第13話 料理対決
「はっはっは! 私の正しさがわかったようだな!」
生徒会の会議の時、開始とともにバカが我が物顔で高笑いをしていた。手に何かの本を持っているのがわかる。
「正しいかどうかはまだわからないだろう? 良賢君を救うって何度も言っていたが、こうなっちまったら、話を掘り下げるしかない」
そもそもこいつは何をどう考えていたのかという話だ。
目的もなしに良賢君に突撃ばかりしていきやがったこいつが、これから先何をやる気なのかを知らないといけない。
「良賢君を救うって、どうなれば成功なんだ?」
「そんなの。良賢君が救われたって思った瞬間に成功だろう」
それが難しいんだっつうの。
「何をどうやって、救われたって思わせるつもりなんだ?」
「友人としていっぱい遊ぶ。旨い飯。楽しい遊びを一緒にするんだ」
「病気でそれができないんだが?」
「制約があるなかでも楽しめる方法はある」
ちっちっちと、舌を鳴らしたななみ。こいつにこうされると本気でイラッっとくる。
「昇進料理というものを知っているか?」
そんなもん知るかい。お前が言いたいのは精進料理の事だというのは分かるがな。
「なるほど。精進料理なら病人でも食えそうなものもあるかもな。お前にしては考えたもんだ」
もう食ってるかもしれんがな。
「ちかど君の家の台所を貸してもらえるかな?」
手に持っていた本は精進料理の本だったのか。こいつの作った料理がどんなとんでもない味になるかは想像に難しくない。
だが、いい顔をしているな。このあほヅラ……今は嫌味はよすか。
この元気のある笑顔を見ると、今回こいつはやるんじゃないかと思えてくる。
「私の作った満漢全席で良賢君を笑顔にするのだよ」
ぶちあげやがったななみ。この小さい脳みそで、どんな満漢全席ができあがるかは、こいつにしかわからない。
真心のこもった手料理で病人をもてなす。そういう言い方をすればこいつの考えも悪いものじゃないのがわかるだろう。
俺は大根のかつら向きとかいう、わけのわからない事をさせられていた。
「これ、本当に使うんだろうな?」
「口より手を動かせ! 大根のかつら剥きは板前の基本中の基本だぞ」
俺、板前目指しているわけじゃないんだけど。
ブツブツ切れた薄い大根の皮が量産されていく。ななみはその後ろで鍋に何かを突っ込んでいた。
「お前は調味料とかドカドカ入れそうだからな。ちゃんと計れよ」
「今は嫌味を言う時間ではないだろう! 黙っていろ!」
バカにもっともな事を言われてしまったよ。俺もいらん嫌味ばかり言いすぎか。
三角巾をかぶって本を読みながら必死に調理をするななみ。
いつも、お母さんの作ったおいしい料理を食べているはず。なのに、料理初心者のこいつの料理なんて食べさせられるのか。
とか、普通は無意識的に考えてしまうだろうな。
こいつはそういう事は考えない。
自分の真心を良賢君に伝えたい。徹頭徹尾考えている事はそれだ。むしろ、それしか考えていない。
届くかどうかは分からないが、こいつは自分なりに想いを伝える方法を考えたのだ。
「よし! 完成だ!」
背後からななみの声が聞こえてきた。
え? 完成? 何それ?
「これは? 使うんじゃないのか?」
俺が作った大根のかつら剥きもどきだ。
確かにできの悪い失敗作ばかりだが、作ったからには使ってほしかった。
「最初から使う予定にはなかったぞ」
「ならなんでやらせた!」
やはりこいつの考える事は分からない。俺は無駄骨を折っただけだったのだ。
ななみは良賢君に自分の作った料理を渡しに行った。
俺も一緒になってついていく。
ななみの料理はやはりヒドいもんだった。
ダシがなんか黒ずんでいる。大根の切り方が悪くていびつな形になってる。豆腐に崩れているところが多数。
「味は保障する」
俺の視線を見たななみは言う。味を俺が見ておけばよかったかもしれない。
良賢君の部屋の前に行くとななみは俺の事を止めた。
「まずは私と良賢君が話す。そこで待っているのだ」
「よしわかった」
ななみの言葉を聞いて一旦俺は自分が配膳してきた料理を近くの台に置いた。
「なぜ置く? そのまま持っていろ」
馬鹿者。お前が良賢君にアホな事を言ったら、すぐに止めに入るためだよ。
ななみは良賢君の部屋の戸をノックすると、それから入っていった。
「入っていいなんて言っていないけど?」
「殻に閉じこもるのはよすのだ。良賢君」
やはりツンケンした態度の良賢君。ななみはメゲずに前に出ていった。
「君はな。仲間の大切さを知るべきなのだよ。自分にできる事が少ないなんて、気にしている場合ではないのだ」
ななみが言う。そんな事は良賢君だってわかっているのかもしれない事だ。
「勇気を出すそれだけで世界は大きく変わるのだぞ」
その勇気が出ないから人とのかかわりを絶って、自分のできる事をセーブしてしまっている。良賢君は俯いて聞いていた。心の底では分かっていることのようである。
「私から友達の印だ。使いの者よ。入ってきなさい」
「誰が使いの者だ?」
文句を言いつつも俺が良賢君の部屋に入る。
見た目の悪い料理を見せられた良賢君は青い顔をしていた。
それに気づいているかいないか、ななみはにこやかな笑顔で言う。
「さあ。たんと食べるがいい。友情の証だ!」
お盆に乗っている箸を取った良賢君。ななみの料理を意を決して食べるつもりのようだ。口に運ぶと良賢君は両眉をひそめた。
「マズい……」
「なんだと君は! 私の精一杯の料理を!」
ななみは言うがマズいならしょうがない。
「これならボクの方がおいしく作れるよ」
さらに酷評。されてもしょうがないだけの味なんだろう。
「なら作ってみろ! 材料ならまだ余っているのだぞ!」
「何言って……」
「はん! できもしない事を言ったのだな。ムダ知識ばかりの子供が大人をバカにするのは大概にするのだな!」
「お前の何が大人だ? お前よりおいしく作ることはできるに決まってる」
良賢君もななみの事を舐め果てているようだ。理由とその気持ちはよくわかるが。
「やってやる」
良賢君はベッドから立ち上がった。
体は大丈夫らしい。何かあったら救急車を呼ぶ準備だけしておく。
今、良賢君が自分の足で立って歩いているのだ。これはいい傾向であると思う。
「よし! どっちがおいしく作れるか勝負だ! 負けたらバカだからな! バーカバーカ」
「バカって言った方がバカなんだぞ」
懐かしいな。昔、俺もこんな感じの話とかしてたっけ。
ななみと良賢君は二人して料理対決を始めた。ななみがさらに料理の食材を生ごみに変えていってしまう。良賢君が賢明にななみに勝てる料理を作ろうとしている。
「やっぱりななみちゃんは何とかしてくれたね」
ちかどさんがそこで言いに来た。ここは彼女の家なんだからいて当然だ。
「そうだな。上手くいきやがった」
今大根を切っている良賢君の顔は真剣そのもの。
あんな楽しそうな顔を見たのは初めてだった。料理対決を楽しんでいるのだ。
そしてその後、二人の料理が完成した。
お互いはお互いの料理を食べ比べする事になった。
「ふふふ……君の料理は塩味が足りないようだな」
ななみがそう言うが、足りない味の正体がこいつにわかるはずがない。どうせ、適当に言ったんだろう。
「ダシが足りてない。なんか水の味がしてくるもん」
良賢君の言葉はもっともな感じがしてくる。多分的確な意見なのだろう。
「いや、正直に言おうか」
「うん。そうだね」
なんか二人とも疲れてきているみたいで、話を締めにでも入るつもりらしい。
「どっちもマズいな。これ」
「そうだね……勝負とかそいういう次元じゃないよね」
この勝負は引き分けで終わったようである。
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