039 参入者へ1

 僕はフラム様達と一緒に冒険者組合に向かった。僕の右下には05:25の文字。そんな早朝なのに組合の側には屋台が幾つかあって、そこにたむろする人達がいた。

 アレハンドロから離れた場所に行って依頼を果たす場合、泊まりがけか日帰りかになるけど、日帰りならなるべく早い時間に出かけたい。ちょっと予定外のことがあれば暗闇を歩かないといけないし、それは生存率を下げてしまう。

 だからこんな時間でも組合の前には人が居て、屋台も有る、ってフラム様が言ってた。


「じゃあね、サウル君。お姉様また後で!」

「あぁ、ジーン。土産話でも楽しみにしててくれ」


 フラム様とジーンさんが、今生の別れのような顔で見つめ合ってる。


「えっと、すいません。中に入りたいんですけど」

「あ、あぁ、すまん」

「ごめんね! じゃあまた!」


 周囲の冒険者さん達の視線が痛いけど、僕はさっさと中に入りたいんで。

 中に入ると結構な人が居て、カウンターも並んでる。僕とフラム様はその列の最後尾にならんだ。気づいたおじさん達が声をかけてくれる。


「お、いよいよ、今日だっけ?」

「死ぬなよ!」

「死ぬなら、最期にマッサージしてってくれ!」


 冒険者組合はパーティを一つの単位とした工房の互助会という体を取っている。パーティは通常数人。ただ、王都などに行くと幾つかのパーティが団体を作る事も有るっていってた。

 で、僕はソロを希望した。ソロというのは単独行動ということ。フラム様もいつもはソロで行動して、時々、他のパーティと組んで依頼を行ったりする。ただ、僕がソロで登録しようとしたときに問題発生。まぁ当たり前だよね。僕昨日まで5才だったんだし。

 四大術の腕については、キマイラの咆吼の皆さんが保証してくれた。実践でも問題ないって。剣術の方も、一当てして逃げ出すくらいのことは出来るだろうと。でも、いかんせん体が子供。闘気法の心得があると言っても持久力の問題があるし、採取や討伐の荷物をどう持ち帰るかの問題もある。

 幾ら命の安い時代と言っても、無駄に死なせるのは寝覚めが悪い。

 そういう事で……


「はーい、次の方!」

「おはようございます!」

「はい、おはようサウル君。いつも元気良いねぇ」

「ありがとうございます、パティさん。それで昇格の方なんですけど」

「ええ、今日の実地審査に合格すれば10級の見習いから9級の参入者になれるよ。怪我しないようにね」

「ええ。夕方には無傷で帰ってきます」

「はぁ。でも私はまだ心配だわ。幾ら体が大きくなったと言っても、まだ5才でしょ?」

「えっと、今日から6才です!」

「あぁ、うん。6才ね。お金に困ってるスラムの子だって、6才は街の中でお手伝いが精一杯なのに、なんでサウル君が……」


 また長い話になりそうだと思ってると、呆れたようにフラム様が口を出す。


「パティその事は既に何度も話したではないか。サウルは力を示した。四大術、剣術、それに特大の泡倉。子供らしくない用心深い性格。探索術が無くてもソロでやっていける。その上で今日の審査だ」

「そうなんですけどねぇ。まぁいいです。タブレット出してください」


 ガチガチガチーンと鑑定機みたいな音を立ててパティさんが、今日の審査をタブレットに打ち込む。一応、今日の審査は依頼扱い。付き添いとしてフラム様と黒剣団というパーティが付いてくるんだってさ。

 ほんとはキマイラの咆吼の皆さんが希望してたんだけど、それだと公平にならないってことで。まぁ確かにあそこの皆さんとは仲も良いし、甘やかしてくるからね。

 そうそう。しれっとフラム様話したけど、僕の泡倉、ちょこっとだけお知らせしたんだ。そうじゃないとさすがに今後支障を来すだろうって事で。ただ、これまで組合で確認されてる泡倉の最大量がだったってことで、僕の泡倉はってことにして貰ったんだ。持ち帰りの量は気をつけなきゃいけないなー。

 あ、ちなみに1000リットルは、各辺1mの立方体だよ。


 受付が終わって休憩コーナーに行くと黒剣団の皆さんが待ってたよ。ただ、ちょっと冷たい雰囲気、かな?


「おはようございます。今日はよろしくお願いします!」


 こういう時は元気な挨拶が一番だよね。

 じーっと僕を見つめる黒剣団の皆さん。えっと。

 10秒ほど見つめ合った後、黒剣団のリーダーさんが口を開いた。


「……俺たちは、お前が参入者になることに反対だ。それは今でも変わってない。冒険者賄賂でどうにかなるほど甘くない」

「ゴードン……」


 フラムさんが口を開こうとするけど、リーダーのゴードンさんは手で制止ながら続ける。


「だが、俺たちは公正に判断し報告しよう。黒剣団の名に賭けて。だからここからは居ない者として扱ってくれ」

「あ、分かりました。では、よろしく? お願いします」

「はぁ……、そう言われたら私もここからの接触は自粛しようか。公正な審査のために」


 んー。まぁ公正にしてくれるというなら良いか。じっと見られてるのは気持ち悪いけど。


『そうは言ってもあたいはこうやって話しかけられるけどな』

『まぁそうですけどね。あ、僕、色々こっそりやりますけどばらさないでくださいね』

『あぁ、かまわんさ。好きにしな』


 と、蓮っ葉な念話がフラム様から。表と裏で口調違いすぎる……。


「じゃぁ出発しますねー」


 僕を先頭にフラム様と黒剣団の4人がついてくる。普通に見れば6人パーティなんだけど。無言。街の人もなんか変な顔して見てる。まだ涼しい時間なのに、なんか汗が出てくるのは何故だろうねー。


 街の北門から外に出る。こちらは余り人里が無い。道を覆うように大きな枝が張りだしてるし、道の真ん中にも割と雑草が生えていて、腐葉土の匂いがぷんとする。もう少ししたら蝉もうるさいと思う。

 僕に与えられた仕事はここから10kmほど行った集落で見つかったゴブリン退治。2体が確認されていて、多分追加はない、とのこと。余りに数に違いがあったら後ろの人が助けてくれるし、逃げても構わない。


 体が急成長して良かったのは、野外活動の時だね。140cmなら歩幅もそこそこあるし、持久力もある。成長過程の体でも10kmなら余裕だ。まぁ途中で遭遇戦でもなければ、だけどね。

 お腹が減ってきた僕は、泡倉からリンゴとチーズを取り出してかじりながら進み始めた。

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