024 村人になる5 お披露目

 時間は16時過ぎ。日没は18時半くらいだから、まだまだ明るい。本当なら僕は夕食の手伝いの時間なんだけど、今日は免除して貰った。空は鉛色の曇天で、雨が降ってきそう。嫌な湿度。気温は妙に高い。

 遠くでトビらしき鳥の鳴き声が聞こえて、僕はそっちの方を向くんだけど何も見えなかった。

 3人で作った道具の数々を畑の側の道に置く。一人でもって歩くのには難しい量だったので、泡倉から取り出した。もちろん、周囲に人が居ないかどうかロジャーさんに確認して貰っといた。以前、ちょこっと水を運ぶのにズルしてたのがバレてたことがあったし。探索術は習得できていないから仕方がない。技能を得るためのエネルギーも技能取得の可能性もきちんとあるから、そのうちどうにかなると思う。

 泡倉から道具を出し終わって、ちょっと試運転をして見る。泡倉の方で問題なかったけど、実地で確認するのは大事。


 しばらくすると、人が来たってロジャーさんに言われたので、そっちを見てみたよ。予定より人数が多いような……?


「よー、クソガキ! 観客は多い方が燃えるだろ? 連れてきたぜー!」

「え、あ、まぁそうですね」


 来たのは、アラン様、イノセンシオさん、ハンナ、それと神殿の皆様に村長さんもいる。まぁそのうち説明しなきゃって思ってたから良いけど、一言教えて欲しかったなー。


「アランが凄いものを見せてくれると言うから、来てみたんだ。私たちのことは気にしないでも大丈夫だよ」

「そうそう、アタシの事も気にしないで大丈夫。大体、術始めたばかりで大したことできる訳が無いんだし。あ、夕飯は食堂に行くからね。良い物見せてくれたら、肉付けてやるよ」


 と、神官のセリオ様と奥様のマリ様。うう。村長さん、黙ってみてるし。目が怖い。あぁ、もう。肉が付くし! 頑張る!


「ええと、作ってきたのは草を楽に取る道具です」


 まず見せたのは、1.5m程の長い木の棒。先には、一辺20cm程の三角形の板が付いてる。これも木製だ。普通は三角形の部分は金属製でもっと小さい。柄も20cmくらいが普通なんだそうだ。草かきと言う道具。

 アラン様とマリ様だけが落胆せずに見ているが、木製と言うこともあり、皆さん、力が抜けているみたい。まぁしょうがないよね。


「これを手に持って『草取り実行』と言うと」

「あっ」

「術理具?」

「全部木じゃねぇのか?」

「魂倉はどこだ?」

「森から帰ってきて、ほんのちょっとしかたってねぇのに?!」


 お、皆さん驚いてる! やったね!

 板の部分が、青く光る。青は風の色だ。今回は移動、通信、音、という部分のイメージから風を使っている。音は割とうるさい。大きなハチの羽音みたいだ。これ、苦手な人いるよね、きっと。


「で、これを地面に押しつけます」


 三角形の板の部分が、固い地面にずるっと入り込む。板が入ると、周囲の地面が柔らかくなって盛り上がる。羽音も消えた。

 地面に触っただけで潜ると事故が起きそうだったので、力が必要にしてみたんだ。

 そして。


「これを引っ張ります。もちろん、僕の素の力です」


 木製草かきを引っ張る。

 と、僕でも大した力も必要とせず、引きずることができた。固い地面に潜った草かきを5才の僕が闘気法も使わずに引きずるなんて、普通は出来ない。規模は小さいけど、普通はこれは大人数人がかりか、牛を使ってする作業だものね。


「あ、なんで子供があんなことできるんだ?」


 とはイノセンシオさん。


「闘気法は使ってないな」

「草かきのところの地面がおかしいぞ」

「おかしいね、アタシは術理具の作り方は教えた覚えはないよ?」


 しかも、この草かきだと、柔らかく粒状にした土を上に持ち上げているし、上手く角度を付けているから、草が根ごと浮き上がるようになっているんだ。

 周囲10m程を草かきでひっかく。勿論、あのでっかい草もターゲットに入れる。これができないと売りにならない。

 直径30cmにもなろうかという大物の草。さすがに一発では抜けないので、周囲を軽くひっかき、最期に下をすくうように引っ張る。さすがにここはちょっと力が必要だった。でも、普通は大人が時間を掛けてする作業。5才の僕が1分もかけずにやる事じゃ無い。

 大体草かきをした後、作ってきた竹と木でできたクマデで軽く草を集める。これは普通の道具。

 3分もしないうちに、付近の雑草は完全に無くなった。目覚める前の僕なら、この範囲の作業は2時間くらい掛かったと思う。


「こんな感じなんですけど、どうでしょう? 畑の手入れ、楽になると思うんです」

「こ、これがあれば作業が凄く楽になるな……」

「神殿の草抜きが楽に!」

「まーた、地味なもん作りやがって。畑ごと爆発させるとかよー、面白いもん作れや」

「どかーん!」

「ちょっと待ちな、サウル」


 一部聞き捨てならない過激な意見が有ったけど、マリ様の鞭のような一言で静まった。


「なんでしょう、マリ様?」

「この術理具。幾らすると思う?」

「もしこれが普通の術理具でしたら、金貨2、3枚」


 つまり、20万から30万クレ、ということになる。ちなみに実家の一食の食費は四人で20クレ、一人は5クレ。村の食堂でちゃんとした物を食べると、一人20クレ。僕が前受けた本鑑定は銀貨10枚の1万クレ。実家貧乏……。


「村には術理具を買うような金は無いよ」

「ですがこれ、銀貨5枚でできます」

「いくら木製だからって、それはないよ」

「まず、この草かきは、魔物などの魂倉を使いません。使う人のエーテルを使いますので、そこで安くできます。もちろん、使う人はちょっと疲れやすくなりますけど、訓練でどうにかできると思います。

 材料の木材の初期化と回路の焼き付けにも楽にできるコツがあります。秘伝がありますが、誓言を受けてもらえば提供出来ます。

 術の回路は高価な金属ではなく、焼き印と青銅、ニカワを使ってます。板の部分は始めから壊れたら交換する前提で簡単に作っています。回路の焼き付け以外は、普通の職人でも作る事が出来るはずです」

「実際作るところを見ないと、分からないけどさ。なんとなく行けそうだね」

「それと、僕、これは売りません。村に無償でお貸しします。いつか改良して色んな所に売りたいので、皆さんに意見を聞きたいんです」

「サウルは感想が欲しい。村は便利な道具が欲しい。それで交換ってことかい?」

「そんな感じです」


 最初から欲張ると良くないしね。

 そこで村長さんが口を開く。


「しかし、どうせなら普通に耕すのも欲しいもんだが」

「それも用意してます。こちらのでっかい奴です」


 背後にある大きなものを指す。見よう見まねで作ったぎゆうすきだ。牛で引っ張ると畑を耕すことができる道具。これも全部木でできている。普通なら、牛の力で引っ張れば簡単に壊れる様な作りだけど。一応、地の四大術で強化しているから大丈夫だと思う。


「ほう? これはぎゆうすきか?」

「はい! 見よう見まねの作りなので、ちょっと出来が悪いかも知れませんが。これは牛と作業をする人のエーテルで動きます。畑で上手く行ったら、開墾にも役立つんじゃ無いかと思ってます」

「なるほど、ドミンゴの所も儲かるだろうな」


 村長さんがニコニコと笑う。他の皆さんも笑顔だ。実家が牛を使った労役で稼いでるのは皆知ってる。


「まぁいいんじゃないか。考えてたのとはちょっと違ったが」


 イノセンシオさんが腕を組んだままにやりと笑う。どうしても山賊の親分にしか見えない。


「ありがとうございます。では、これで?」

「まぁ実際には草を取ってないが、こんだけ良い物貸してもらえればできたも同然だろう」

「よしっ!」


 思わず万歳すると、他の皆さんも、なんか大喜びしてくれた。


「よーし、食堂行くぞ! クソガキ、今日はお前のおごりな」

「おごりおごりー!」

「な、なんで僕がおごるんです! 僕お金なんて持ってないですよ!」

「ったく、しょうがねぇガキだな。今日は俺が食わせてやるから、しっかり食えよ! 主に肉食え肉! 痩せすぎなんだよ、お前」


 ぶらぶらと皆で村へ歩く。ハンナが軽業師のようにアラン様の肩に上ってた。

 道具は神殿戦士団の人達が持ってくれている。

 確かに、僕は村の他の子供と比べて痩せすぎみたい。目覚めの日から更に痩せて来た気がする。でも、背は伸びてる感じなんだよね。あれからたった半月しか経ってないはずなのに、前の服がきつくなってしまってるんだ。


「そういえば、確かにサウルは背が伸びた気がしますね。そう思いませんか、マリ?」

「あぁ。アタシもちょっと気になってたところさ。飯はちゃんと食わせてる筈なんだけどね。サウル、隠れて犬でも飼ってないよね?」

「いや、何も飼ってませんよ。でも、なんか最近やたらとお腹が減るんです」

「馬鹿だね。そういうことはちゃんと言わないと。神殿が飯食わせてないとか噂が立ったらどうするんだい」


 怒られちゃった。


「あ、すいません」

「サウルのことは分かってないことも多いんだ。私やマリ、他の皆も協力するから遠慮せずに相談するんだよ」

「……はい」


 でも話せない事も有るけど。神様関連とか。


「しかしよ、これ雨だよな。収穫どうなるかなぁ。普通に6月入ってからになるかね?」

「気候神様でも土地神様でも良いから、天気予報の神託くれないかね」


 イノセンシオさんと村長の会話にセリオ様が混じる。


「さて。この辺りの土地神様はフラム様、らしいよ。復活歴になってから400年、目覚めてたことはないそうだけど」

「しかし、昔は神様達も俺たちみたいな体で地上に降りていたそうだが」

「子供作ったりな。半神様、だっけ? おとぎ話の世界だな」

「すげーエーテル余波が流れてるからよ。目を覚ましてサウルを見にやってきたりしてな! ギャハハハ!」

「……そんな事は無いだろう」


 セリオ様、微妙に溜めないでください。僕は不安になってしまいますよ。だって、神殿で女神様の像が僕を凄く見ていたじゃ無いですか……。


 微妙に不安に襲われつつ、村の食堂で宴会が始まった。途中からは僕そっちのけだったけど。

 でも、久々にエミルやアニタ、後普段余り遊ばなかった子達も一緒に遅くまで食べたり飲んだりしてた。まるで村祭りみたいだったよ。

 途中で気が大きくなったアラン様が、払いを全部持つ宣言とかして大変だった。

 暇な人、皆来たんじゃ無いかな? それぞれ食べ物、飲み物を持ち寄って楽しそうだった。

 アラン様と偵察のテオさんが、僕の草かきを持ってきて、みんなに見せてたよ。調子に乗った二人は、食堂の前の固い地面をあっけなくほぐして、皆をびっくりさせてた。技能を持ってない普通のおじさんや子供もおっかなびっくり使ってた。さすがに技能無しだと僕やアラン様が使うより効果が低かったけど。

 あー、あと、やっぱり音が怖いって人居たので、なんか考えなきゃなぁ。

 ふと見ると、ちょっと離れたところに実家の皆が居た。兄は他の子達と色々話してた。楽しそうにしててホッとした。両親は、誘ってくれたらしい人としばらく話してたけど、人の輪から離れていった。しばらくするとこっそり帰って行った。


 最期にちょっと母と目が合った。声かければ良かったかな。でも、なんて話せば良いか分からなかった。ぎゆうすき、喜んでくれると良いな。

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