050 ポリシーと命名

 僕は名前を付けるのが苦手なんだ。

 ホバリングについても1時間くらい悩んでる。フライ、フラップ、エアリアルなどなど。術自体の構築より苦労したくらい。

 そして僕たちはパーティ名について、考えないといけない。

 登録は早い方が良い。


「ハンナ、何か希望ある?」

「美味しいお肉一杯食べたい!はどう?」


 近くのテーブルで果実水を飲んでたおじさんが霧を吹いた。僕もパーティの名前としては攻めすぎだと思う。


「それはパーティ名にはできないなぁ」

「じゃぁ肉盛りパスタ」

「肉から離れた方が良いと思うよ」


 パーティ名は、お店の名前、村や町の名前のようなもの。僕たちへのイメージを決めるものだから。


「じゃぁサウルは?」


 もうマスター呼びはしないのかな? と思いつつ。


「パーティのコンセプトを決めないといけないね。僕とハンナは前世持ちという共通項があるけど、それは冒険者のポリシーとは関係無いし」

「ポリシー……。ハンナはサウルに……。あ、う。ハンナは、機人は。マスターの望むとおりに頑張るから、ポリシーは思い付かない」


 そのとき、チラリと護符が目に入った。

 フラム様から貰ったもの。

 フラム様が言ってた。神は今地上に居ないって。

 僕は、前世でハンナと一緒に神域のような所にいた。そのままでも良かったはずなのに地上に降りた。けど生まれ変わった僕には特に使命は無い。コウタロウさんの記憶は僕に自由に生きろと言った。

 コウタロウさんは別の所からきた。主神メトラルと同じ世界から。

 でも僕は神じゃ無かったらしい……。

 神ってなんだろうなぁ。

 僕がコミエ村で生きているだけで、フラム様が活性化し、復活のきっかけになった。と言うことは、目覚める前の僕でも神を揺り起こせる。今だとどうなんだろう?

 フラム様の力は凄い。ロジャーの事に直ぐ気づいたし。でもウェイトレスのジーンさんと同棲してる。すごく享楽的で、神殿で習った立派な人格者、というイメージは無いんだよね。

 最下位の土地神があれだけ凄かったのに、古代文明は幻魔との戦いに負け、世界は法則を改変され、滅びかけた。けど、それをギリギリ最後のタイミングで復活王が振り払ったのだという。

 人は幾つかの種族が欠けたけど生き残っている。

 でも、神は去った。


 神かぁ。

 そもそもロジャーやセニオ、泡倉のハイエルフ、エルフ、その他の住人。

 聞いても教えてくれないのは間違いない。

 多分、僕には自分で考えて欲しいんだと思う。そうさせたいんだろうと気がついてきた。

 僕に何かを期待している。そう思う。


「ねぇハンナ。僕たちの冒険は神様のことをテーマにするのはどうだろう?」

「神様? それは泡倉とかが関係してる?」

「あ、うん」

「ハンナは別に構わないと思う。でも、新しく仲間を入れる時には慎重にしないといけないかも」

「あー、うん」


 ハンナの言うことももっともだ。もし僕とハンナ以外の誰かを仲間に入れるなら僕たちのややこしい事情を話さないといけない。かも。

 テーマが別なら構わないだろうけど。

 あ、でも、テーマに至った理由で本当のことを隠せば?

 でもそれは嫌だなぁ。


 じゃぁ、他にテーマを考える?


「ハンナ、テーマは神様にしよう。で、パーティの名前は『』というのはどうかな? 色んな所を回って神様を覚醒して、世界を古代文明の前、理想郷の時代にするのを目標に」


 まぁ僕も大きく出たなと思う。

 ハンナは一瞬大きく目を見張ったが、すぐにくすぐったそうに笑った。

 やっぱりハンナの笑顔は良いな。


「神々の復活は冒険者の夢の一つ。古代文明や神話の復活を目指す、今の世界の前の欠片を探すと頑張る学者もいる。サウルとハンナは前世という大きなヒントがある。きっとできる」


 前世とライブラリは大きいね。

 僕の潜在能力はほとんど制限無し。

 ハンナも機人という伝説の存在。

 普通の冒険者より、きっといける。


 でも、さ。

 僕の口から、ふふっと笑みが漏れた。

 ついさっきまで、コミエ村で一生終えるつもりだったのが、神々の秘密を追う、なんて大それた事考えるなんて。

 ほんと流されやすいな、僕って。


 ハンナのことは今では大事な仲間、いや、相棒かな? そんな風に考えてる。

 笑顔も可愛い。

 ハンナが笑うと、照明が有っても暗い組合の中が明るくなったようになるし。

 以前のコミエ村での様子を考えて、さらに探索術を身につけてるんなら、きっと僕と彼女は良いコンビになる。


 ただ……。


「ねぇハンナ。これから冒険者活動を本格化させるなら、コミエ村に相談が必要だと思う。お金のこともあるし、バスカヴィル商会の事もあるし」

「ハンナもアランに相談する」

「え? 許可取ってなかったの?」

「うん」


 ハンナは、当たり前のようにうなづいた。


「思いつきだったの?」

「違う、ずっと考えてたよ。でも言ってなかっただけ」

「アラン様は、夕方来る予定だったっけ?」

「うん。そう。コミエ村に送る職人なんかと一緒に来る」

「それなら、どうしようかな」


 今、お昼くらい。右下は12時半前。ホバリングなら、馬車で半日の場所に行くのは簡単。でも、僕一人で行ってもしょうがないよね。ハンナをどうやって連れて行こうかな。


「ねぇハンナ。ハンナは四大術使えたよね?」

「うん。最後にあったときより上手になった」


 うん。ホバリング教えてみよう。駄目なら、あの時の壁越えの身体能力ならきっと何とかなると思う。


「じゃぁ、僕の四大術の一つを教えるよ。ホバリングという移動用の術」

「それでアランを迎えに行くの?」

「うん。そうしようと思うんだ。ただ……」

「なに?」

「うん。ちょっと食べてからにしよう」


 休憩所のウェイトレスさんに一品とお水を頼み、泡倉から肉串を取り出して。冷えてるけどさすがにここで火をおこすわけにも行かないもんね。我慢しよう。

 あ、水も出せるけど。持ち込みばかりというのも、気が引けるし。


 軽食(?)を取りながら情報交換。最後に会ってからの事を中心にね。

 組合の職員さんが交代で食事を摂るのを横目に見ながら。

 僕の方は、あまり変わったことが無いけど、ハンナの方は中々すごい。


 大学での派閥争いや貴族の干渉でハンナの所有権が国に移りそうになった話は、すごく腹が立った。人を何だと思ってるんだ! って怒ったらハンナが「ハンナは機人」と突っ込んでくれて、なんだか怒りが醒めた。

 改造も、肉体が狭くなったので、神経やらを取り出して植え替えると言う話で。今のボディの開きをアラン様、セレッサさん、ハンナの三人でチェックしたり修正したりしたそうなんだけど。

 僕は怖いよ。自分をかっさばいて、自分の開きの中に詰め込んでいくんでしょ?

 なんかぞわっとするよ。


 食欲の出ない食事の後(お残しはしなかったよ?)、演習場でホバリングの教授を行ったんだけど、楽だった。

 ここの冒険者の人達は、僕のやってるのを見て、説明を普通の口頭で聞いてやってた。だから、術の仕様とかが伝わらない。

 でも、ハンナはアラン様から魂倉と呪文書の使い方を習ってたみたい。なので、呪文書に載せてる象徴の名前や式で話せた。

 将来的には、口頭を通さず、呪文書の情報を直接渡せるようになりたいなぁ。


 そんなこんなで、ハンナは僕のホバリングをあっけなく習得した。大体1時間くらいかな? 教授が10分で、後は実地の練習。

 これで、ハンナが持ってる術を僕も直ぐ使えるし、お互い改良したらすぐ上書きできる。良い事尽くめ。

 僕は嬉しくなって、思わずハンナのあごの下をなでた。ハンナは途端に目を細めてうれしそうな顔になり、何故か右腕を挙げた。

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