おえっ(嘔吐)

 少し眠らない?

 縄状の吐息をふきつけ、しなだれかかってくる魔性はそう聞いた。

 ねえ、きっと、あなたが何をしたって変わりはしないのよ。

 相も変わらず寒気が走る甘く、危うげな音色は僕を奈落に誘う。もうあしらうのも疲れて、僕はそいつがなすがままにされて、意識だけはようやくはっきりとさせているところだった。

 目の前の、体を鎖できつく縛られ、猿轡までさせられて、痣もついた顔にされてさえ、僕にやさしく語りかけようとする目と僕の目がかちりと合った。

 きっと、こんなになっても僕を信じているのだ、そう思うと僕の拳が握られて、また痣の位置を打ちすえた。

 そうよ、こんな馬鹿らしいこと、放っておいて、休みましょうよ。

 きっとそれがいいわ、と勝手なことを魔性は言い出した。それでも僕は、いや僕の体はなすがままにする魔性に逆らうことができなくなっていた。

 また目が合った。真っすぐな、瞳の奥から僕を微塵も疑わないその心はどこからくるのだろう。ああ、あの真っ直ぐな心が手に入ったらこんな悪霊、すぐに払いのけてやれるのに。

 魔性が僕の目を覆い隠して、今度は体のすべてを縛り付けてきてしまった。

 僕が僕だとしても、きっと僕は魔性の奴隷で、澄んだ目をふと見ては後悔するんだろう。

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