第19話 そりゃ後をつけたからな
電車に乗って帰る俺たち。疲れ切ったななみは眠ってしまっていた。
「こいつは何をしたかったんだ?」
良賢君が言う。正直分かってはいるだろうが、それを認めたくなくて悪態をついた感じだろう。
電車に揺られて倒れそうになるななみの事を俺が支えている。
「てめぇ。よだれたらすな」
そうはいうものの完全に寝ているななみには何を言っても意味がない。俺の手の上にななみのよだれが垂れてきている。
「今日は楽しかった?」
ちかどさんが良賢君に聞いた。だが今日の事は楽しいと一言で言えるような体験ではなかっただろう。
「すっごい不快だった。なんでこんな奴と一緒なら遊びに行ってもいいと思ったのか今となってはさっぱりわからない」
なんという酷評。ななみが起きていたら泣いていただろうか?
こいつの事だから「リベンジだ! 今度こそ楽しませてみせるぞ!」などと言ってまた連れまわしたに違いない。
「でも、大分勉強になったと思う」
勉強ね。良賢君なりの言い方なのだろう。
これが、彼にとって良かったかどうかは後にならないとわからないものである。
「ななみはやれるだけの事はやったはずだよな」
俺は思う。だが良賢君はこの俺の言葉に異があるようだ。
「はぁ? 何言ってんの? 自分勝手に遊びまわっていただけだったじゃないか。遊園地を楽しむための邪魔になっていたね」
またも酷評。今回の事は良賢君のためになったのか、ならなかったのか、本当にわかりかねる。
それから良賢君は俯いて何かを考え始めた。
「いままでの会議の遅れを取り戻さないとな」
このバカが生徒会の会議の時に真面目になってそう言い出した。
「悪いもんでも食ったかと思うだろうが、気にしないでくれ」
「嫌味を言わせたら天才的だなお前は」
いくらななみでも、マジメモードになった時にこう言われるとイラッとくるらしい。
俺も真面目に話を続けるか。
「新設の部活ですが校長からの許可を得るために必要なものが……」
「部費の配分ですが、校長に報告する前に我々である程度まとめて……」
「金網が壊れているという報告がありました。校長に報告をする前に修理金額の見積もりを……」
こんな事ばかりだ。全部校長が決めればいいと思うのは俺の気のせいだろうか?
今までの遅れを取り戻すために議題を消化していく。
今回は下校時刻になるまで有意義な会議を続けていた。
「遊園地に行っていたな」
会議が終わり、俺が一人になったところで背後から声を掛けられた。
「前回無駄だってわかったんじゃないですか? 糸居先輩?」
またも声がくぐもっていた。口に布をあてがっているのがわかる。
だがなぜいまだにそんな事をしているのかわからない。
「ななみ会長に使ってみたら見事にはまったのに、なぜか君には効かないんだな」
あいつに効いたら全人類に効くという考えがまず間違いだ。そもそも糸居先輩の声を覚えているかどうかも怪しいくらいだ。
「遊園地に行ったのを知っているのは何でですかね?」
ななみの事はいい。糸居先輩の用の方が重要だ。
「そりゃ後をつけたからな」
「つけた! 何やってんですかあんた!」
マンガじゃないんだ。そうそう人の後をつけまわしていいもんじゃない。
「うちの家の教える尾行術は役に立ったよ」
そんな事聞いていないんだが、この人もヤバい人かもしれない。
「それで、何を聞きたいんですかね」
「おいおい、俺から距離を取りながら聞いてくるな。悪かったよ。後をつけてさ」
そう言われましてもねぇ。少しずつ後ろに下がっていってしまう。
「ち、ちかどさんといい感じになっていたではないか! 君はちかどさんには興味がないのではなかったのか!」
コブが二人ついていたのはみていなかったのか。
「あの状況について、詳しく聞かせてくれ! 内容によってはウチの忍術を食らってもらう事になるぞ!」
糸居先輩はヤバイ人だった。
この人に絡まれないためにも、俺は昨日の遊園地の事の顛末を細かく話し始めた。
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