040 参入者へ2

 両手にリンゴとチーズを持って歩く僕。後ろの皆さんが呆れた目で僕を見てる。え? なんで分かるのかって? いつもなら気温や時間を表示してる右下に、後ろの様子が表示されてるから。正に後ろに目が付いてるようなものだよね。僕は探索術が使えないからすごく便利。拡大縮小に視点移動も出来るので、両手が塞がっていても警戒は出来るのです。うん。

 あ、ちなみにロジャーさんは見守りモードです。ほんとに僕の手に負えないようなことでも無い限りは手出し無用と命令してるのです。そうじゃないと成長できないからね。


 急に体が成長して一番困ったのは体の使い方。

 もちろん日常動作くらいは問題ないんだけどね。戦闘行動なんかだとずれる。今も、とっさの動きはちょっとおかしい。成長が急すぎて脳がついていけないみたい。

 コータローライブラリで何か参考できないかと探してみたら、成長時の動作についての考察が幾つかあった。すごく助かった。でも、不思議なんだよね。あの書き方だと、コータローさんはまるで、みたいなんだよね。転生なら名前が変わるし、インタビューとかそういう感じじゃなかったと思う。

 まぁいいけど。

 あ、あともう一つ変わったこと。

 感情が落ち着いたんだ。時々、僕自身でも制御できない感情が溢れて泣き出したり笑ったり怒ったりしてたんだけど、大分落ち着いたんだ。

 僕は同年代の子供と比べると大人びてるでしょ? 自分が妙な衝動に引きずられるのが嫌だったんだ。それが落ち着いてほっとしたよ。


 さて。街を出て北に向かって1時間。

 土埃を巻き上げる大きな街道から外れて行くと、あっというまに様子が変わってきた。人の手の入っていない森の中に辛うじて荷馬車が通れるだけの道がある。山の方に向かっているから緩やかな上り坂。

 蝉が鳴き、虫はぶんぶん飛んでくるし。それでも道を歩けば木が生えてないから歩きやすい。

 でも、もうちょっと、ちょっと楽をしたいな。だって上り坂疲れるもん。


「すいません、ペース上げますねー」


 後ろに向かって叫ぶと、僕は一つの術を魂倉のライブラリから呼び出した。

 途端に腰、太もも、すね、足の裏と、幾つもの円筒に包まれたファンが出現する。それが稼働すると、凄い勢いの空気の流れが生まれ、僕の体は1mほど宙に浮いた。ちなみにうるさい。しゅーしゅーとおっきな蛇が沢山いるみたい。それに、ちょっと高度を取らないと、土や石を巻き上げて面倒くさい。


「じゃ、行きますか」


 僕は中腰になり前を向く。背中からもう一つ大きな音がして風がでる。それが推進力となって僕は進み始めた。

 右下のモニターでは黒剣団の皆さんが慌てて追いかけてくるのが見える。フラム様も。僕のスピードは時速10km程度。ちょっとした駆け足程度だ。後ろの皆さんは装備を背負ってるし、緩やかとは言え上り坂で大変みたい。

 あぁ、フラム様から護符越しにご連絡だ。もっとゆっくりにしないといけないか。置いてけぼりにして査定が悪くなるといけないしなぁ。

 ま、いいや。


「じゃ、もうちょっとゆっくり行きますので、付いてきてくださいね!」


 ホバリングの術はうるさいので、僕は大声で告げ発進した。今度は時速6km程度。皆さん軽装だし、問題ないはず。


 村まで数百メートルと言うところで術を解除したんだけど。

 黒剣団の皆さんはついて来れてないね。まぁ平地の街道を走るのとは訳が違うから仕方ないのかな。


 当然のように付いてきたフラム様がホバリングについて聞いてきたので、大ざっぱなやり方と制御のコツを話してると、黒剣団の皆さんがやってきた。

 さすがに平気な顔をしている。

 ほぼ日の出と共に動き始めたから、まだ日差しも強くない。森と村の境目が良く分からないこの村には何度かお届け物もしてる。だから村人とも顔なじみなんだよね。道を歩く人と挨拶する。大きくなる度に別人に間違えられてめんどくさかったけど。普通の子供はちょっと見ない間に10cmも背が伸びないし、ね。

 今日はみんな、僕より僕の後ろに付いてくる人達を見て驚いてる。その度に、説明するのがこれまた面倒だね。

 ここは大した産品もなく、焼き物や山の幸、薬草を街に売り、後は自給自足で生活している。鍛冶屋も薬師も神官もいないし、何か有ると外に頼らざるを得ない弱い村だ。

 でもさすがにゴブリン二体なら何とかなるのでは? 大人が数人武器を持って戦えば。


 あぁ、やっぱり面倒ごとが。

 僕はから話を聞きながら、眉間にしわが寄ってきた。

 先日、ゴブリンの小集団が村を襲い、村長を先頭に有志が対抗。何とか大部分を倒したけれど、村人にもけが人と死人がでたとのこと。村長も大けがで今も寝たきり。動かせないからまともな治療も出来ないとの事。

 一昨日から残ったゴブリンらしきモノが現れ、畑に被害があるとのことで、それを退治して貰いたいというのが今回の依頼。

 とりあえずゴブリンの脅威が無くなったら男手を集めてけが人をアレハンドロまで連れて行き、治療するのだという。


『ねぇロジャー』

『駄目ですぜ、坊っちゃん。あっしは認められませんな』

『まだ何も言ってないんだけど……』

『止めといた方が良いと思いますがね』

『んー……』

『神術は人前で使わないってのは、ご自分で決めたルールじゃなかったんですかい?』

『……んーー』

『……』

『ありがとうロジャー。整理が付いたよ』

『お役に立って何よりで』


 自分で決めたルールなんだけど、実際に傷ついた人を治療しないというのはなんかもやっとするね。でも、四大術と神術を同時に使える人というのは今まで例が無いそうだからね。それに村長さんは、今治療しないと行けないわけでもないし……。


 そこから、荒らされた畑を見せて貰ったよ。食べられない切れっ端なんかを溜める場所が荒らされて、畑に植わっている作物も根ごと掘り起こされていた。一見、犬か猪でも出たのかと思う様子だったのだけど、良く見ると確かに手と道具を使った形跡があるね。

 じゃぁ、ゴブリンハントしましょうか。

  

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