019 泡倉と修行4 海と管理人

 セレッサ様とハンナがアラン様の介抱をしている間に、竈などの片付けを行っていく。最初は僕の権能で片付けようと思ったんだけど、それじゃ修行にならないと言うことで四大術を使っていく。

 固定された術なら、単にから呼び出すだけでも良いけど……。こういう範囲が可変になる作業は、それじゃ駄目。範囲毎に術を作っていったんじゃ、前と変わらないよ。

 んーーー。

 あぁ、、つまりを与えて呼び出す形にすれば良いんじゃ無いかな。例えば、今のこの「竈を土に戻す」という場合だと、竈の材質と範囲、実行速度辺りを引数にして術を設計すれば……。

 受け口、についても、同じ術に幾つかあると楽だよね。見た目で指定する時と、長さを指定したい時、とにかくぶっ放したい時。同じ術で受け口があると楽。

 ……となると……。


「サウル、難しいのかい?」


 神官様が心配そうに話しかけて来た時には、おおよそできてた。


「いえ、ちょっと術の改良を……、あ、できました……『』」

「おお、早い! そして綺麗だね。しかもちゃんと周りの地面と同じようになってる。昔、こういう術のお世話になってた頃があるけど、あんまりんで、探索役と一緒にカモフラージュしたもんだけどね」


 慣れない術だったんで、術の名前を口に出してみたんだ。この方が、負荷が分散される感じがして楽だね。他の荒れた地面を均していく。


「神官様、この後はどうされますか?」

「そうだね、ちょっと付近を見てこようかと思ってる。

 あ、そうそう、サウル。つい言いそびれていたんだけどね。私たちを呼ぶ時には名前で呼んでくれるとうれしい」

「しかし、身分が違いますし……」


 そう、神官様は、本来は王都の貴族と聞いたことがあるんだよね。何か事情があってこの村に赴任されたけど、本当は王都で活躍される方、と、父と村長さんが話してたんだ。


「困ったね。どこで聞いたのか分からないけど、今はただの神官だよ。役職で呼ばれるとどうも他人行儀に感じちゃってね。仲間になってくれないかい?」

「は、はい」


 そう言われると、仕方が無い。

 その後、アラン様も交えて話をして、海に行く事になったんだ。まぁほとんどアラン様の我が儘みたいなもんだけど。ほんとアラン様って……。

 海岸までは、1km弱。道は無いので、森を歩く。普通なら結構な時間が掛かるんだけど……。


「ヒャッヒャッヒャッ! おい、クソガキ! しっかりしろよ! 追いついちまうぞ!」


 僕が先頭に立って、道を作りながら海岸に進んでいる。木を避けるのは泡倉の権能でやって、道を均すのは四大術。道の幅は4m程。無駄に広いし! しかも歩きながらなんて! 結構大変だよこれ!

 僕はハンナと同じくらい体が小さくて、大人の人と一緒に歩くだけでちょっと駆け足になっちゃうのに。ほんとヒドい!

 アラン様がヒドいことを言うのに、他の人は全然とがめない。大人としてどうなの?


 白い砂浜が見えると、アラン様が僕を追い抜いていった。慌ててセレッサ様とハンナが追いかけていく。

 後からゆっくり神官様、えっとセリオ様と、戦士のマルコ様が歩いて行った。僕もとぼとぼと後を追う。


「お、なんだこの枝みたいな奴? 緑に、赤に……? どっかで見たな、おい、セレッサ! これなんだっけ?」

「アラン様! これ、珊瑚ですよ。海から取れる宝石!」

「マジか! こりゃ一財産じゃねーか! おい、クソガキ! あ、いやサウル様! これくれ!」


 なんというか、いっそ清々しいな、アラン様は……。


「ええ、いいですよ」

「だよなー、やっぱ駄目だよな。まぁ聞いてみ……?! え?! おい、正気か!」

「聞いたのはアラン様じゃないですか」

「いや、ええと。すまん。やっぱ止めとくわ。つーかな、お前、俺様が悪い奴だったらどうすんだよ」

「え? アラン様、こんなクソガキを搾取する悪い奴なんです?」

「くっそ、このクソガキ! まぁいい。ところでよ、この海、ちゃんと海なんだよな? 魚もはねてるしよー」

「ですね-。さっき見た時には結構見えましたよ」

「お。向こうには島か? 鳥も飛んでるしよ。不思議なもんだな、ここは。海は深いのか?」

「えーと」

『最深部は20kmでございます、サウル様』


 知らない男性の声が頭にすっと入ってきた。渋くて低い。セリオ様よりお年かも。


『えっと、どなたです?』

『この様な形でお目に掛かること、お詫び申し上げます。私、泡倉管理人セニオリブスと申します。セニオとお呼びください』

『……分かりました。後でゆっくり話しましょう。何か有りましたら補足お願いします』

『はっ』


「どしたー?」

「あ、ええと、一番深いところは20kmですね」

「マジか! 落ちたら大変じゃねぇか」

「え? アラン様泳げないんですか?」

「ば、ばっか、おめー、この天才が泳げねぇわけねーだろ? ふざけんな」


 あ、泳げないんですね。懸命な僕は黙っておく。処世術という奴だね。僕も多分泳げないし。


 その後、程良く温まった砂浜で遊び回ったよ。

 僕とハンナは、どっちが高い山を作れるか競争したり、海の深いところに歩いて行けるか競争したり。

 釣りをしようという話もセリオ様から出たんだけど、網もモリも釣り竿もないから諦めようかと、一端まとまったんだよね。しょうがないよね、という感じで。ところがそこで、入り口開けて取ってくれば良いじゃ無いかとアラン様が言い出したんだよね。

 こっそりセニオさんに聞いたら大丈夫というので、その場で開けると、マルコ様が神殿からモリを取ってきてくださった。

 散々遊んで、魚や貝を捕ってお土産に。荷物は全部持ってきてたので、最初の広場には戻らず、神殿に帰ったよ。

 捌いた魚やら貝は、夕食に出たよ。初めて食べる味の筈なのに、とても懐かしくて涙が止まらなかったんだ。

 残った魚は桶に氷を一杯入れて、その中に突っ込んで保存。氷は僕が出したよ。

 昼間提案した方法で、ひな形になる氷作成の術を作って、引数に氷の大きさと形と数を指定して起動すると、ざらざらざらーーーーーっと直径2cm程の氷が。普通は大きな氷が一個出るだけだって言うから、僕が奥様、じゃなかったええとマリ様に説明したんだ。マリ様は凄く驚いてたよ。そのマリ様の様子を視て、アラン様が余計なことを言って怒られてた。


 そうそう。アラン様達は、明後日には村を出るのだそうだ。ほんとはもっとゆっくりするつもりだったけど、今日の術の話で気が変わったんだって。

 セリオ様がやんわり引き留めるけど、アラン様の意思は固いみたい。ハンナが泣きそうになってた。僕? 僕は全然平気だよ。


 食事が終わり、部屋に戻ると、僕はその場で入り口を作って泡倉の広場に移った。ロジャーおじさんにも出てきてもらう。

 満月でほのかに明るい泡倉。広場に隣接した館を見ると、門前に一人佇んでいるのが見えた。

 セリオ様より少し低いくらいかな? 銀髪のお爺さん。かっちりした仕立ての良さそうな服を着ている。僕たちが近づいていくと、お爺さんが丁寧なお辞儀をして名乗った。


「先ほどは失礼致しました。改めまして泡倉管理人セニオリブスでございます」

「魂倉管理人、ロジャーだ」

「コミエ村のサウルです。よろしくお願いします」

「それでは、サウル様。この泡倉の諸元と詳しい利用方法についてですが」


 しれっとセニオさんが話を進めようとするので、ちょっと止める。無視された格好のロジャーおじさん、機嫌悪そう。


「待ってください。僕はまず泡倉管理人のセニオリブスさんに聞きたいことがあります」

「なんでございましょう?」

「何故、今日まで僕と接触しなかったのですか? 確か、最初僕以外とは会いたくない、とロジャーに連絡しましたよね。その後、何度か泡倉に僕が出入りしても何もありませんでした」

「確かに、その通りでございます」

「理由を教えてください。場合によっては、泡倉の閉鎖も検討します」


 ロジャーおじさんがぎょっとした顔をする。うん。相談してなかったしね。セニオさんは、余り驚いてないのかな?


「……人は罪深きモノでございます。この泡倉には様々な物が蓄えられています。

 鉱物、動植物、海産物、魔物に幻獣、聖獣に至るまで。

 愚か者がこの泡倉を自ままにすれば……」


 セニオさんはこっちをじっと見た後、にこりと微笑んだ。孫を見つめる老人のように。


「分かりました。僕を試したんですね。お眼鏡に適いましたか?」

「はい。当分は」

「おい、爺さん。坊っちゃんを導くのも俺らの使命だろ? おかしくねぇか?」


 ロジャーおじさんは納得いかなかったみたい。


「腐った卵から雛は孵りません」

「ちっ、あっしはこの爺さん気に入らねぇな」

「私の使命には君との友情ごっこは無いようですよ」

「まぁまぁ」


 なんで僕が仲裁してるんだろう? なんだか理不尽な気がする。


 その後、泡倉の諸元と、細かい使い方、どういう物が入ってるのかを大ざっぱに聞いていった。細かいことはセニオさんに都度聞くことになった。

 獣や魔獣などに関してはセニオさんとその眷属が管理しているけど、基本的には自然に任せているとのこと。だから、危険な生物にあったら戦わないと死ぬ事も有るそうだ。怖いね。

 で、泡倉内の資源は僕の裁量で持ち出しても良い。家なんかも建てて良い。などなど。


 夜も遅くなったので、続きはまた今度になった。最期までロジャーおじさんとセニオさんは仲が悪そうだった。困ったなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る