第28話 失礼しました
「最初にこちらからのご提案から入ってよろしいでしょうか?」
テレビ局の人は丁寧に言ってきた。
俺たちはテレビ局の意向が知りたいのだ。提案を聞く。
「良賢君の作文の流したいというが、それは余命一か月切ったころでいいでしょうか?」
「な! 何を言っているのだ!」
いきなりテレビ局の人は爆弾発言をしてくれた。
「ななみ。黙って聞け」
良賢君の死に際の方が映えると思っているだろう。
「お医者様に聞いてみないといけません。この病気は余命一か月の状態ではどうなるのか」
「ワシ坊! お前も何を言っている!」
ななみの怒りももっともなんだけどな。
良賢君の命を演出のための道具みたいに扱う言葉には、人として怒りを禁じえないって事だ。
だがな。これはテレビなんだぞ。
「良賢君の命を見世物にする気か!」
ななみ。お前何言ってんだ?
「見世物にするとかではなくてですね……」
困ったテレビ局の人は言う。そう言うしかない。
「見世物にしているではないか! この誰も見ないようなアホなテレビ局のクセして!」
「アホはお前だ!」
俺はななみの首根っこを掴んで引き下げた。
「すみませんね。礼儀の知らない奴で」
暴れて、今にもテレビ局のプロデューサーさんに飛びつこうとしているななみを後ろから掴んだ俺は部屋から引き釣り出していった。
「アホ!」
それ以外に言う言葉がない。
このバカは良賢君の事を想って言ったなんて言い訳じゃカバーしきれないような事を言いやがった。
俺はななみを廊下に連れ出した。ななみの頭を思いっきり掴んだ俺は壁に叩きつけたのだ。
「向こうが悪いのではないか!」
「悪い悪くないの問題じゃない!」
このアホは何を考えてテレビに良賢君の事を映そうなどと思ったのだろうか?
「良賢君の命を見世物にして、振り回そうとするのが正しいことなのか!」
こいつの考えはそうであろうというのは大体わかってる。だが、こいつは本当に根本的な事を分かっていない。
「テレビに出るって時点で、自分を自分で見世物にするって事だろうが!」
なんでこの事に気づかないんだ?
アイドルのライブや俳優の演劇は見世物をやっている。だからテレビに必死に出たがる。
ドラマは見世物だ。バラエティー番組は見世物だ。クイズ番組は見世物だ。
「お前簡単に良賢君をテレビに出すって言ったけどな! テレビに出るって事はそういう事だろうが!」
良賢君の命を弄ぼうというのは悪い事だろう。だが、そういうものである。この事の発端はななみだ。ななみは自分自身が良賢君の命を見世物にしようとしているのだ。
「後で結果だけ伝えるから、お前は先に帰れ」
こんな奴を会わせられるわけがない。
俺はななみを置いて部屋に戻っていった。
「話はどう進みましたか?」
途中で退室したから話が進んでいたらどう入っていいかわからないところだった。
「あなたの声が聞こえてきましたので話は中断しました」
そうか。別に学校の壁は厚くもないもんな。俺がななみに言ってた事は筒抜けになっていたのだ。
「失礼しました」
頭を下げる俺。
「一般人からしたら、マンガと言えばジャンプ。小説と言えば東野圭吾。テレビ局と言えば全国放送の六局であり、他は有象無象。そういう事であるのは理解していますから」
大人な反応だ。恐れ入ります。
「こちらの意思が固まっていない事がわかりました。申し訳ありませんが当人たちから了承を得ない事にははじめられません」
俺は今更になってこんな事を言う。こんな事聞くまでもないと思っていたが、考えていなかったらしい。
良賢君自身に、自分の病気を見世物にする事に対して許可を改めて取らないといけないし、あのバカがこの件をどう受け止めるかも見届けにゃならん。
最悪、あいつを抜きにした方がスムーズにいくかもしれん。
だがそれは良賢君から了承を得てからの話だ。
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