023 村人になる4 名も無き草

 朝食を終えて、他の手伝いを終えると、僕はイノセンシオ団長の畑に向かう。昨日イノセンシオさんに頼まれたから。

 昨日までは不安ばかりだったけど、今はそうでもない。自警団でなんとかなったんだからなんとかなる。それに、僕は5才だよ? そんな多くを望むわけが無いよね。


「「ぷぷぷっ」」


 僕に付いてきたアラン様とハンナのわざとらしい笑い声。この人達暇なのかな?


「ハンナはサウルが心配なの」

「そうそう、俺も俺も。スゲー心配。次何やらかすか。見逃したらもったい、いや、いざという時には助け合いだろ?」

「ハンナはサウル助けるよ!」


 有り難い声と有り難くない声だなー。


「ほんと、イノセンシオさんと喧嘩しないでくださいよ!」

「ばっか、俺様めっちゃ友好的だっての。正に平和の使者って奴だぜ! ギャハハハ!」


 村は30戸ほど。木造の家の大きさはまちまち。家畜は少ない。ほとんどは農民。鍛冶屋が2家族、狩人兼革加工が2家族。雑貨屋兼宿屋兼食堂が1家族。

 村の中央には、村長の家と神殿。政治権力と宗教権力でもあるけど、いざという時の避難先でもある。この世界には魔物がいるから。いざとなれば、逃げ込む必要がある。コミエ村は、街から西に延びる開拓村の先端。道の反対には何も無い。村を守るのは神殿戦士団と自警団だけなんだから。

 村は直径150mほどのいびつな円形。と言っても、形はいい加減。計って作ったわけじゃ無いと思う。家と家の間はかなりすかすかで、空いている。壁はない。なんとなく土が盛り上がっててそこが家と共有区画の境目になってる感じ。あと、母屋にくっつくように小屋や鶏小屋がある家も多い。

 村の周りには、一応木の柵はあるけど、村の全部を囲ってる訳じゃ無いし、全体的に古い。大きな猪がぶつかったら壊れちゃうんじゃないかな。もし、魔物の大発生のようなことが起きたら、神殿にこもるしか無いと思う。

 人の家の間を抜けて、柵の無い所から村の外へ。村に道らしい道は一つだけ。街道と真ん中の広場を結ぶものだけなんだ。だから、外に行く時は、適当に人の家の庭を通ったりする。子供の僕が通るのは良いけど、アラン様が通ると皆びっくりする。マント派手だしね。

 村の外には畑が広がってる。確か、1km四方以上広がってるとか、ロジャーさんが言ってた。柵が無いので、動物や魔物が来たら大変だ。半分は麦で半分は野菜やら薬草やら。麦畑は、今は冬小麦が穂を付け始めている。こないだ見た農業暦だと6月頭に収穫なのかな?

 麦の背は80cm程。僕が1mくらいだから穂先が目の高さよりちょっと低いくらい。麦と麦の間は草ボウボウ。僕も実家では草取り手伝ってるんだけど、手で抜くだけだから追いつかないんだよね。大きく根を張ってると、僕にとっては大木のような物で、どうにもならなかった。だって雑草のくせに根元の大きさだけで直径20cmはあるし。5歳児の僕じゃ無理。今なら四大術使えるし、土と風の術使えばどーにか? いやいや、闘気法で引き抜くのもカッコイイかも。だって、あれ、父も一人じゃ無理だったもの。


 畑の雑草を見て、思わずぼーっとしてると、遠くからイノセンシオさんが呼びかけてきた。慌てて小走りすると、背後から二人が付いてくる気配。畑仕事してる人がこっちを見てるのが気になる……。


「でだな」


 涼やかな朝の空気の中、ぶっとい腕を組むイノセンシオさんの頭は光り輝いてた。丁度逆光なんだよね。


「畑をどうにかして貰おうと思ってる」

「漠然とした指示で動けるかよ、馬鹿じゃねーの?」

「うるせー、外野は黙ってろ! マントのストライプがチカチカするんだよ!」


 さっきからこの調子で話が進まないので、どーにかしてほしい。


「あー、そうそう。雑草なんだがな。3年ほど前からきつい奴が増えて、手間ばかり増えてる。おまけに収量が予想より減ってる気がするんだ。お前なら術でどうにかならんか?」

「開拓村は、入植直後は普通の倍は獲れて、税金払う10年後くらいには普通になるっていうよな。それより減ってるのか、ハゲ?」

「ハゲはかんけーねーが、2割方減ってるな。これだと来年からの税がやべー」

「あ、だから父は、新しい野菜を?」

「……察しが良いな」


 ふーんむ。それなら僕にも関係無い話じゃ無いんだね。村の畑にはびこる雑草が僕の運命を変えた、か。そう思うとただの草がすごく憎たらしく見えてきた。


「雑草は、うねの間のを取れば良いんですか? 後、範囲と期限、利用可能な機材を」

「お前は軍の役人みたいなこと言うのだな。……んーー。そうだな」


 イノセンシオさんは背の高さは普通だけど、ごつい。片目は革の眼帯だし。今は鍬を傍らに置いてるけど、どう見ても山賊の親分……。


「草を取るのは、うねの間だけで良い。まずはうちの畑をどうにかしてくれ。期間は、そうだな……」


 イノセンシオさんが、思案顔になると、横から


「天才サウル君なら、明日の昼までにできるっしょ!」

「ほう?」

「え? え?」


 歪んだ形だからはっきりとは分からないけど、100m四方より大きいよ、この畑? そこに生えた質の悪い雑草を5才の子供が1日? ちょっと無理じゃ無い?

 雑草って、手で抜くのは凄く大変。根を張った草一本抜くのに1分掛かることもだって当たり前。ベッド一つ分の作業だって結構掛かる。部屋一つ分となったら2時間掛かることも。

 正攻法じゃ無理だね……。あー、でも待てよ。コウタロウさんの知識を借りれば……。


『遠慮無く借りちまいましょうぜ、坊っちゃん』


 珍しく、ロジャーさんからの発言。


『……そうだね』


 草は何故抜けないのか。根が問題。根が、地面に絡んでるから。根元を切っても一部残ればそこから生える事も有るらしい。だからなるべく根っ子ごと抜きたい。

 鋤で掘り起こす? 僕の体力じゃ無理。草は直ぐ出てくる。その度に掘り起こすのは大人でも無理。

 あー、でも。草が、地面から簡単に剥がれたら良いんだよね。それなら……。


「術を使うのは有りです?」

「良いよな、ハゲ?」

「ハゲ言うな、赤マント。術か、構わんよ」

「後、道具を作りたいので、村の外、森に行く許可をください。保護者は、そこの天才赤マント様が」

「くっそ、言うじゃねぇかクソガキ」

「あはははは、赤マント、赤マント!」


 ハンナがミミズを両手に持ってはしゃいでる。何やってんだ、この子は。普通、女の子はこういうの苦手なんじゃないの?


「あぁ、分かった。村長に話してくる。ちょっと待ってろ」


 コミエ村の様な辺境は、森に行くのも命がけ。勝手に行くと困るので、許可制になってる。まぁ、一声かけといてね、って感じみたいだけどね。申請する時に、情報交換もするみたい。


 イノセンシオさんが、村長さんのところに行ってる間に、ちょっと実験。

 畑の端っこに生えている背の低い木から、割とまっすぐの枝をもらう。鋭い針が付いてて痛い奴なんだけど、闘気法で無視。ポキポキ針を折って針はポケットに。持ちやすくした枝を持って元の場所に。

 枝を両手で地面に突き刺そうとするけど固い。まぁ5才の力だし、仕方ない。


「何やってんだ?」

「前世の人の知識を使った実験です。これが上手く行くと楽なんですけど」


 四大術を一つ作る。僕の知ってる理論と知識じゃ足りないので、コウタロウさんのを借りる。魂倉の中に作った部屋。その中央に安置された大きな本にページが追加される。調整入るかも知れないけど、多分大丈夫。引数を調整すれば良いはず。


「初めての術を使いますので、大丈夫だと思いますが、ちょっと離れててください」


 術の名前は考えてない。ホントは考えて置いた方が安定するんだけど。なのでイメージのみで発動。

 そっと地面に当てる、と。

 地面が爆発した?! 大きな石に大きな石をぶつけたような大きな音にすごい土煙! 息ができないよ!


「うわっ! なんじゃこりゃ?!」

「うはっ、ぺっぺっ」


 口の中が土まみれ。目にも砂が入って痛いし、辛い。水を術で出して顔を洗ってから、棒を当てたところを見ると、地面がすり鉢状に凹んでる。棒も先端がちぎれ飛んでるし。畑だから良かったけど、石が混じってたら怪我してる。土がぶつかっただけなのに、足がすごく痛い。


「おーい、何か有ったか?」


 隣の畑の人が声をかけてくれるけど、術の実験してたら爆発したって言ったら怒るよね……。


「あー、すまんすまん! 蜘蛛がいきなり顔にくっついたもんで、ぶっ放しちまった!」

「おいおい! せんせー勘弁してくだせーよ!」

「わりーわりー!」


 アラン様、フォロー有り難うございます。赤マントとか言って御免なさい。だから、ニヤニヤ顔で『貸しだからな』って言うの止めてください。


「……ええと、もっと低い出力から試してみますね」


 術の継続時間を5秒間にセットして、他の引数を調整しながら固い地面を探して棒を突き立てる。

 爆発はしなかったけど、思った効果が出ない。20回ほど調整して試したところで、見えた。引数は少ないので、推測しやすかったのもある。


「今度こそ……」

「今度こそ頼むぜ、クソガキ」

「サウル、頼むぜー!」


 引数を調整した術が棒の先端で発動する。棒の先がゆらりと揺れたように見える。

 棒を地面に突き刺すと、あっけなく地面に刺さっていく。よし! 第一段階成功! そこで術が切れたので、棒を抜く。


「おい、クソガキ。なんか、棒を刺した周りの土がもっこりしてるな」

「あ、ふかふかだぁ! わーい」


 確かに棒を刺した穴の周辺10cmくらいが盛り上がってふかふかになっていた。ハンナはその柔らかくなった土を握りしめて団子を作り始めた。ミミズおにぎり、らしい。ハンナって結構野性的だよね……。


「天才であるアラン様はもうお分かりかと思いますが、棒に風に関係する術をまとわせてます。それを利用して草を取ろうという考えです」

「それは分かるんだがよ、術の元イメージはどーなってんのよ?」

「え? それ、5才の僕に聞くんです?」

「うっ」

「さっきの貸し一つでいいです」

「くそっ。まぁいいや。で?」

「あれは振動、物が震えるさまです」

「震えるだけで、こんな風になるのか……」


 アラン様、ちょっとびっくりしてるみたい。


「大きい話しをすれば、地震だって大地が震えるから起きるのです。小さい方で言えば、強い風が枝を揺らせば音が鳴ります。その音も振動です」


 そこからしばらく何故振動で地面がこんな風になるのか、説明したんだ。霊的センターには様々なイメージがあるけど、それを使うには、自分の中で納得が無いといけないんだ。確信できないイメージは使いこなせない。だから、どんな術者もイメージの検証が必要なんだ。そのために、術者は良く実験や観察を行うし、仲間内で討論も行う。らしい。

 ここまではコウタロウさんの受け売り。

 最期に、初歩の分かりやすく納得しやすい実験を伝え終わると、イノセンシオさんが帰ってきた。

 革の鎧に。……あれは、食料かな? それと大きな袋。


「良し行くぞ」


 あ、イノセンシオさんも来るんですね。

 というわけで、僕たち4人は北にある森に向かったんだ。僕の足で歩いて1時間。

 お昼を軽く済ませた後に、木の枝やらツタやらを沢山手に入れる。アラン様もイノセンシオ様にもちょっと採取を手伝って貰った。

 そして村に急いで戻り、僕は早速道具作りに取り掛かる。

 イノセンシオさんとアラン様、ハンナには道具ができたら呼びに行くと伝えておく。

 道具作成は、泡倉で行った。僕の手に余る部分がどうしても出てくるので、そこはロジャーさんとセニオさんに手伝って貰った。セニオさんが無言で作業するのはちょっと怖かったけど。

 さーて、夕方になったけど出来上がったぞ。実験も上手く行ったし、お披露目だね!

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