第17話 あいつに聞いてみるか?
「勝負だ! 早く抜けられたほうの勝ちな!」
良賢君が言って先にミラーハウスに入っていった。俺は携帯を使ってストップウォッチ機能を使って時間を計る。
むくれた顔をして良賢君が戻るのを待つななみ。ほどなくして良賢君が戻ってくる。
十二分そこらだ。これが良賢君のタイム。
ななみは時計を渡される。三十分以上経ってミラーハウスから出てこなければ係の人が出てきて案内をしてくれるというシステムだ。
「いってくるぞおおおおお!」
やたら気合を入れてミラーハウスに入っていったななみ。
気合とタイムが正比例するはずもなく、ななみは三十分経っても出てこれなかった。
「どっちを向いても、自分しか見えないのだよー」
ミラーハウスというのはそういうものである。
「なんかピカピカ光ってて近寄りずらいのだよ」
光っているものに近づかないって、お前畑を荒らす害鳥かなんか? CDぶら下げときゃ寄ってこないような。
良賢君は自分の策が上手くいって上機嫌といった感じだ。
今俺たちがいるのはレストランだ。割高の昼食を食って昼からどこで遊ぶかを相談中である。
この段になってもななみは自己中で、食うもんを食ったら次の勝負の下見とか言ってどこかに消えていきやがった。
「あんな奴に付き合おうと思った事、後悔してないよな」
良賢君に聞く俺。強引に良賢君の心を開く。今となっては惑わすと言ったほうが正しいような気さえしてきた。
そして、良賢君が遊びに行く決意をしたかと思えば、それにかこつけて自分だけで勝手に遊びだす。
どこまでも自己中心的な行動だ。
「後悔半分。あのバカに付き合うのは疲れるけど、半分は楽しいし」
半分は楽しいとは、良賢君も微妙な事を言ってくれる。
「それよりも重要なのは、あいつはなんでボクにここまでできるのかを知りたかった」
良賢君は誰にも知られずにひっそりと消えていく事を望んでいた。
ちかどさんやちかどさんの母なんかの最低限の人間に知られてしまうのはしょうがないとして、自分の死でこの世界の何かが動かなくてもいいと思っていた。
「放っておいてくれって思ってた。だけど、あいつはなんであんな事までしてくるんだ?」
それが知りたいというのなら、答えは永遠に出ないだろう。ななみが上手く説明できるとは思えない。
そして、そもそも明確な答えを持っているとも思えない。
「良賢君を救いたいんだってさ」
とりあえず、ななみが言った言葉を教える。
「友達になって、一緒に遊んで、死ぬのを怖がるようになってほしいってさ」
「怖くなりたくなんかない」
着実に迫る死に恐怖しながら生き続けるなんて辛すぎる。
でも辛さを知らないで死んでいくのはもっと辛いのではないか。
ふとそう思うと、俺自身も興味が出てきた。あいつが良賢君に与えたいものとは何であろうか?
「あいつに聞いてみるか?」
俺は良賢君に聞いてみた。
良賢君はこくりと頷く。
ななみが何を考え、どう思って行動しているか? 聞いたところでわからないかもしれない。
けど、少しでもそれで良賢君の気が晴れるなら、ななみの行動には意味があるんじゃないかと思えてくるのだ。
「ふふふ。あの生意気な子どもめ。ここでおしっこをちびるがいい」
そう悪だくみをするような様子で言うななみ。
「やっぱりここか」
ここはお化け屋敷の出口。ななみが良賢君に反逆を企てているなら、何を考えるだろうかと考えた。
ミラーハウスでビビらされて、怖がらせ返そうと考えるななみ。怖がらせるといえば、単純にお化け屋敷にしようと考える。
ななみの行動を読んでみたが、まさか完全にその通りとはこいつの単純さには恐れ入るものだ。
「お前、一体何を考えているんだ? 良賢君をはげますためにここに来たんじゃないのか?」
良賢君が疑問に思っているとか、そういうように直接聞くわけにもいかない。こうやってななみの事を攻めるようにして聞くと、ななみは反発してポンポンと物を言ってくる。
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