンカーはいらない気がするわね」
「ちょ、ユズまで……。もーいいよ、《プロヴォーグ》!」
ケンがスキルを発動させた。《プロヴォーグ》ってのは《挑発》スキルの呪文詠唱みたいなもんだな。
……要は、仲間外れが嫌だから勝手に自分の出番を作ったってこった。
ユズに向かってズリズリ這い寄ってきていたピンクスライムが標的をケンに変えて進路を変更した。……ハズ。
ほぼ動かないから分かんねぇよ。
「あーあ。MPの無駄遣いしちゃってー」
「僕だって《MP自然回復》は取ってるんだから別にいいでしょ。てか、初戦ぐらい三人で倒したいじゃん」
「非効率だろ」
「そーいうこと言ってんじゃない!」
怒られた。何故だ、効率を求めることの何が悪い。
「それ、テイクの悪い癖だと僕は思うよ」
「効率悪いよりか良い方がいいだろ?」
「はいはい。その論争はまた今度。行くわよ」
ユズが腰に差した剣“マッドトパーズ”を引き抜き、スライムに接近、切り付けた。
剣自体はスライムの表面で弾き返され物理ダメージがほぼ通っていない様だが、“マッドトパーズ”は水属性を持っている。剣の軌跡をなぞる様にして出現した水の流れがスライムを叩き、目に見えてHPバーが削られた。
にしても、エフェクト凝ってんなー。当たった瞬間水が弾けとんだぞ。グラフィックが処理落ちしてる感じも無いし、見てて普通に綺麗だわ。
「……四割ほど削れたか?」
「タゲを取るために一撃入れてるだろうから一回の攻撃で二割ってとこだね。あと二回当てればテイクの出番」
「まあ、武器に付いてる属性ダメージで二割削れるなら魔法で片付くか。魔法攻撃に弱すぎんだろ」
ちなみに、魔法スキルを発動させるのに長ったらしい詠唱は不要だ。《火魔法》のレベル一魔法《
お察しの通り、レベルを上げる気なんざ毛頭ない俺には関係ないことだな。
「そろそろいいわよ、テイク!」
「了解!」
色々考えてたら、残りの二発も終わってた様だ。《挑発》スキルでケンに移ったタゲはユズが攻撃しても解除されておらず、スライムはケンに向かってゆっくりゆっくり前進し続けていた。
って言っても、ユズの攻撃で硬直してたこともあり、挑発してから進んだ距離なんて1mもなかったが。
「やっぱ、挑発意味なかったな」
「うるさい、これは僕の気持ちの問題だよ。ほら、さっさと撃ちなって」
「へいへい」
ピンクスライムに狙いを定めて……っと。
右手を向ける感じがやりやすいか。
「《
うん、《ファイアボール》よりも断然言いやすいな。文字数も《かきゅう》の方が少ないし、効率がいい。
で、右手の先に生みだされた火球はと言うと、大きさはソフトボールぐらい。三号球かな?
スピードは……なんだろう。速くもなく、かと言って遅いわけでもなく。小学校の体育でやったドッジボールを思い出すな。避けようと思えば避けられるが、不意打ちだと厳しい。そんな感じ。
「どうやら、倒せたみたいね」
「テイクどう? テイムできた?」
「いや、ダメだったみたいだな」
特別なウィンドウが出てくる気配もないし、ピンクスライムは跡形もなく消えている。さすがに一匹目でテイム成功なんてラッキーは起こらなかったか。
チラリと目線を上に向けて自分の簡易ステータスを確認してみる。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
テイク Lv.1
HP:1000/1000
MP:80/100
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
《火球》の消費MPはβの時と変わらず20だな。Lv.1だと五発撃っただけでガス欠だが、レベルが上がればMPも増える。それに俺には《MP自然回復》もあるしな。
お、82に回復した。スキル撃ってから五秒経ったのか。
「それじゃ、ここからはスライム乱獲していくんだよね」
「いいえ、違うわ」
「え?」
「おい、ケン。これからどんだけ時間がかかるのか分からないのに、さっきと同じようにスライムを大量に倒していく気か?」
「それに、私達は今、レベル1なの。分かる? レベル1は一番レベルが上げやすい時期よ。こんな好機逃す手はないわ」
「え? え?」
さあ、ここからは……
「効率化の時間だ!」
「考察の時間よ!」
……む。考察だと?
「……アラ捜しユズさん? 考察というのは、先程の様なヘルプNPCとの無駄な時間を過ごすことを言ってるんですかね?」
「あらあら、カリムさんとの素敵な時間のことでしょうか、効率厨テイクさん? あなたの方こそ、効率にかこつけて他人を働かせるつもりなんでしょう?」
……ほお、言ってくれるねぇ。
「ちょっと、二人とも何やって」
「「日和見ケンさんは黙っててくれます?」」
「ひよりみ!?」
「大体、ユズが調べた情報に穴がなかったことなんてあったか? 攻略サイトじゃ有名だよな、アラ捜しの方法が粗いってさ」
「は! あんたなんて、効率効率言いながら極振りなんて非効率の代表格みたいなことしてんじゃないわよ」
「んだと! こっちは極振り有りきでの効率化してんだよ。極振りが楽しくてやってんだ、人のゲームプレイに口出しすんな!」
「そんなの、私だって一緒でしょ! 私にとって、ゲームの楽しみ方がこうだったってだけよ!」
「そろそろいい加減に」
「「日和見タンカーとか矛盾してんだよ(のよ)!」」
「ごめんなさい!?」
……オーケーオーケー。一旦落ち着こう。別ゲーの時もこうやってユズと衝突することはあったが、なんだかんだ上手くやってんだ。どっかで妥協点でも見つけてさっさとスライムをテイムしなきゃな。
「……悪い、言い過ぎた。とりあえず、ユズの計画を聞かせてくれるか」
「……私も、ごめんなさい。程度の低い挑発に乗っかったばっかりに変な言い争いになったわ」
冷静になれー、俺。ビークール。
確かに、最初に仕掛けたのは俺だ。ここは俺が折れとけばいい。
「私が気になってるのはレベルや経験値のことよ。パーティーを組んでたら全員に経験値が与えられるのか、とかね。全員が経験値ゼロから始まる今を逃せば、きっちり考察する機会なんてなかなかないもの」
……うん?
「それだけ?」
「そりゃ、勿論他にもやってみたいことはあるわよ。剣の当て方でダメージは変わるのか。ダメージ計算に乱数はあるのか。エルフやドワーフの種族補正だって気になるわ。でも、今、優先したいのはレベル関係ね。テイクの効率化は何をするつもりだったの?」
「俺は、魔法一発でスライムの体力を何割削れるか。何体を巻き込めるか。ダメージは分散するのか。スライム狩りをスムーズにするための最適解を求める……的な?」
消費MPを増やしたりもしたいが、まずはできるだけ早くテイムモンスターを確保することが先決である。
結果的に、俺、戦闘中のこと。ユズ、戦闘の内容よりも数とレベルアップまでの過程。
これはつまり……
「別にテイクはテイクの、ユズはユズのやりたいことやって問題ないんじゃない?」
「……」
「……」
うっわ、気まずい。
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