第二話「顔合わせ」

「おーい、テイク。こっちこっちー!」


 待ち合わせ場所に行くと既に堅碁――プレイヤー名ケンがいた。

 152cmの低めな身長と人懐っこい笑顔は現実と変わらないが、どうやら髪の色を黒から明るい茶色にした様だ。目の色は分からんな。糸目だから元々の色すら知らない。多分、黒だろ。


 てか、いつも思うんだが、競争率の高そうな名前をよくもまあ、毎回自分のものにできるもんだな。


「悪い、待ったか?」

「待ったよ」

「そこは今来た、とか言うとこだろ」

「僕のキャラメイクは早さが命だからね。それよりも、その武器って……鞭?」


 ケンが目敏めざとく、俺の腰に付いている武器を見つけた。特典でテイマーを選ぶと弓士の固定武器スキルだった《弓》が《鞭》に変わったので、俺の初期装備は「初心者の鞭」だ。

 そして、これが俺のステータス。


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 プレイヤー名:テイク

 種族:ヒューマン

 ジョブ:テイマー(Lv.1)

 HP  1000/1000

 MP  100/100 (used 10)

 ATK  10

 VIT  10

 INT  10

 MIN 10

 DEX  10


 スキル

 《鞭》Lv.1

 《火魔法》Lv.1

 《水魔法》Lv.1

 《土魔法》Lv.1

 《風魔法》Lv.1

 《光魔法》Lv.1

 《闇魔法》Lv.1

 《HP自然回復》Lv.1

 《MP自然回復》Lv.1

 《即死回避》Lv.1

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 結局、残りのスキル枠は《HP自然回復》《MP自然回復》《即死回避》を選んだ。

 スキルを育てるのだって極振りする気満々な俺は、《HP自然回復》のレベルだけを上げ続けようと思っている。そして、《即死回避》のコンボでしぶとく生き残ってやるぜ。

 MPは枯渇させるつもりもないしな。


 ちなみに《HP自然回復》と《MP自然回復》のスキル説明はこんな感じ。


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 《HP自然回復》Lv.1


 5秒で最大HPの2%回復

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 《MP自然回復》Lv.1


 5秒で最大MPの2%回復

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 レベルを上げたらどうなるのか、今から楽しみだな。


「テイマーね……。これって敵モブを使役できるってことでいいのかな? スキル構成についてはもう何も言わないけど」

「《鞭》スキルによると、テイマーの攻撃がとどめとなった場合、テイムできる可能性がある。だとさ」

「どれくらいの確率かが重要そうだね」

「その敵モブの種類がまだ、どのテイマーにもテイムされてなかったら比較的テイムしやすいらしい」


 つまり、テイマーとしてはさっさと初期の仲間を捕まえに行きたいとこなので競争率が高い。ぼやぼやしていると、最初のテイムを他のプレイヤーにされ、自分のテイム難易度が上がってしまうことになる。

 莉子はまだか。早く行かなければ……!


「それで、ほんとにMPに極振りしてる訳だけど。HPやVIT生命力には全く振らないつもりなんだね?」

「もちろん。初志貫徹が俺の座右の銘だ」

「その志しだけは立派だと思うけどさ。最初のボーナスポイントは重要って分かってる?」


 ESOでのステータスはポイントを振るだけでは上がらない。ポイントはレベルアップした時の成長を大きくするものだと考えれば大体合っている。


 ケンが言った、キャラメイク時に貰えるボーナスポイントが重要というのは、ここで振ったポイントが、これからのレベルアップでのステータスアップにずっと影響する、ということだ。一番影響力のあるポイント割り振りって意味だな。

 俺はこの先もMPに振るからほとんど差はないんだが。


「おっまたせー! 待った?」

「おせーぞ、ユ……ズ?」

「あれ? ユズだよね。 でも何か違うような?」


 柚木崎 莉子、最初と最後の文字で柚子――ユズ。

 いつもの名前、見慣れたはずの顔が近付いてくるのは分かるのだが、どこかが違う。髪色が白になってるとか瞳が赤っぽいとかそういう分かりやすいもんじゃない。

 正直に言うと、リアルよりも可愛いのだ。


「だが、莉子がこんな可愛いはずはな――うお!?」

「ちっ。町中じゃ、プレイヤー間の攻撃は無効なのね」

「おま、いきなり切りつけてくるやつがあるか!」

「うーん、髪が白になって目が赤色になった? ぐらいしか分かんないなぁ」


 怖ぇ……!

 今、目の前で剣が弾かれたぞ!?

 感覚的には皮膚の上に薄いバリアが張ってある感じか。町から出れば無くなるんだろうけどな。


 で、ユズの顔だが、髪や目の色を変えただけでここまで違和感があるのも信じられない。

 肩下まで届く長い髪は同じ。身長も140後半だったはずで目の前のユズと変わってはいないと思う。

 元々、悪くない顔ではあったが目元やら鼻がイマイチで……ん?


「ユズ、目元に違和感あるんだが。あと鼻」

「おおっ! せいかーい。目元と鼻にちょびっとだけ手を加えたのよ。あ、あと輪郭もね」

「あー、言われてみればそんな気がする。それで時間かかってたの?」

「微調整が難しくてね。目元の後に輪郭いじったら、また、目元のバランスが納得できなくなったりして」


 少しずついじっただけでここまで変わるとは、整形恐るべし。

 ただ、残念な部分は残念なままだったようだ。顔とか背丈ぐらいしか弄れなかったからな。


「まあ、胸が無くてもいいってやつはいくらでも……。ちょ、やめろ! ダメージ無くても刃物向けられたら精神的にくるだろ!」

「ハッ、ざまあないわね。それで、テイクは特別職を貰えたみたいだけど、それなに?」

「ああ、テイマーになったみたいだわ。これが俺のステータス」

「どれどれー。え、あんた《即死回避》いれたの!? これ使えるようになるまでどれだけレベル上げなきゃいけないか分かってる?」

「育てるつもりないけど」

「はあ!? ……いや、そういや、あんたはそういうプレイスタイルだったわね。HPとVIT生命力も上げないなら《即死回避》のLv.1でも使えるかもしれないってこと? 痛覚設定はどうするのよ」

「そこは気合いで。ゲームなんだし、そこまで痛くないって」

「あー、だといいわね。βじゃ、一気にHP持ってかれたなんて聞いたことないし、やってみないと分かんないか」


 《HP自然回復》との併用で《即死回避》大活躍の予定だからあんまり痛くなければいいなー。


「あと、《MP自然回復》はともかく、《HP自然回復》は死にスキルよ。回復薬や回復魔法の方が早いんだから」

「レベル上げれば変わるだろ?」

「魔法のレベル上げた方がいいに決まってんでしょ」


 スキルのレベルを上げるには、キャラのレベルが五の倍数になった時に貰えるスキルポイントを使う必要がある。スキルポイントは新しいスキルを取得するのにも使うので、《HP自然回復》に使う余裕はないそうだ。多くの魔法スキルを取っても、育てきれないってのも同じ理由。

他にも、魔法スキルでの回復は任意の相手に使えるが、《HP自然回復》は自分にしか影響しないことも死にスキルと言われる所以ゆえんである。

 レベルが上げにくいってことは上げれば化けるかもしれない。そう考える俺は間違っているのだろうか。

 魔法スキルは上げないけど。


「ま、そんな訳で俺はテイマーだな。ケン達は何にしたんだ?」

「僕はβと同じ。ドワーフのウォリアーで典型的なタンカーだね。特典はボス八十体撃破の“守りのアミュレット+7”。最初の方でいいアクセサリーが出てくることもないだろうし、長く使うことになるんじゃないかな」

「私もβと一緒よ。エルフの剣士で、魔法も使うから魔法剣士ね。特典は“沼の主 異形の泥蛙”三十体撃破の“マッドトパーズ(剣)”。宝石じゃなくて水属性付きの武器で、種類は選べるみたいだったから剣を選んだわ。特典のことを聞いてから嫌々、泥カエル狩ってたから、思った通りの性能で安心したわよ。土属性かもって思ってたもん。」


「βと変わらずか。つまらん」

「普通は変わんないわよ」

「それで、早速どこか行きたいんだけど、どうする?」


 そうだった、俺は先を越される前にテイムしなきゃいけないんじゃないか!

 すぐにユズにもテイムについて説明する。もう、誰かテイムしてるんじゃないだろうな!


「ふーん、先着一名様が楽になるって訳ね。それなら、私に任せなさいな!」

「何かいい案でもあるの?」

「いい? まず、魔法を撃つにはMPが必要でしょう? でも、初期の段階でMP回復薬の数を揃えるのは難しい」


 ESOでのMP回復手段は三つある。すぐに多くの量を回復できるMP回復薬。俺も持っている《MP自然回復》スキル。そして、町でログアウトし、放置することでも回復する。

 普通は《MP自然回復》スキルを使って回復を待つらしい。なんだか、そんなスキルを取得したと思うと、埋もれてしまったような気がして悔しいな。


「でも、私には“マッドトパーズ”があるわ。水属性ってことは魔法攻撃してるのと同じことなのよ」

「つまり、どういうことだ?」

「なるほど、読めてきた気がする。物理攻撃よりも魔法攻撃が効く相手を探せばいいってことだね?」


「属性付きの剣なんて、今の時点で入手できるのはβ特典じゃないと無理よ。他にも持ってる人はいるかもしれないけど、その人がテイマーと知り合いだなんてなかなかないんじゃないかしら」

「抽選するぐらいだし数を絞ってるのは明らか。抽選に当たったとしても選ぶかどうかは分からないしね」

「おおお! なんかいけそうな気がしてきた! それで、何を狙うんだ?」


 俺には魔法があるし、《MP自然回復》もある。連発はできなくてもケンがタンカー、ユズがダメージを蓄積させて、俺がとどめなら数もいらない。

 テイマーというより、完全に魔術士のポジションだが、テイムをしなければ始まらない。これは仕方のないことだな。

 そして、その最初の仲間の名前をユズはおもむろに口にした。


「私達が狙うのは、スライムよ」

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