第18話 そう思っているんだぜ。あのバカは

「はげますだけで元気が出るなら、とうの昔に元気が出ているはずだ!」

 そりゃそうだけどさ。

「普通の方法じゃダメなんだ。できるというのならお前が普通の方法で励ますのだな!」

 そりゃダメなのはわかるけどさ。

「お前は自分がいつ死ぬかわからん人間から死の事を考えるなと言っても無理な話だ!」

 それは分かるが。

「だったら他の事を考えさせるしかないだろう! 死ぬ以外の他の事だ!」

 だったら楽しい事でもやらせよう。外に連れ出そう。そういうのは分かる。

「元々生きている者が、死んでもいいなんて考える事がおかしいんだよ!」

 まあ、言いたいことはわかる。

「それで、お前は何を考えているんだ?」

「ではここから話そうか」

 説明してやる。そうとでも言いたげにして言いだすななみ。

「私は死ぬのが嫌だった。だから必死に生きたいと願った。それが普通だと思っている」

 それからななみは言う。

 良賢君のように、死んでしまう事に何も感じないというのはおかしいと思うのだという。

 そして、それは頼れる人がいないからだと思うのだという。

 誰かを失った悲しみを知らないから、自分がいなくなる事に何も感じないのではないかと思っているのだという。

「悲しいなら悲しめばいい! 苦しいなら苦しめばいい。それは生きている証なのだ!」

「だが、どうやって死にたいかなんて本人が決める事じゃないのか?」

「良賢君が好きなように死ねているというのか? 病気に体が蝕まれているだけだろう? 好きなようには死ねていないではないか!」

「好きなように死ねる人間なんているのか?」

「そのために努力はできるじゃないか。安楽椅子に揺られてだの、畳の上でだの、そういう言葉もある」

 なるほど。大体言いたいことが分かってきた。そして、ななみの口から、こいつが思っている事の結論を言い出す。

「最後までやりたいことをやって死んでいくべきだ。諦めて何もしないで死を待つなんて、本人にとっていい事のはずないだろうが!」

 俺もこの言葉でスッキリした。

 良賢君が死を受け入れているのが気に入らないのだ。

 確かに俺も良賢君が死に対して恐怖を感じていない、諦観している様にはもどかしく感じた。

 おそらくちかどさんが感じている事もそれだろう。

 もっと子供らしくしてもいい。良賢君は、死ぬ事を忘れていろんな事をするべきだと思うのだ。


「勝手な考えだよ」

 ななみの考えを良賢君に伝えると、そう返答が返ってきた。

「勝手なのはどっちかな?」

 みんな良賢君には諦めて死を受け入れてほしくないのだ。みんなそう思っているのに、一人で殻に閉じこもってしまっている。

「みんなボクの気持ちなんて……」

「そうだわからない」

 勝手を承知で言う。だけどそれは良賢君だって同じだ。

「君だって、みんなの気持ちを分かってない。ほっといてくれって思ってるし、みんなの考えている事を分かろうともしない」

「ボクはもうすぐ死ぬんだよ」

「だったらそんな勝手な事が許されるのかな?」

 俺にもななみのバカが感染したようだ。ほんとうにズケズケ言う。良賢君の気持ちなんてまったく心の隅にもなく、厳しいことばかりを言う。

「死ぬ一秒前までみんなとつながろう。そうすれば、一人で死んでいくなんて寂しい気持ちにならないで済む」

 良賢君は黙り込んだ。ここで殻を破るのが彼のためだ。俺はそう思うしななみも多分そう思っている。

「そう思っているんだぜ。あのバカは」

 最後に俺は全部をななみのせいにした。

 だがななみの考えがこれで間違っているとは思わない。ななみだってこう思っているはずだ。

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