さくら街道
柚月伶菜
さくら街道
桜街道と呼ばれるここは、毎年春、多くの花見客でにぎわっている。
今年もまた、満開の桜が人々を喜ばせていた。
昼下がりのある日、母に手をひかれた女子たちが桜を見にやってきた。
ある女子が言った。
「あの桜の木まで競争しよう!」
またある女子が言った。
「よーい、どん!」
女子たちは、母の手を離れ、どんどん走って行った。
「あっ。」
ひとりが小石につまずき転んだ。
「大丈夫?」
と駆け寄る女子。
立ち上がると、女子は言った。
「あれ、桜の木はどこ?」
目の前に広がっていたピンク色が、暗く染まっていた。
「さあ、桜なんて、もともとないんだよ。」
そう答えたのは、腰を曲げた老婆。
「でも、さっきまで桜はあったよ。」
「それは、幻覚だね。桜なんて、ないんだから。」
「美夢ー。」
母の呼び声に、後ろを振り向いた。
「あのね、桜が・・・。」
そう話しているとき、女子の目の前に桜の花びらが落ちてきた。
桜はそこにあった。ピンク色に染まった桜たちが女子たちを囲んでいた。
「あれ、おばあちゃんは?」
見渡す景色の中に、先ほどの老婆はいなかった。
母に手を引かれ、行く道は桜街道。
ソメイヨシノが並ぶこの道は、昔、戦争で荒れ果てた、焼け野原だったという。
さくら街道 柚月伶菜 @rena7
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