第26話 俺たちが聞きに行くという話だよな

「俺たちが聞きに行くという話だよな」

 生徒会は解散になって生徒会長が会議の結果の報告に行くのは当然。

 ななみに校長への報告と校長の言葉を記録という高度な事ができるはずもないので、同行する事になった。

 今日、校長室に行くのは二回目。俺たちの会議の結果を待っていた校長はすんなり中に入れてくれた。

「そうだね。ななみ君の言うようにドラマチックにする必要があるようだ」

 ローカルテレビなんだからこんなもんでいいだろうなどという妥協は許されない。

 そう校長から釘を刺された。全力で良賢君の事をドラマに仕上げねばならないようである。

「一度死の淵を彷徨い命の尊さを知るななみ君が、良賢君の命の灯を広げようと考えるのは泣かせる話だと思うね」

 はいなるほど。ドラマを作るにあたってその事も使えというのですね。

「他の生徒会のメンバーも出自が面白い者ばかりじゃないか。アイデア次第で何とでもなりそうだけどね」

「家が忍者っていう人もいますからね」

 糸居先輩。がんばってください。

「校内の人気者もいる。彼がみんなにこの事を話して協力者をつのれないだろうか」

 笹島君か。性格はまだよく知らないが、頭を下げて人に協力を頼めるような子なのかな?

「それに盾梨君。君がななみ君の怪我の原因なんだってね」

 それを言われると、俺は心臓を撃たれたような気分になった。

「いやいや、責めているわけではないんだよ。ななみ君は君の事を許し、無二の親友として君の事を慕っているのだ。これも心を打つ友情劇だと思うよ」

 それも使ってなんか考えろと。

「アイデアを考えるのは生徒会に一任するよ。古い人間の作った古い話なんて、誰も望んでいない。若い感性に期待したいね」

 半分校長が作っているようなものだけどな。

「それで、テレビ局で番組が作られる方法についてですが」

「そうだね。調べられる限りは調べておくよ。わが校のピーアールも兼ねた計画なんだからね」

 校長も協力的でよかった。本当にいいかどうかは分からないが、とりあえずよかったという事にしておこう。

 俺はペコリと頭を下げ、無言で校長室を後にしていった。


「なんだワシ坊。いきなり元気がなくなっているではないか」

 校長室を出るとななみは俺に向けて言う。

 チラリと俺はななみの事を見る。いつもは見てもなんともないななみの頬を走る傷であるが、あの話を聞くとあの時の事を思い出してしまった。

「この傷の事をいまさらとやかく言うでない。気にしているというのなら、帰りにアイスを買うという事で手を打とう」

「ああ。いいとも」

「本当か? 本当に買ってもらうからな」

 ななみはそう言い、無邪気に笑っていた。


「校長からの話を正確に伝えるぞ」

 この世界の現実を生徒会の会議の時に話し出した。

 ななみは校長が協力をしてくれたと言っていたが、テレビ局に知り合いがいて話を持ち込むことができるという程度の話らしい。

 テレビ局はいつもネタに困っているため、運が良ければ話を請け負ってくれる。元々、常に番組の企画になりそうな事を探して奔走をしているらしいし、うちの学校に紹介できそうな面白い生徒はいないかと、相談を受けたことはたびたびある。

「新入生が入るたびにそう言われるらしい」

 ローカルのテレビ局が資金が潤沢にあるはずもない。

 いろんな学校や幼稚園にいって、かわいい園児や、すごい小学生を流してお茶を濁すのが精いっぱいなのだ。

「企画になりそうな生徒がいれば何度でも言ってくれ。もちろん全部を採用することはできないが」

 校長はその局員に言われたという。つまり企画を持ち込むチャンスは何度でもあるという事。これはかなりでかい。ななみ得意の連続突撃が可能という事だからな。

「それでだ。その人の作った番組ってもんを教えてもらって数本のビデオをもらった。今から観賞しようと思う」

 その人が受け持っているというのは三十分の番組だ。

 未来の星。

 そういうひねりのないタイトルの番組は、かわいい園児や面白い特技を持った小学生たちを紹介する番組だった。

「なんか。私達でも出れそう」

 ちかどさんでもこんな毒を吐く。

「ローカルテレビなんだからこんなもんでいいだろうなどという妥協は許されないって、校長に言われてる。そういう事は考えないでいただきたい」

 これでも必死になって作っているのだ。軽々しい発言はやめていただきたい。

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