第22話 いい事をした後は気持ちがいい

「いい事をした後は気持ちがいい」

「なんだ? お前はそういう事を言うときは大抵ろくな事をしていないんだが?」

 貴様が言うな。

 昼休みに、心配事が一つも無くなって晴れやかな気分になった俺が、幸せを噛みしめて口からふと漏れた言葉に、ななみが思いっきり「お前が言うな」という言葉がこれ以上に似合う茶々を入れてきた。

 だが、心が晴れやかになっている俺は、ななみの身の程知らずな言葉を許してやる気持ちになった。

 糸居先輩がちかどさんに近づくためのアドバイスをしてあげたのだ。これをうまく使うかどうかは糸居先輩次第である。

 あの様子では、ちかどさんにいいように使われそうではあったものの、そんな責任まで考える必要はないはずだ。

「ファイト。俺は恋の応援団だ」

「うわ。お前きしょいぞ」

 ななみに言われる。

 この考え方では応援団というよりは、ただの観客である。

「俺もななみに同意だ」

 おっと。良一も敵に回ってしまっては分が悪い。俺も恋のキューピット気分はやめるとするかな。

「今回のななみのお手柄について話してやろう。久々にこいつがトラブルを起こす。それ以外の行動をしたんだからな」

「ちょっと待て、私の事を悪く言いすぎではないか」

「メシ食って寝る以外の行動が、すべて人の迷惑になる人間が何を言ってんだ?」

 良一が俺の言葉に支援を入れてくれた。良一君。君はよくわかっておいでだ。

 良賢君の事を勇気づけるのに協力をした事を話した。良賢君はあれから学校によく行くようになったという。

 俺は何度も止めたが、最後はいい結果になってよかったという話だ。

「それっていい話なのかね。良賢君が余計な事を考えるようになっちゃったんだろ?」

「何も考えずに死を待つだけなのもいかんではないか」

「ななみも考えがあってやった事だ。茶々を入れるなら俺もななみの側に着くぞ」

 良一の言いたいことは分かるが、それだと話が振り出しに戻ってしまう。

「二体一は確かに勘弁」

 良一も、良賢君が全てを諦めて消えるように死んでいこうとしていたのを知らないからそう言えるのである。

 ななみはいい事をしたはずなのだ。


『なんでもないって……』

 その日の夜。糸居先輩はちかどさんの掲示板の書き込みを見た。

 糸居先輩の部屋は殺風景である。特に物などは置いていない。男子の部屋よろしく多少のマンガが置いてあるくらいだ。

「病人が一人で出歩いて、なんでもないはないだろう」

 糸居先輩は愚痴る。病人だから好きにさせてやりたいという、ちかどさんの考えもわかるが、家族やちかどさんに心配をかけるのはいい事とは言えない。

「明日も学校休みます。良賢君にこんな事はやめるように注意をします」

 そう言い、掲示板に書き込んだ。

 ちかどさんはそれがいいことか悪い事かわからないようで、返信はなかった。

 糸居先輩は明日に良賢君に接触をしてみるつもりで考えを固めた。


 良賢君は今日も外出をするだろと思い、今日も向かいの家の庭で監視をさせてもらっていた。

 その家の主人のおばさんが良賢君が出てくるのを監視している糸居先輩に後ろから声をかける。

「あの子、最近元気になったんだけどね」

「いい事ばかりでもないようですけど」

 向かいの人は良賢君の様子が変わった事を良い方に解釈していた。

 治安のいい田舎町とはいえ、病人が一人で出歩くには関心できることではない。

 周囲の家に聞き取りをしたが良賢君の事は概ね好意的にとらえられていたし、ななみが良賢君を変えたことはいい事だったとわかる。

 後はむやみに出歩かないようになれば完璧である。

「ちかどさん。良賢君を説得して見せますよ」

 良賢君も悪い子ではない。出歩かないように注意をいれればいいだけのはずであると思っている。

 監視を続けていると上着を羽織った良賢君は家から出てきた。

「ご協力ありがとうございます」

 監視をするために庭に入れてくれたおばさんに一言お礼を言うと、糸居先輩は良賢君の事を追っていった。

 落ち着くことができる場所が近くなったら、声をかけて事情を説明して注意をすればいいだけの話である。

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