第23話 じっとしていられなかった

良賢君が歩いて行くと丁度良い場所にさしかかってきた。先に灯台のある道だ。

 一緒に灯台に登って話をするといい。景色もいいし最高のロケーションであろう。

 糸居先輩は深く考えずにそう思った。

「君。良賢君だよね」

 糸居先輩が声をかけて良賢君が振り返ってきた。

 糸居先輩には良賢君の顔は健康的に見えた。これが病人とは思えないが、着実に病魔は彼の体を蝕んでいるのだ。

「ちょっといいかな。最近出歩くのが多いみたいだけど」

 そう言い灯台の上の階に案内していった。


 隠すことではない。さっきから良賢君の事をつけていた。特に重要な用があるようでもないため、出歩かないに越したことはない。ちかどさんの君の行動を見て心配している。

 それらの事を聞いた良賢君は頷いた。

「出かけるのはやめる」 

 良賢君は聞き分けのいい子だ。これで糸居先輩の仕事は終わりである。

「なんで、用もないのに出かけていたんだい?」

「じっとしていられなかった」

 糸居先輩が聞いてみると良賢君は言う。

「ボクは病気でもうすぐ死ぬ。何かこの世界に残せないのだろうかって思って」

「それは……」

 良賢君は大それたことを考えているものである。

「でもさ。ボクは死んでいくまで何かできないかなって思う。このまま死んでいくなんてやだって思う」

 糸居先輩も、いきなりヘビーな話を聞かされたものだ。こんな話についていける人間は、俺は一人しか知らない。

 糸居先輩もその言葉には耐えきれなかったようだ。

「よし! ボクがなんとかしよう!」

 これは糸居先輩の言葉だ。ちょっと待て。何を勝手な事を言い始めている?

「君に何も思いつかないのならボクが考えよう。この世界に何かを残すことを」

 はったりを言う糸居先輩。糸居先輩は面食らう良賢君の両手を握り、硬く約束をした。


 この話は糸居先輩の胸のうちにおさめておいて欲しかった。

 こういう事に首を突っ込みたがり、なおかつ真剣になって解決法を探し、そして実行しようと奮闘をしたがる奴がいる。

 ななみだ。

 良賢君の問題がひと段落着いたかと思ったところで、良賢君の悩みを聞いた糸居先輩は、次の問題を持ってきたのだ。

 糸居先輩にもしたたかさはある。

 この事をちかどさんに報告したのだ。それから先の展開を読んでいるようだった。

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