第35話 喉がつぶれるかと思った

「喉がつぶれるかと思った」

 俺は喉をつぶそうかと思ったけどな。俺の事を極悪非道とか何回も言いやがって。

「しかし、お前なんでそこまで肩入れするんだ?」

「あんたは肩入れしろよ。生徒会長の幼馴染なんだからさ」

 なんで笹島君の方がイラッてきてんの?

 笹島君は午後四時から始め、閉店時間の午後九時になるまで話し続けた。普通の噺家も長く話して四十分の所らしい。五時間にわたる独演会は、さぞきつかった事だろう。

「これはつづけていけそうか?」

 一日やっただけでは話にならない。宣伝活動は継続して続けなければ意味がないのだ。

「ああ。がんばるさ」

 俺の事をめっちゃにらみながら言ってきた。なんで俺を目の敵にするんだろうね。

「じゃあ、笹島君は明日もここで落語かな。残った俺たちは俺たちにできる事をしようじゃないか」

 笹島君一人に任せるわけにもいかない。

 今日は解散として、明日から残ったメンツはそれぞれ何をやるべきかを考えないといけない。


「さて、広告配りをする場所を決めないとな」

 次の日の生徒会の会議で俺は言う。

 笹島君はさっそくスーパーで落語を披露している。それはそれとして、俺たちは俺たちにできる事をしないといけない。

 時間帯ごとによく人が集まるところを考えて、そこに移動して、にこやかな顔をして広告を配るのだ。

 笑顔なんて、俺は似合わない事この上ないんだがな。

「だから君はなんで広告を配ろうとするんだ?」

「なんでと申されましても」

 糸居先輩も困った事を言う。他にいい方法があるのかって話だ。

「お前も何か一芸くらいあるだろう? ほら、芸をしろ」

 なんだそれは俺は犬か。

「忍者こそ芸の宝庫だと思うけどね。手裏剣でも投げてパフォーマンスをしたらどうよ?」

 家が忍者である事を恥ずかしがっている糸居のぼっちゃまが、そんな事をするはずもないがな。

 そう俺が言うと話を締めに入る。

「大人しく広告配りをしましょう」

 話はこれで決定だ。大人しく広告を配ろうか。ラストニンジャ君。

「それいいかもね」

 ちかどさんが言い出す。意味は俺の言葉に対する同意ではなかった。


「ちかどさん! 俺は頑張って見せますよ!」

 糸居先輩がチョロかったのを忘れていた。

 あれからちかどさんが糸居先輩をおだてるとホイホイ話に乗ってきた。

 気合を入れて忍者のようなかっこを決めてきやがったラストニンジャの糸居はノリノリで手裏剣を投げる構えを見せていた。

 どこでこんなもんを披露すんのかと言えば公民館だ。

 糸居先輩の家の関係者のじいさま方を集め、糸居少年が一生懸命に忍者の技術の公演をしているのに、孫の学芸会を見ているおじいちゃんのようなノリでパチパチと拍手をするギャラリーたち。

「ここで公演なんて、わざわざ人を集めなきゃならないんだから二度手間じゃないか」

 良賢君のスピ-チに人が集まらないと意味がないのだが、ここでの忍者披露に人が集まっても意味がない。

「ここで広告の出番か」

 広告で、これは良賢君のスピーチに人を集めるためのイベントだと印象付けないといけない。

 糸居先輩が上手く来てくれた人に説明できるように考えないといけないしな。

「また広告? それしかないの? 君は」

「あなたには何があるんですか?」

 ちかどさんの嫌味も度を越してないか? そろそろ文句の一つも返していい頃だろう。

 二人いれば分担して配ることもできるだろう。家に帰ったら計画を考える事にする。

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