第15話 ななみってどんな奴?

 電車に揺られて遊園地に向かう。メンツは俺とななみとちかどさんと良賢君だ。

 遊園地は郊外にある。家屋が少なくなり、工場が並ぶ地帯になってきた頃、遠くに見えるのはジェットコースターと観覧車。

 電車の中からその景色を眺めているななみは、電車の窓にへばりついて着くのを心待ちにしていた。

 座席の上に靴履いたまま立つな。あと、子供みたいにはしゃいでピョンピョン飛ぶな。

 そう言いたいが、この状況ではななみへの説教は後にする。俺はただの荷物持ちだからな。

「ななみってどんな奴?」

 良賢君が言う。いきなりなんで面食らったが、俺の方を向いて言っているので俺に向けて聞いたのだろう。

「見ての通りの奴だ」

「そうじゃない。なんでこんな事までできるの?」

 ななみがおせっかいすぎる事について聞きたいという事だ。

「あいつの顔の傷を見てみろ」

 前置きを言う俺。良賢君は窓のベッタリを顔を張り付けているななみの頬に走る傷跡を見た。

「あの傷は首を通ってへその下にまで続いている。医者が言うには内臓が飛び出しかけていたとか」

 そうすると、良賢君はまじまじと俺の事を見た。俺も話の続きを言う。

「あいつは一回死ぬ間際にまで行ったんだ。死が目前になっている君の事を見て、何か思う所でもあるんじゃないか?」

 俺に言えるのはここまで。あいつの頭の中なんて分かるはずもない。分かる奴がいるなら、教えてほしいくらいだ。

「あいつがそんな事まで考えているかな?」

 良賢君は。遊園地を見て無邪気に笑うななみの顔を見て言う。確かにななみが何か深い事を考えているようには到底見えない。

「あいつ事を見て、考えるのは君だよ」

 俺は良賢君に言う。

 つい偉そうな事を言ってしまった。

 ななみが何を考えているかなんて誰にもわからない。ななみ本人だって分かっているとは思えない。

 だが、それをどう受け止めて、どう心情を変えるかは良賢君しだいであり、俺の役目ではないし、ななみやちかどさんの役目でもない。

「説教して悪かった」

 荷物持ちが言う言葉じゃない。分をわきまえない発言だ。こんな事一言言ってそれが許されるかどうかは分からないが、一応謝っておこう。


 ゲートの前に並ぶ。

 ガシャコンという音が聞こえて一人ずつ入場するあの装置を通ると、俺は肩に抱えていた車いすを降ろした。

 その後ろにから入場したななみがゲートを通ると俺を押しのけて前に出てから遊園地全体を見渡した。

「おおう! 目当てのジェットコースターは空いているかな?」

「身長制限に引っかかるんじゃないか?」

「かかるかバカ!」

 ちみっちゃいななみであるものの、さすがに百二十センチ以下ではない。

 遊園地のゲートを通ると、良賢君そっちのけで目当てのアトラクションにダッシュしていった。

 学校まで休んで平日にここに来ているため人はそう多くない。だが良賢君をそっちのけにしているなんて何をしに来たのかわからない。

「すみません。ちかどさん」

「良賢君が遊園地に来るって言ってくれただけでもいい事だから」

 ちかどさんも優しい事を言ってくれる。ななみの説教は俺が責任を持って請け負う事にしないといけない。

「良賢君。乗ってきたいものはある? お医者様はアトラクションに制限はないって言ってくれたけど」

 ちかどさんの言葉を聞くに、どんな病気かは知らないが、ジェットコースターもお化け屋敷も可能という事らしい。

「ななみが戻るまで待ってる」

 あいつ、戻ってこないかもしれないんだけど。

「こんなとこに連れてきといて一人で遊ぶなんて、なんて奴だ」

 まあそうだな。全面的にななみが悪い。俺は持っていた車いすを置くと、ななみが向かっただろうジェットコースターに目星をつけて向かっていった。


「なんだというのだ! あと一時間で乗れたのだぞ!」

 平日でも一時間待ちか。さすがは人気の遊園地。

「お前はここに何をしに来たのかわかっているのか?」

 黙っていたらななみが戻ってくるはずもない。結局俺がななみの事を連れて帰る事になった。

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