第36話 広告配りです

「君は何もする気はないのかな?」

 次の日の生徒会の会議でちかどさんが言ってきた。なんかもう、俺の事をジロリとにらみながら言ってきたぞ。

「広告配りです」

 なんで俺は悪者扱いをされるの? いまさらなんでもいいが。

 計画は考えてきている。人の多いところ、時間帯に目星をつけてきていた。

 狭い生徒会室で会議と言っても、俺とちかどさんの二人では手広に感じる。みんな働いていなくなっているのだ。俺たちも働かなくてはいけない。

「計画を見てください」

 二人で配ると考えて計画書を作ってきた。

「こういう事はマメね」

 なんだよこの最低評価。ため息交じりに言われたんだけど。

 生徒会の人らに嫌われてんのはこの際気にしないことにする。この人らとは生徒会だけの付き合いにすればいい。普段は会う用もないしな。

「私のいない場所でやる気なの? サボる気じゃないよね?」

「うるせぇよ!」

 もう、さっさと仕事にはいろう。


 できあがった広告には必要な事が書かれていた。

 良賢君のスピーチ大会。そのために学校をあげて強力。忍者公演も落語もその一環だと。

 ただ、もうちょっとイラストなんかもいれて飾り気を多くするといいかもしれない。

「よろしくおねがいします」

 午後五時の時間帯は主婦の活動の時間だ。オバさまの集まるスーパーの前で広告を配っていた。

 あらら、受け取るそばからクズ籠に捨てられてるよ。

 俺の鋼メンタルでなければこれは堪えるだろうな。広告配りでキツい事トップスリーに入る出来事だ。

 それでも俺は広告を配り続ける。

 あの二人にも頑張ってもらっているんだ。俺もつらいなんて言ってられない。


 時間になったら次の場所に向かう。

 その合間にちかどさんの様子を見に行くことにした。

 なんでベンチに座ってるんすかね。持っている広告もいっこうに減っている様子もないし。

「なにやってんですか?」

 人にさぼるなとか言っといてこの体たらくはなんなんでしょうね?

「別にいいでしょう?」

 広告配りは俺一人でやってもいいんだが、せめて嫌になったなら言ってくれないかな。

「君なんかに分かるはずないよ。鈍感そうだし」

 あー。大体わかった。広告を目の前で捨てられて心が折れたんだ。

 励ましても俺の言葉が素直に聞かれるとも思えないし、人をはげますなんて俺の性に合わないことこの上ない。

「ちかどさんはみんなのサポートに回った方がよさそうですね」

 実質的な唯一の生徒会の女性のメンツだ、マネージャー的な事をやってもらうのがいいだろう。

 もちろんななみを女性のメンツとは考えていない。

「そうだね。広告配りなんかより、その方が役に立てるもんね」

 俺はどんだけ嫌われてんだ? ちかどさんの口から次々嫌味が出てくるんだが。

「よろしくおねがいします」

 適当に相手しておく。ななみとの付き合いが長い分、忍耐には自信があるつもりなのだ。

 

 俺たちの体制は決定した。

 俺は町中で広告を配る。

 糸居先輩は忍者教室。最初は閑古鳥が鳴いていたものの、タダで見れるとして観光客が少しずつ増えてきていた。

 良賢君のスピーチにも行くと、声をかけてくれる人もちらほらいるという。

 笹島君の落語も人が集まってくれているらしい。

 あのハンサム君の笹島君はオバ様方からの受けもよく、良賢君のスピーチの事もいろんな人に教えてくれるという。

 ちかどさんは笹島君に水の差し入れをしたり、良賢君の作文の進捗状況を俺たちに教えてくれる役なんかをしてもらう事に落ち着いた。

 ちかどさんがやってくると糸居のぼっちゃまがすごく張り切るという噂は、俺のもとにまで届いている。

 継続は力だ。着実に良賢君のスピーチが村中に認知されていく。

 俺も当日が楽しみになってきた。

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