第40話 そうか……ついにか

 あれから大体一か月後の事だ。

 良賢君とあれから会わなくなった。

 良賢君の病状は悪化し今は病院のベッドにいて俺たちはなかなか会いに行けない状態だ。

 ななみはあれからずっと呆けていた。

 いくらなんでも引き釣り過ぎとは思うが、このバカが大人しいのは俺にとってはありがたい。

 学校でもずっとそんな感じだ。今はいつもどおり二人で帰り道を歩く。いつも通り防波堤の上を歩くななみ。俺は距離をとって歩いていた。

「良賢君の気持ちを考えた。あれはただのヤケだ」

 自分を理解できる人間などいない。自分の世界に入りたい。だから他人を拒絶している。

 本人はそう言っていた。

 それとは似通っていてちょっと違う心情で良賢君はヤケを起こしていたのだ。

「理由なんてないのさ」

 他人に媚びるのも嫌だ。だけど他人に頼りたい。

 同情されたい。同情されたくない。

 いろんな気持ちがないまぜになって良賢君自身も分かっていなかった。

「理屈をなんだかんだこねてはいたけど、あれはただのやつあたりだよ」

 ななみの言う事を聞いて俺は納得する。いままで大人しいと思えばこのバカがそんな事を考えていたとはな。

 死にかけた人間の気持ちなど俺にはわからんがこいつにはそう感じた。

「今となっては正解かどうか知る方法はないがな」

 いまさら聞きに行くわけにもいかない。正解かどうかなんて今更重要じゃない。

「電話だ」

 ななみの携帯が鳴った。電話の相手を見て怪訝な顔をする。

「そうか。ついにか……」

 ななみの神妙な顔を見て、そしてその言葉を聞いて、俺はその電話の内容を大体察した。

「つい今しがた、良賢君が息を引き取ったそうだ」

 俺もついに来たかと思った。葬式をするので参列をしてほしいという電話だったらしい。


 ここにもテレビ局のカメラは入り込んできた。

 死んだあとまで良賢君の事を見世物にするのはどうかと思うが、ちかどさんはじめ遺族の方々が了承したなら俺が口をはさむ余地はない。

 俺たち生徒会のメンツも葬儀には参列した。

 今はちかどさんの巫女舞いとやらをしている。

 神主のみで葬儀は事足りるとは言うが、ちかどさんの希望で行うことにしたらしい。

「若い巫女さんの舞い姿を撮れて、テレビ局もさぞ満足しているだろうな」

 ななみが俺の心を代弁してくださった。

 頼んでもいないしそもそも言ってほしくない言葉ではあるが。

「嫌味を言うな。元々ちかどさん達の希望だ」

 納得いっていない感じのななみ。今この時はこのバカの心象など何の関係もない。

 良賢君のためにいろいろ頑張ってきた俺たち。

 俺たちは良賢君。そしてちかどさん達を救うことができたのだろうか?

 俺も精一杯がんばり良賢君のスピーチに貢献をした。

 この村の公民館に良賢君のスピーチが保存をされるという。彼の生きた軌跡をこの世界に残すことはできたのである。

 持つ鈴をシャンシャン鳴らし、しずしずと言った感じの舞を披露しているちかどさん。

 凛とした彼女のその時の表情では彼女の心情まで察することはできない。


 葬儀が終わると俺はすぐさま帰り支度をした。

 良賢君には思う所もあったがちかどさんにはウザがられている。葬儀が終われば長居は無用だ。

「すぐに帰っちゃうとかないんじゃない?」

 後ろからちかどさんに声を掛けられたのは玄関で靴を履こうとしている時だ。

 残っていたらいたで、なんでさっさと帰らないんだとか言われるのがオチ。

 帰ったら帰ったでこう言われる。それが世の中の無情というものだ。

「なんか、とんでもなくひねくれた事を考えていない?」

「今日くらいケンカは無しにしましょうか」

 何を言ってもケチをつけられる状態なら話を逸らす。これが正解だ。

「そうだね。ケンカはなしにしよう」

 そうすると巫女服を着たままのちかどさんは俺に大きく頭を下げた。

「ありがとうございました」

 怪訝な顔で眉根を寄せる俺。

「意味が分かっていない感じの顔しないでよ」

 ちかどさんは言うがしょうがない。本当に俺は意味が分かっていないのだ。


「一番頑張ってくれた子にお礼をしようと思って」

「一番頑張ったのはななみですよ」

 俺たちは神社の裏手に向かった。人に聞かれるとハズいとかいう話である。

 俺は生徒会の嫌われ者。面と向かって頭を下げるわけにはいかないという事だと思った。

 これも処世術というものであるから仕方ない。嫌われ者とは仲良くしないというのは処世術の基本だ。

「あの子は先頭に立ってくれたけど一番頑張ってくれたのは君でしょう?」

 俺の頑張りを陰ながら見ていてくれたという事か。

 ならあんな辛く当たらないでくれないかな。

 とか言いたいことはあるが今日はケンカはなしなので余計なことは言わないでおこう。

「そう言われると、なんといっていいかわかりませんが」

「どうせ、ひねくれた事を言いたいんでしょう?」

 そういう事口にしないでください。

 ちかどさんはクスッと笑って俺に目を向けた。

「いいコンビだね。ムチャを考えるななみちゃんと、ムチャを通す方法を考える君」

「思いっきり片方にだけ負担がかかっていますがね」

「ほーら。ヒネくれた事を言った」

 つい言ってしまったか。

「お礼ってなんですかね? お祓いでもしてくれます?」

 話を逸らす俺。そもそもちかどさんがお礼をしてくれるという話だったはずだ。

「恋愛成就のご祈祷なんていいんじゃない?」

「ではそれで」

 そう俺が言うと持っている鈴を鳴らし始めた。

「あなたに、ななみちゃんとのご縁がありますように」

「ご祈祷っていうか呪いかけられたようなもんなんですが」

 俺が言うとちかどさんは面白そうにして腹を抱えて笑った。

「でも……本当に二人は……お似合い……」

 とりあえず落ち着いてから言ってくれませんか?

 一人でウケて笑いながら言うちかどさん。

「これから君ら、いろんな人を救っていけると思うよ。この村を過疎化から救ってくれるかもしれない」

「それ、市役所の仕事でしょう?」

「そんな事ななみちゃんに関係あると思う?」

 確かにあのバカには関係ないな。市役所からそんな要請が来たら、ふんぞり返って二つ返事でオーケーを出すだろう。

 もちろん何の予定も考えもなしの返事である。苦労するのは当然のように俺だ。

「これからもがんばってね」

 ちかどさんのこの言葉にこれ以上の邪推はよそう。

 好意的な取り方をするならば

 これからもいろんな人を助けてあげてね。

 こんなところである。

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