第1章「テイマー始動」

第一話「キャラ作成」

 ついにこの日がやってきた。「Each Story Online」製品版発売の日だ。


 俺はもちろん予約していたので、今日からログインすることができる。夏休みに発売するのは商法的に常套手段なんだろうけど、学校を気にしないでいいのはとてもありがたい。

 つい先ほど、製品版をダウンロードし終わったので、準備は完了。

 VRギアを頭にセットして横になればすぐに始められる。


VRギア自体はその手の会社に勤めている姉のおかげでタダ同然の値段で手に入ったが、ESOは自腹だ。

 高校生には痛い出費だったので、その分楽しみたいと思う。

 ……極振りに優しい運営さんだったらいいなぁ。


「ギアよし、ベッドよし、極振りの覚悟よし!」


 さあ、ESOの世界へ!


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 VR特有の浮遊感を味わった後、いつの間にか目の前に浮かんでいたのは俺の体格に似たマネキンと、名前やキャラのジョブ等の入力フォームだった。

 マネキンの体格は以前、ギア自体に設定した数値が反映されているのだろう。いじることもできるみたいだが……。

 うん、ちょっと背が伸びたはずだし伸ばしとこう。


 ついでだし、まずは、マネキンの方を終わらせるかな。ただ現実の俺に似せていけばいい簡単なお仕事。

 リア友と一緒にするゲームだとあんまり奇抜なものは引かれるのだ。

 実際、モヒカンで引かれた俺が言うんだから間違いない。


「髪は黒。モヒカンは確か、VIT生命力極振りの時だっけ。ま、もう髪はいじらないけど。前が見辛いのは論外として……結局、短髪かね」


 独り言で寂しさを紛らわしながら、マネキンを作成していく。

 あまり時間をかけずに完成したのは、目の色が少し青みがかったのと、ほんのちょっと背丈が違う、ほぼ俺と同じキャラだった。


 そして、待ちに待った入力フォームへ意識を移す。俺は好物を最後に食べるタイプだ。


「名前はいつも通りテイク、と」


 たける、タケ、take、テイク。安直で何が悪い。俺は結構、気に入っている。


 お次は種族。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ノーム、そして獣人。

 種族によって得意、不得意な行動に補正がかかるらしく、エルフなら魔法攻撃が普通よりも大きなダメージとなるが、物理攻撃は少し弱くなってしまうとのこと。

 MPを極振りして魔法をバンバン使う予定の俺は、もちろんエルフを選ぶつもりだった。


「ただ、エルフも気になるけど、この説明が引っかかるんだよな」


 気になったのはヒューマンの説明文。


『ステータスは平均的。突出するものはないが極めて劣る部分もない。可能性を秘めた種族』


 初心者向けに見えるが俺が気にしているのは“可能性”の部分だ。これは、ステータスに上限がない。ということではないだろうか?


 別のゲームでは、そのレベルに対してステータスの上限が決められており、レベルを上げなければステータスを上げることもできない、極振り泣かせなものがあった。

 ヒューマンだと、この上限が無くなる。つまり、平均的と見せかけて実はものすごく尖った種族なのではないかと!


「俺の勝手な考えなのは否定しないがな」


 それでも、素敵な極振りライフを脅かす可能性のある芽は、摘んでおくに限る。種族はヒューマンを選んでおいた。


 そして、職業、ジョブを決める。

 大本命だ。特別職だ。


「さーて、特別職ってのは何だろなー」


 項目をスクロールしていく。一番上にないなら一番下だろう。そう思っていた時期が俺にもありました。


「……ない。え、待って、どゆこと? 剣士、魔術士から始まって、木工職人で終わり? 木工はβでもあったし特別職じゃないだろ。まさか十位以内に入れなかった……?」


 嘘だ。そんなはずない。信じない。

 何度も何度も特別職を探して視線を往復させるが、やはりない。

 ああ、一気に気分が落ち込むのを感じる。殲滅数で負けるはずがないと思っていただけに、一層、ズブズブと沈んでいく。

 もう、立ち直れない――


「……ふぅ。よし、しょうがないな。目的は極振りだし、気にすることでもないか」


 ――なんてことはなかった。

 いや、正直こんなので腐ってたら、極振り続けるなんて無理だからね。最初はみんなとスタートライン同じで結構やっていけるけど、進んで行く内に壁にボンボンぶつかる訳で。

 その度にそのマップの推奨レベル以上にレベリングしたり、奇策考えたりで落ち込む暇がないのが現状。現実。


「特別職がダメなら何にするかなー。生産職も楽しそうだけど極振りには向かないし、MP極振りは確定事項なのを考えると、魔術士だとありきたりだよなぁ」


 迷った末に弓士を選択。武器スキルを育てることで攻撃スキルが増えるのだが、これにもMP消費があるのだ。MPつぎ込めば、スナイパーとかできるんじゃね?

 と、考えたのだが、DEX器用さ初期値だと当たらないかもしれない。とりあえず、保留。


「んで、スキルか」


 項目別に並んだ色々なスキルから十個選ぶらしい。職を弓士にしているので《弓》スキルは固定となっている。

 もう一つ、《風魔法》も勝手に付いているが、これは魔法系スキルの中からなら、別のものに変えられたはずだ。


「ま、俺はもうほとんど決めてるけど」


 MPを極振りすると決めてからすぐに埋まったスキルがある。

 《火魔法》《水魔法》《風魔法》《土魔法》《光魔法》《闇魔法》だ。


 お察しの通り、これらは取れる魔法スキル全て。

 普通、魔法スキルは重複させずに一つの魔法スキルを重点的に育てるのがいいとされている。

 うん。俺もそう思う。


 でも、俺は魔法スキルを育てるつもりはない。俺の極振り魂はそんなヤワではないのだ。

 てか、魔法スキル極振りぐらい誰かやるだろ!

 被りはノーサンキューだ!


「これで、七つのスキルが決まった訳だが。後は3つか。まずは、βの特典から見てみるかなー」


 多分、パッシブ系とかにある気がする。勘だけど。

 パッシブ系ってのはアクション系の反対で、特にコマンドする必要なく、常に恩恵のあるスキルのことだ。

 《跳躍》《ダッシュ》《解体》《詠唱短縮》などが並ぶのを見ながらスクロールしていく。


「パッシブ系も面白いのあるなー。お、今MPって書いてたな。《MP消費軽減》か。MPは有り余る予定だからパスだな。ん? 《MP自然回復》ね。これ極めたら撃ち放題とかなったりすんのかな。よし、これは保留。《毒耐性》? INT知力値極振りの時欲しかったなー。って、あれ?」


 ついにスクロールが終わり、最下部にあったのは《混乱耐性》。まさか、これが特典なはずはないし、途中にあったのかな? それっぽいのは結構あったし。《致命の一撃》とか《即死回避》とか。

 ただ、どれも性能が微妙すぎる。


 《致命のー撃》は、直接攻撃を行った際、自分のレベルよりも相手のレベルが下の場合、0.01%で即死させる効果だそうだ。

 レベルが上の相手には一切効かないし、確率も悪すぎる。


 《即死回避》は、自分のHPが100%から一撃で0になる攻撃を食らった時、HPを1残す。

 だが、ESOではHPを一撃で全部持っていく攻撃をされることがほぼないので活躍の機会もない。

 しかもこのゲーム、痛覚設定がHPの減り幅によって変わるのだ。


 堅碁がHPとVIT生命力だけでも上げろと言っていたのはこの痛覚設定のため。

 全快から1なんて攻撃を食らって痛い思いをするくらいなら、即死した方がマシだと思う人は多いだろう。


 《即死回避》なんてしてしまえば、どれほどの痛みを受けるのだろうか。

 ゲームなんだし、そこまで痛くないだろうが痛みは痛みだ。できれば味わいたくはない。


「きっと、スキルを育てれば変わるんだろうけど、特典としては足りない気がするんだよな……」


 ここで、ふと思い出す。特典一覧に「βソード」なる、剣士を選ぶだけで貰える特典があったはずだ。

 俺は剣士でゴブリン大虐殺をしていた訳だし、これなら必ず手に入れられるはず。


「当てはまる特典全部を貰える訳じゃないだろうし、どっかに選択画面が……おっと?」


 βテスト特典という言葉を探そうとすると、いきなり目の前に入力フォームが浮かんだ。


『βテスト時のプレイヤー名、職業、IDを入力してください』


「……」


 とりあえず、打ち込む。

 テイク、剣士、ID:tAke。

 aを大文字にしているのは仕様だ。


 そして、認証された後、再び表れるウィンドウ。“取得可能特典一覧”。

 震える指……はないから意識でスクロールしていくと。


「“職:テイマー”……。あったぁっ!」


 即決! 即採用! 他の特典なんて目に入らないね!


 “職:テイマー”を選択。確認の画面もすぐに“yes”を選択。

 “取得可能特典一覧”が消え、入力フォームの一番上にある名前の欄が出てくる。

 ……いや、名前の上にも何か。


『βテスト参加プレイヤーは「βテスト特典」と思い浮かべてください』

「見なかったことにしよう」


 さ、スキル決めちゃいますかねー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る