049 パーティ結成
「サウル、彼女とは知り合いか?」
黒剣団のゴードンさんが、僕たちの掛けているテーブルに来て声をかけてきた。何か憑かれているような感じだけど、後ろにいる他のメンバーは僕に手を振ったりしているので多分大丈夫。
「はい。彼女、ハンナはアラン・マサース教授の養子で、以前僕と会ったことが有ります。ハンナ、こちらは冒険者の黒剣団の皆さん。昇格試験では僕がお世話になったんだ」
ハンナは立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「アラン・マサースの養子、ハンナ・マサースです。サウルとはコミエ村で親しくさせていただきました。今後サウルと共にここで冒険者をしていきますので、ご指導よろしくお願いします」
あ。
僕がぎょっとしてハンナを見ると、こっちを見てドヤ顔する。適当に誤魔化して逃げようと思ってたんだけど、外堀埋まっちゃった……。
僕、預かり子の身分に不満は無いんだよね。だから僕が開放されるために必要な金額も知らない。村の人達も好きだし、兄も母も好き。父はちょっと……。……うん。ええと、だからずっと神殿でみんなの役立つように生きていければそれで良い。
どちらかと言えば、それ以外の選択肢がある事すら考えてなかった、のかなぁ。別に意地でもコミエ村に拘ってるわけでも無いし……。
しかし、ハンナとは前前世(もっと?)からの因縁かぁ。
……おとぎ話みたい。でも信じてもいいかな。
ん? ゴードンさんがなんか挙動不審なような。ゴードンさんのこういう感じ、初めて見るかも?
「あの、ゴードンさん。ハンナはこう見えて4才ですよ。子供ですよ」
「え?! あ、あぁそうだったか。サウルと同じでちょっと変わった体質、なのか?」
「ええ」
僕のギフトや体質はちょっと変わった、で済むようなモノじゃ無いけど。今、アレハンドロではそういうことにしてる。
僕の急成長を見ても皆余り驚かない。前世が絡んでたりするとたまにおかしな事があるから。なのでおかしな事があれば前世絡みということで思考停止。お陰で助かってるんだけど。
「はい。恥ずかしながらまだ4つでございます」
誰? 僕と話すときと全然違う。と、ハンナを見るけど、ハンナは猫を被ることにしたみたい。元デグーだけどね。
黒剣団の皆さんと僕とハンナが席に着く。ちょっと狭いので近くのテーブルを引き寄せて。人も少ないし問題ないと思う。
「参入者審査のことなんだが」
「はい。何か問題が?」
「今回9級となってるが、依頼全体の事と、ホバリング、他の貢献もあって8級でもよいのでは、と言う話が有った。しかし、戦闘経験の少なさで流れた。サウルは6級を目指すのか?」
ん? どういう意図だろう?
6級から3級の階梯名は文字通り『冒険者』で、そこから始めて一人前として扱われる事になる。ちなみに9級の僕は参入者。自衛以外の戦闘が認められる。8級、7級は修行者。黒剣団は6級。キマイラの咆吼は5級。アラン様セレッサさんは3級で、セリオ様、マリ様のコミエ村神殿の皆さんは4級。
ただ、人手不足だったり6級になるのが難しかったりで、最近は7級でも一人前と見なす事も多いみたい。
ちなみに2級は到達者で英雄。1級は超越者と呼ばれ、神々にスカウトされるんだってさ。最上位0級は列神。神様扱いだけど、名誉職らしく、たまに歩くだけでやっとのご老人がその地位に就くらしい。
このアガテ王国の建国王が2級から0級になってるとか。
「はい。まずはそこを目指します」
「お前は術理具や四大術での開発で名が知られつつある。わざわざ危険な冒険者をせずとも良いのではないか?」
馬車のことや、草刈り、マッサージの術理具はそろそろ名前が売れてきている。そこに僕とコミエ村が絡んでることも。四大術の方はちょっと言えないこともある。魂倉の部屋や呪文書はアラン様に口止めされてる。でも、術の改良や引数の考え方は応用できるところがある。
黒剣団の四大術師ロブさんも僕からヒントを得て助かったって言ってた。
「しかし、僕はコミエ村の神殿の預かり子です。いつかはコミエ村に帰りますし、あの辺りは物騒です。戦う力があるに超した事は無いです」
「そうか。しかし、ソロか。サウルは探索術やその系統のスキルは無いのだよな?」
「ええ」
「それでは上に上がるのは中々難しいぞ?」
ゴードンさんが言うのも分かる。いざとなればロジャーに頼む手も有るけど。それは違う気がするんだ。
「それなら私がお役に立てると思います」
野生色マントのハンナが口を開いた。
「スキルパスは開いてますし、エネルギーも。ますt、えっと、ですからサウルの助けにはなると思います」
「そうか、なら良いんだが。パーティ申請はしたのか?」
あぁ、組合に提出しておかないと。
「いえまだです」
「そうか。それで、さっきのならず者だが。領主の館に入ったのをサミーとロブが確認してる」
サミーさんは探索術と弓と罠。ロブさんは四大術だけど、山歩きなども得意。二人とも備考なんて朝飯前。
「領主様絡みですか? 王都の有力者の部下なんでしょうか? そう取れる発言もありましたし」
「そうかもしれない。だが俺たちでは王都の事は分からないからな。力になれず済まないな」
「いえ、とんでもないです。気を使って頂いて有り難うございます」
その後、キマイラの咆吼の皆さんの姿が見えないので聞いてみると、南方にダンジョンが出来たため、そこに向かっているとのこと。
ダンジョン……。
ダンジョンって『地下牢』という言葉が元だってコウタロウライブラリが言ってるけど、どこにでも生まれる。入り口は地下へ向かう階段だったり、宙に浮かぶドアノブだったり様々だけど、その中は地上とは別の場所。
迷宮だったり、平野だったり、森だったり。居るのは魔物。稀に幻魔。
集落の側に出現した場合、早めに手を打たないと集落が飲み込まれることもある。
ダンジョンは、一つ一つに個性があり、油断ならないもの。
こうだろう、という、思い込みや常識が罠になる恐ろしい場所だ。
だけど、そこを踏破するのが冒険者の花だ。生きて帰れば素晴らしい宝を手にすることもある。
そのダンジョンにキマイラの咆吼は向かった、と。街道から少しだけ離れた場所だったので、発見も早く、収束も早いだろうとのこと。
なんだかんだ言ってもキマイラの咆吼はアレハンドロの若手では一番と言われるパーティ。ゴードンさんは安心しているみたい。
「キマイラの咆吼は階梯こそ5級で俺たちの一つ上だが、実力は既に4級だと思っている。発生したばかりの物のようだし、数日で帰ってくると思うぞ」
「ちなみにどの辺りですか?」
「王都に向かう街道を10kmくらい行って、そこから森を1時間、だったか」
この国の集落は、森の中に浮かぶように出来ているのだそうだ。アレハンドロのような大都市でも、数キロも離れれば森林。
森林には魔物も動物も居る。戦う力に乏しい一般人にとっては森は恐ろしい場所なんだ。
開墾し、道と集落を作る事で森という化け物と闘う。
だから草原や畑は、人類の勝利の証し、みたいなところがある。畑は集落の外に作って、いざとなれば見捨てることになってるけど、それが出来ずに魔物に抵抗して殺される農民さんは多いのだそうだ。
森の中へ1時間ということは、狩人か冒険者くらいしか立ち入らない奥地ということになる。多分、猟師さんがみつけたんだろうね。
しばらく話しているとゴードンさんは僕が本気なのかどうか心配してたのだなぁと分かったよ。まぁそこは納得して貰って、解散した。
さて、組合には申請出さなきゃ。
ソロだと特に名前付けなくても良いけど、一応パーティになるからね。
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