第32話 みんな正直だね

 結局良賢君に書き直しを指示するという結論になってしまった。

 みんなおかしくなっている。テレビに出ると聞いてプロデューサー気分になってやしないか?

 そのまま良賢君に書き直しの指示が出たなんて伝えるわけにもいかない。

 この酷な通告は俺一人で伝えに行くことにした。

 呼んでもいないのに勝手についてくるななみについては、いないものと考えてほしい。

「なんて伝えようか……」

 ダメだし出ちゃいましたー、なんて伝えるのはもちろんダメ。

 良賢君にみんな過大な期待を乗せすぎである。みんなが自分たちの言っている事がおかしいと気づくような言葉を、どうにかして良賢君と考えていかないといけない。

 良賢君の家にまで行く間、俺は良賢君とどのような相談をするべきだろうかをと考えるが、うまい言い訳など思いつかない。

「ええい。ままよ」

 とにかく、生徒会のみんながおかしくなっている事を伝える。良賢君も不満の一つくらい言うだろうから、それを伝えてみんなの目を覚まさせよう。

 俺は良賢君の家のドアの呼び鈴を鳴らした。


「そういう事なんだ。おかしいよな。みんな勝手な事を考えて」

 一通り良賢君に説明をした。

 自分の作文が勝手に却下されたことは、良賢君も迷惑極まりないことであろう。

「なんか、みんなに目の覚めるような事をガツンと言ってやれよ。お前らおかしなことを言ってるぞって」

 伝えるのは俺だし怒られるのも俺だ。良賢君は好きな事を言ってくれていい。俺は良賢君の味方としてみんなと戦う決意を固めている。

「みんな正直だね」

 良賢君は思わぬことを言った。

「ぼくもこれじゃいけないって思っていたんだ」

「ちょっと待て。君はただの小学生だぞ。プロの作家の作った文章と比べてはいないか?」

 良賢君もおかしな事を言いだす。

「こんなのはボクの伝えたかったことじゃない」

 ならなんで出したんだ? なんて野暮な事は言えない。

「ふっふっふ。やはりこうなったか」

 さっきから、俺の後ろで黙っていたななみがいきなり言い出した。

「スピーチの作り方というものを一から学ぼうではないか。人にものを伝えるというのは、思いのたけをそのまま書けばいいというものではないのだよ」

 あのアホみたいな文章を書いておいて、何を知ったような口を利くのか。

「私も失敗から学ぶのだよ」

 ななみの口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。

 反省や、後悔といった言葉からは、世界で一番縁遠いやつだと思っていた。

「何を学んだんだ?」

 それから良賢君の事を考えて傑作をしあげたときとか、なんたらとゴタクを並べた後、書いている時に自分には作文が何も分かっていない事に気づいたのだという。

「恥を忍んでこれを読んでくれないか?」

 それは『小説の書き方 基礎編』と書かれた本である。

「起承転結に、話の盛り上げ方。いい締めくくり方。それらの基本を伝えたいのならこれを読むしかない」

「俺たちヒット作を出そうとしている出版社じゃないんだけど?」

「人に聞いてもらうなら、興味を持ったもらうための心構えが必要と言っているのだ」

 なんかもっともな事を言っているように聞こえる。

 ここで冷静に考えよう。

 もともと、俺は書き直しの指示を良賢君に伝えるためにやってきた。

 本人も書き直した方がいいという意見には同意のようだ。

 ななみは書き直しのために基礎の勉強からするべきと言っている。

 ならいいではないか。全員の意向に沿った結論だ。

「なんだ? ワシ坊。お前の小さい頭じゃ、今の状況を飲み込むことはできないか?」

 頭カチ割るぞ。お前は状況も飲み込まずに行動しすぎなんだよ。

「時間はまだあるし、そうしたほうがいい」

 俺が言うと、ななみはそれ見たことかと言った感じでふんぞり返った。

 イラつく。

「はっはっは! それでは始めようか! 私の指導は厳しいぞ!」

 いつからこのバカが指導役になる事に決まったのか。

 だが野暮な事を言うのは無しだ。彼らの好きにやらせると同時に俺たち生徒会にもやらないといけないことがある。

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