第14話 忍者は何が気になるか

「はっはっはっは! 聞いたかワシ坊よ!」

 ちかどさんの一言を聞いたななみが高笑いを始めた。

 生徒会の会議中。ちかどさんも会議の私的利用を躊躇しなくなってきた。残りの二人も当然止めない。

 今はそれより重要な事があるからその話はあと回しだ。

 ちかどさんは良賢君の様子を話してくれた。


 良賢君はあれから少し明るくなった。病魔は進行しているはずだが、学校に行ける日も増えてきたらしい。

「遊園地の券があるんだけど」

 ちかどさんはおずおずと聞いた。

 遠くの場所に行くには医者の許可が必要だからそうそうはいけない。それに、自分には楽しむことのできるアトラクションは少ないからと、いままでの良賢君は遊園地に行く事を拒んでいた。

 だが、その時の良賢君の反応は違った。

 いままではすまなそうにしてちかどさんから目をそらしていた。そのあと、その申し出を拒否してくる。

 だがその時の良賢君はちかどさんの顔を見るとうつむいた。

「ななみが一緒なら行ってもいい」

 小さく言ったのだ。


「私の作戦は成功したようだ! 一人の少年の事を救う手助けになったのだよ!」

 今回ばかりは、たしかにこのバカのお手柄だよ。

「もう、何も言わねぇから好きにしてこい」

 半分悔しさ、半分ヤケ。それくらいの気持ちで言った。

 こいつは良賢君の心を開いたのだ。バカで強引な方法であり、ほとんどラッキーみたいなもんだったが、成功したには変わりない。

 これ以上俺が口を出す義理はないと思われる。

「鷲谷君にも来てほしいな」

 ちかどさんが言ってくる。童貞の俺は不覚にもドキッっとしてしまった。

「な……ちかどさんが誘ってくれるなら……」

「私ひとりじゃ。ななみちゃんを止められそうにないし、もしもの時のために車椅子を一緒に持っていくように言われているから男手がほしいの」

 ああ。そうですよね。そういう事だろうとは思っていましたよ。

 いかん。なんで俺は頭の中で敬語使ってるんだ?

「ごめん。鷲谷君」

 ごめんとか言わないでくんないかな。気づいているアピールとかいりませんから。


 あれから会議はそっちのけで解散をしていった。

 今は非常事態だし、会議が遅れるのも許してもらおう。この問題が終わったらマジメにやりますから。

 心の中で学校の教職員、ならびに校長に謝罪をする。

「動くな」

 そこに、後ろから声を掛けられた。

「何の真似ですか? 糸居先輩」

「やっぱわかるか。家の教える方法はアテにならないな」

 家が忍者という糸居先輩。多少声がくぐもっていたが、口に布切れをあてたくらいで声をごまかせるはずもない。

「君は最近ちかどさんと仲がいいようだな」

 糸居先輩はそう言ってきた。俺とちかどさんの仲について詳しく聞きたいわけだ。

 俺が振り返り糸居先輩と向かい合う。

 糸居先輩はななみにちかどさんのような人がタイプだって見抜かれていた。ななみの方が事を知っていそうだが、ななみに聞くのは癪なので俺に聞いてきたわけだ。

「ななみが全部悪いんですよ」

 良賢君との事をすべて話す。

 こんな話されると近づけなるだろうことは分かる。

 あんなバカでもなければ、自分からこの話に首を突っ込もうとはしないからだ。

 俺の予想通り糸居先輩は話を聞くと引きぎみになった

「今は待った方がいいんじゃないですかね?」

 手を出せない状況だ。マンガならここで手を出してちかどさんのハートをゲットなんて展開になるだろうが現実はそううまくはいかない。

「自分で考えてみる」

 ななみが言ったなら全力で止めた言葉だが、糸居先輩が言ったからには俺は安心して彼に任せることができる。

 俺は自分とななみの心配をしていればいい。

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