第11話 ななみの失言
「ちかど君よ。君は良賢君をどうしたいと思うのだ?」
「えっと……」
「昨日の話の途中で寝るからだ」
次の日にも生徒会の会議があった。会議のネタが無限にあるわけではなく、ななみがすぐ脱線させるので会議の結論が先延ばしになり続けるだけである。
生徒会に時間を取られるのはちかどさんをはじめ、他二人の生徒会のメンツも心の底ではありがたがっている様子だった。
ななみのバカさ加減についていくことはできないが、ななみの話に乗って会議を長引かせようという様子は丸わかりだ。
「途中ではない。最初から聞いていなかった!」
「あんなハズい話何回もできるはずがないだろう?」
「ムキー! 私は何も聞いていないぞ。カノヤマ君も草葉の陰で悔しがっているはずだ!」
またカノヤマ君かよ。
「カノヤマ君ってだ……」
「ストップだ。ちかどさん」
カノヤマ君って誰? とは言い切らせなかった。ぜってぇ即興で作った変な設定を語り始める。
「カノヤマ君は世界を救ったスーパーヒーローだ」
言うんかい。
「話をこれ以上脱線させるな」
アホな事を語り始めたななみの頭を、丸めた会議の議事録でひっぱたいてやった。
「なんだねいきなり」
どう見てもいきなりではないだろう。会議中に話の脱線。さらに無関係なカノヤマ君の設定の語り始め。
「まあいい。とにかくだな。私はあきらめる気はないからそのつもりでな」
あれ? ひっぱたいたら頭がリセットされたのか?
もともと頭の容量の小さいこいつだ。ちょっとした衝撃でバグを起こして止まってしまうのである。これはこれから先も使えそうだ。
生徒会が終わると、ななみは全速力でどこかに行ってしまった。良賢君のところに行ったのだろうと想像ができるが、止める気にはなれない。
昨日にその事については話し合ったのだ。
「いいのかどうかわからないけど」
「不安なのは俺も同じですよ」
死が目前になった人間の考えなど俺たちにはわからない。ななみのようなわかる人間に任せるべきであろう。
俺とちかどさんは歩いてちかどさんの家に向かった。
そうすればななみが良賢君にちょっかいをかける時間を稼げるし、俺たち自身が直帰して止めに来たという言い訳を言う事もできる。
バカと違って俺たちは多少の計算くらいできるのである。
そのバカは予想通りちかどさんの家にまで来ており、良賢君が寝込んでいるという部屋の事を覗き込んでいた。
「あ、手が離れた」
良賢君の部屋の小さな窓に張り付いていたななみだが、手が離れコロンと後ろに倒れていくところだった。
「なーぜーだー!」
ななみはちかどさんの家の前で絶叫をしていた。
「いろんな事を知りたいんじゃないのか!」
あれ? もしかしてあの話を聞いていた? 聞いていたとしても、こいつが覚えているわけがないな。
「ボクが知りたいのは安っぽい同情なんかじゃない!」
良賢君が言うのを聞くに、ななみに良賢君のしたがる体験などさせれなかったようだ。
「やっぱり、無理だったのかな?」
ちかどさんも言い出す。
これは考えられる結果の中で一番確率の高いものだった。驚くものではない。
「ななみ。お前の出番は終わりだ」
またも窓に取りつこうとするななみの首根っこを掴んだ。
「もう来たのか邪魔者め! かわいそうな良賢君を救おうというのに、自分が悪者だと気づかないのか!」
バカお前。『かわいそうな良賢君』なんて呼んだら、それこそ……
「帰れ! 二度と来るな!」
窓から分厚い本が飛び出してきた。
それをモロに顔面に食らったななみは、体を反らして目を回す。
「ほら! これでお前の出番は終わりだ。多分、二度と出番はないだろうしな」
良賢君が怒った理由を、ここで教えるわけにもいかない。良賢君にも聞こえてしまう。
良賢君から本を投げつけられたという事実は、さすがのこいつも堪えたようだった。
「なぜだ! なぜ帰れなどという?」
今回そう言われた理由ははっきりしていると思うが、こいつにはわからないようである。
暴れるななみを抱えた俺は、良賢君からこのバカを引きはがしていった。
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