第16話 遊びは人にやらされるものではないぞ

 俺が抱えて帰ってきたななみの事を見ると、良賢君はズカズカと歩いてきて、ななみの頬をひっぱたいた。

「お前が一人で遊んでどうすんだよ?」

「君こそ何か遊びたいものはあるのか?」

 何言ってんだお前。勝手言ってるんじゃない。

「遊びは人にやらされるものではないぞ」

 何をいい事を言ったような顔して言ってんだこいつ。

「良賢君よ。人にやってもらってばかりだからダメなのだ。行きたい場所、遊びたいものを自分で決めるのだ」

 これを言いたいために一人でジェットコースターに突貫していったのだろうか? そう言い出すならこいつの顔面にとろろでもぶちまけてやるところだ。

 だが言わんとするところは分かる。

「一緒にジェットコースターに乗ろうではないか」

 いきなりジェットコースターとはヘビーなもんを要求する。

「それとも何か? ジェットコースターが怖いか? ちびってしまうか?」

 やめんか。その子供みたいな挑発。

 だがこの挑発は良賢君には効果てきめんだったようだ。

「ちびるわけないだろう。やってやる」

 結局は良賢君も子供だ。子供の挑発に思いっきり乗ってしまった。


「このゾクゾク感がたまらないな。怖くなったらいつでも言ってくれていいんだぞ。お姉さんがなでなでして、慰めてあげるからな」

「そんな事、死んでもしない」

 いまだにアホみたいな挑発をするななみに、それに顔をむくれさせる良賢君。その様子を、俺はちかどさんと一緒に遠くから眺めていた。

「これでいいのか?」

「そうかな? 良賢君は楽しそうだよ」

 ちかどさんが言うならいいだろう。俺には迷惑をかけているだけにしか見えない。今すぐにでもななみを止めた方がいいような気がしてくる。

「普通の男の子ってあんな感じじゃない? よくわからない事で張り合って、ケンカして、でもすぐに何事もなかったようにして遊んで」

 俺も小さいころはあんな感じだったんだろうか? あのアホと自分を重ねるのは、個人的には御免だ。いくらチビだったからと言っても、あそこまでアホだったとは思いたくない。

「私の勝手なイメージだけど、良賢君が初めて普通の男の子になってくれた感じがする」

 普通の男の子ね。まあ、さっきまでのように顔をむくれさせて達観したような事ばっかり言っていたのは、明らかに普通の男の子ではなかった。

「これでよかったんですかね」

 迷惑をかけまくっているななみ。俺はその様子を見てハラハラしかしてこない。

「ハラハラさせてくれるくらいの方がいいんだよ。面倒を見る方も、その方が楽しいじゃない」

「俺はななみの面倒を見るのが楽しいと思った事は一度もないんですがね」

「見解の相違だね。私には鷲谷君が楽しそうに見えるよ」

 議論の余地のある言葉を言ってくれたちかどさん。だが議論は後回しでいいだろう。良賢君が生き生きしているし、ちかどさんも満足してくれている。とりあえずはそれでいいはずだ。


「苦しい」

 良賢君はジェットコースターから戻るとそう一言言ってちかどさんに向けて倒れていった。

「はっはっは。自分で決めないからそうなる」

 完全にジェットコースターに酔ってしまったようだ。高笑いをするななみに、悔しそうにする良賢君。

 ちかどさんの膝枕でベンチに寝転がる良賢君のために俺は水を持ってくる。

 さて、このアホの始末はどうつけてくれようか? ちかどさん達の前で制裁を加えるのもいけないので機会を狙わないといけない。

「今度はボクのに付き合ってもらおう」

 良賢君が言う。

「ほほう。受けてたとう」

 当分このアホを制裁する機会はないようだ。今回の事は良賢君も乗ってきてくれた。

「お前の弱点なんて御見通しだからな」

 どういう意味だろうか? こいつの弱点と言えば頭という致命的なものがある。

 良賢君なりに、ななみの弱点を見抜いてきたようであった。


 あるアトラクションの前に立つと、ななみは愕然とした顔をした。

「貴様! 卑怯だぞ!」

 良賢君がななみを連れてきたのはミラーハウスだ。この頭の悪いななみにミラーハウスを抜ける事ができるかどうか、はなはだ疑問であるし、本人もそれがわかっているようで良賢君に向けて悪態をついていた。

「私はミラーハウスを抜けられたことがないのだ。何度も係の人に見つけてもらって出口にまで案内してもらっているのだ」

 お前、そこまでバカだったのかよ。

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