017 泡倉と修行2 四大術と神術の検証

 しばらく休憩してもハンナの機嫌が直らなかったので、とりあえず四大術の練習をしようと言うことになったんだ。


「よーっし、この天才アラン様がしっかり教えてやるから、ありがたーーく聞けよ! 四大術の場合はよぅ! 参照、変化、創成、削除に術の機能を分類できんだよ。参照つーのは、相手の情報を読み取ること。これは基本中の基本な。まぁこれも奥深いんだけどよ。可愛い子とお話しするにも、相手の観察が重要だろ? そういうことだ」


 セレッサ様がアラン様の後ろで笑ってる。なんでだろ?


「んで、変化は、対象の属性に変化を与える事だ。例えば、炎に更なる火属性や風を追加することででっかい炎にするってな具合よ。んで創成は物質や現象を生み出すことな。で、削除は対象を消す。まー、物質の削除ってのは基本的にできねぇからよー、霊的な構造をぶち抜いて結界壊すとかそういう感じで使うわけよ」


 神官様が不思議そうに


「アラン? 私はそっちのほうは良く分からないんだけど、呪文の使い方とか霊的センターの使い方とかそういう話はしないのかい?」

「それも大事なんだけどな。まずは実例を、と思ってよ。そもそも、呪文なんざ象徴とイメージのリンクができてねぇとクソほど役に立たねぇからよ。霊的センターの話は今からだ」


 アラン様は赤と黄色の派手派手マントを翻してこっちに向き直る。わざとバサーっと音を立ててるなぁ。どんな意味があるのか……。無駄に自慢げだし。


「おい、サウル。泡倉は把握できてると思うけどよー、霊的センターは幾つか分かるか?」

「えっと。仙骨の下に地が、泡倉のちょっと上に水、胃の背中側にある神経の塊の辺りに火。喉に風で、つむじの辺りに空、ですよね?」


 僕が答えると、アラン様は一瞬目を見張り、上を見上げて笑い始めた。


「ギャハハ! おいおい、ホントかよ?! やるじゃねぇか! おいサウル、場所はともかく、属性までなんで分かった?」


 あ、そういえば、何でかな? 四拍呼吸してエーテルを回してたら自然と……。が教えてくれた感じ?

 あ、四大術の出し方、気がする。

 途端、体が? いや、心が勝手に動き出す。止まらない。止められない。目は見えているが見えず、音は聞こえているけど聞こえない……。

 体内のエーテルを魂倉に。次はそれを引っ張り出して霊的センターを巡らせて……。染めるために霊的センターの背後にある、膨大な観念の世界から諸力を降ろす。属性混合は後。初めてだから簡単に。単純な創成にしよう。何を作る? ……そう、水にしよう。桶から台所の水瓶に注ぐイメージ。エーテルを僕のイメージで方向性を付ける。膨大な水のイメージに満たされたエーテルを僕のイメージに絞りきる。

 では、体から溢れたエーテルが、周囲を透明な青く染める。28度ほどだった気温が25度に。視界の隅に表示されたのは、ロジャーおじさんが気を利かせてくれたのかな?

 右腕を前に差し出して手のひらを下に向ける。ざばっと水がこぼれて、僕の足元に水たまりを作った。丁度、桶一つ分の水。成功だ。

 そこで正気に返った僕は周りを見渡した。なんかやっちゃった気がする。


「す、すいません。なんかできるような気がして……」

「……おいおいおい、マジか、サウル!」

「ご、ごめんなさい!」

「ばっか、逆だ逆! お前すげーよ、マジすげー。きれーな発動だったわ。マジ。概念や象徴の事も知らねぇはずなのに、きれーにエーテルをイメージで制御しやがった。これが前世持ちってことなんかな? いや、マジスゲー」


 神官様が言葉を挟む。


「アラン、次はどうする?」

「いやセリオ、もう説明すべき事はサウルの魂がみたいだからよ。後は簡単な術のバリエーションを見せてどれくらい再現できるか、現状を把握するくらいだわな。まぁ後は、漏れが無いかどうか、後でに確認して貰えば良いさ」

「おい、アラン。死んでも知らんぞ」

「けっ、あんなロートルにこの天才が負けるかよ」


 アラン様が、基礎的な術を見せてくれた。

 火や水、土、風を出す術。火を変化させて矢にし、打ち込む術。土と水で泥沼を作る術。泥沼から、きれいな水だけを取り出す術。その水をお湯にして投げつける術。軽く投げたナイフをおそろしい速さで突き立てる術。


「よし、サウルやってみろ」

「え? いきなりですか?」

「けっけっけ、大丈夫だ。これくらいなら失敗してもヤベェことになんねぇからよ」

「で、できるだけやってみます」

「わーい、サウルがんばれー!」


 あ、ハンナ機嫌直ったんだ。

 よし、やってみよう。

 魂倉はロジャーおじさんに任せて、エーテル管理に集中する。

 それぞれの物質を出すのは、余り難しくない。火は竈で知ってる。水は井戸。土は畑で、風は……。風は……。 家も壊れるなんてね。これは凄い。これを使おう。

 ちょっと風が強すぎて、広場周辺の大木が何本か折れたけど、続けてみよう。大丈夫、みんなには被害はないようにしたから。

 火を作って……。変化。矢、……を5本! と念じると、エーテルが多めに減ったけど、気にせずに! 早く飛べ! 本物の雷のような音がドカドカドカン!! として、目標にした岩は粉々に。岩の欠片がいくつも真っ赤になってるから、火の効果がちゃんとあったみたいだね。良かった良かった。

 次は、泥。よし!

 良い事思いついた!

 ええっと、水を多めに出して、土をかき混ぜて泥沼に。ここまでは見本と同じで。ここからは僕のオリジナル!

 泥沼に火を加えるよ。火を泥沼全体に加える。強烈に。全力で!

 次の瞬間、凄い蒸気が泥沼から上がった! やったね! 昨日のお風呂みたい! よーし、もっと行くぞ! ハンナも大騒ぎだし!

 ガンガン火を活性化していくと、沼が赤くなってきて、しばらくすると沼がボコボコ音を立て始めた。すんごい暑いよ。前、鍛冶屋のアニタの工房を見せて貰った時みたい!で、これをちょっと取り出して、投げれば……。


「お、おい、サウル! ちょっと待て! 止めるんだ! 周りを良く見ろ。火事になるぞ」

「え?」


 ……。

 確かにちょっとあぶないですね。火の沼は戻します。ごめんなさい。


「お、ちゃんと戻せたか。やるじゃねぇか! こういうのは出すより戻す方が難しいんだけどよ。ったく、このガキと来たら……。四大術の初歩教室はこれくらいにしとくぜ。まぁ……」


 アラン様が僕の顔をじっと見て


「いやなんでもねぇよ。ガキはガキらしく精進しな。魂倉の消耗はどうよ?」

「え、えーと、大丈夫そうです」


 ロジャーおじさんが8割残ってることを報告してくれたから嘘じゃ無いよ。


「ちっ、可愛くねぇガキだな」


 周り中、色んな匂いがしてる。木を切った時の匂い、熱した土の匂い、焦げた草の匂い。見れば、ハンナはまだほかほかの沼の跡地を木の枝でツンツンして遊んでる。戦士様は、折れた大木の様子を見に行ってて、アラン様は壊れた岩の欠片をナイフでつついてる。

 皆の様子を視ていると、神官様が気楽な調子で近づいてきた。


「じゃぁ、神術やってみようか? 基本は、こないだやった祈りだね。祈りに願いを乗せる。霊的センターのことは気にしないで良いよ。ひたすら対象の神に願いを届けるんだ。だからほんとは神についてよく勉強しなきゃ行けないんだけど……。まっ、サウルならできそうな気がするからやってみよう。今からちょっと治癒を試すから、真似して」

「あ、はい」


 神官様は、そのままスタスタと戦士様のところに歩いて行って、斜めだけど、辛うじて立っている木に近づく。あ、僕もちゃんと付いていったよ。

 そして、神官様がちょっと深呼吸をして、息を吐く。手のひらを木に向けると、手のひらと木が白く光る。エーテルの光だ。木が、ぐぐぐっとまっすぐに戻っていく。そして、枝が、葉がきれいに戻っていく。


「こんな感じだけど、どうかな?」

「ええと、はい。多分。あ、でも……」

「なんだい?」

「どの神様にお祈りすれば良いんでしょう? 僕、まだ特定の神様への信仰が……」

「あぁ、確かに神格についての勉強もまだだしね。それなら、コミエ村の辺りを管轄されている土地神様にしてみてはどうかな?」


 あの女神様かぁ……。確かに生まれた時から見てくださってる神様なんだし。


「分かりました。この木のこと、お願いしてみます」


 こういう形で神様にお願いして良いのかな? とかちょっと思いながらも、切り替える。

 木が元通りになりますように。女神様のことを思い出しながら、祈りを捧げ、願いを乗せる。

 そしてが還ってきて。聞こえ『サウル、コミエ村のサウル。あなたに力を貸しましょう』土の香りがする音が、その振動が僕を満たしていきあふれ『再生』の意思と共に力が僕を通る……。

 白く光る木が再生していく。

 のように欠けた幹が満たされ枝が生え、葉が茂る。

 女神様の力と高揚感が僕から去ると、木は綺麗になって立っていた。元の姿なんて覚えてないけど、きっと元通りに違いない。


「ふむ。やはり」


 神官様は満足そうに頷いてる。


「土地神様の力をここまで引き出すのは、サウルが神との縁が強いのか、土地神様が活性化しているのか。信仰心については、まだ浅いだろうしね」

「は、はぁ」


 どう返事して良いのか分からなかったので、生返事。ハンナは向こうでピカピカの泥団子作って遊んでる。


「魂倉はどうかな? 他に身体に異常はあるかい?」


『調子はどう? ロジャーおじさん』

『残7割って所ですかね。しかし、坊っちゃん、これじゃまだ実践は難しいですぜ』

『良いんだよ、だし』


「はい、神官様。まだ行けると思います」

「残り3割くらいになったら終わりにしよう。その辺りは魂倉に問いかければ、なんとなく雰囲気で答えてくれるはずだよ」


 魂倉管理人は、普通居ないってロジャーおじさん言ってたっけ。しかし、なんで皆さん泡倉と魂倉の管理人について聞いてこないんだろう。不思議だな。

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