第24話 校長の思惑
「重要な事態だ」
会議中にななみが言い出した。また会議の脱線である。いつもの事と気にもしていなかったが今回は違った。
「良賢君に次の悩みが発症したのだ」
良賢君か。あの話はカタがついたかと思っていたが、またななみが首を突っ込んでいきそうな案件が発生した。
ここで俺も警戒をできたはずだ。だが、良賢君とななみは打ち解けているし、俺が出る幕はないと思っている。
「良賢君はな……」
ななみが言い出すには、このまま一人で消え去っていくのが寂しいと考えているそうだ。死ぬ前に何かでかい事でも打ち立てたいと言っている。
詳細は違うものの俺の解釈ではそうだった。
このバカなら無茶苦茶な事を考えるのは得意だろう。
「そこで、私は秘策を考えた」
はい。得意中の得意でした。
「テレビに良賢君の気持ちを乗せて全国に流すのだ!」
はい。バカ発見。そんな事できるはずがない。さて、止める準備に入りますか。
「それでは校長にかけあってこよう!」
そうななみが言った瞬間に俺は浮きかけていた腰を落とした。そういう話なら俺も望むところだ。
まわりからの意見も聞かずにこのバカは生徒会室を飛び出していく。
「止めなくていいの?」
ちかどさんが言ってくる。
「あいつがテレビ局に突撃をするっていうなら止めました」
校内で話が済むならそれでいい。これで、校長たちもあのバカを生徒会長に任命したことを心の底から後悔するはずだ。
あのバカが現実を知って戻ってくるまで、しばし俺たちの休憩時間となる。
「成功だ! 校長がホクホクテレビというところにかけあってくれるらしいぞ!」
それからしばらくして帰ってきたななみは耳を疑うような事を言い出した。
ホクホクテレビはうちでも見ることができるところだ。チャンネルを回す際も考慮にも入らないとこではある。
「ちょっと校長に事情を聞いてくる」
こいつの要求を呑むなんて一体何を考えているのだろうか、校長から直接話を聞かないと納得ができない。
俺が校長室に行くと校長はすんなり通してくれた。
「君が盾梨 鷲谷君か」
俺の名前をご存知の様子。そりゃ生徒会のメンツなんだから当然か。
「生徒会長から話を聞いたんじゃないかね?」
先回りして聞いてくる校長。俺が聞きたい事がわかっているようである。
「あんな話を承諾した理由が知りたいんです」
生徒会長が校長に言いに来たんだから、生徒会のメンツは納得済みで当たり前と考えるのが普通だ。
だが校長は大体の事情を察しているようにして言う。
「あの子を生徒会長の推した意味はなんだと思う?」
校長の目が節穴だったからではないのか?
そう思っていたがさすがに本人を目の前にしてそんな事を言うほど俺に度胸はない。
「考えたことなかったです」
俺はそう言っておく。
「生死の境を彷徨ったことがあり、命の大切さを身に染みてわかっている少女が、死を目前にして苦悩をする少年に手を差し伸べる。いい話じゃないか」
浪花節にほだされたって事かと思ったが、校長はそんなタマではなかった。
「いい学校のピーアールになる。生徒会達も、下校時間になるまで残って真剣に連日会議を行ってくれている。学校のためにそこまで身を捧げてくれるし、ついずうずうしい期待などもしてしまってね」
ここで会議が脱線ばかりだから時間ばかりかかっているなんて言うわけにもいかない。
もしかしたらこのクセ者の校長は知っているかもしれないが、それを言うような度胸は俺にはなかった。
俺たち生徒会を学校のピーアールに使おうというのである。
「少年の姉。家が警察官の少年で先輩たちからの人気もあるなかなかの美少年もいる。行動力のある生徒会長がみんなをまとめ上げて、この図々しいお願いをかなえてくれないもんだろうか?」
あー。そういう事ね。俺一人では決めかねる話である。
校長は糸居先輩の事は言わなかった。
ちかどさんに惚れていて、ちかどさんのためなら良賢君のために動く事も積極的にやってくれるだろう。
だが、ここで仲間を売るのはさすがに気が引ける。
「家が忍者っていう子も随分協力的じゃないか。少年の姉に惚れていると見たね」
校長は知っていました。
「生徒会の仲間と会議をしてきます」
質問には答えてくれた。聞いてもいないのに裏の事情も全部話してくれた。俺じゃ校長に太刀打ちできないこともよくわかった。
俺は校長室から退散する。逃げたのだ。
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