第8話 好きにはさせれない
今回ばかりはこいつの好きにさせてはいけない。
家に帰ると俺はななみの家の前で監視をしていた。
「なぜ私の事を止めるのだ!」
などといって抵抗をして良賢君の所に行こうとしているななみだが、ここは無理やりでも止めねばならない。
犬の捕獲用の輪の着いた棒を用意。ななみが出てきたら躊躇なくこれをあいつの首にかけるつもりだ。
「この件にお前の出番はない!」
良賢君の命、残りの時間については彼に決める権利がある。こいつがひっかきまわしたら、せっかくの残り少ない命が無駄に使われてしまう。
「病人に正常な判断力などあるはずがない! あの時、お前なんかの事をかっこいいとか思ってしまったんだからな!」
「ここで言う言葉か!」
こんな感じで一悶着あったが、今は家の中から俺の様子を眺めていた。
カーテンの間から俺の事を見ているものの、さっと部屋の奥に戻り、その後、部屋からゴソゴソと音がしてくる。
小さい脳みそで何か作戦を用意しているらしい。
ななみの部屋から音がしてこなくなってから少し経った。
不審なミカン箱がある。
少しだけ目を離すとカサカサと音を立てて少しだけ移動をする。
あれでバレないと思っているのか。
「ゲームかなんかのやりすぎだ」
いきなりバケの皮を剥いでしまうのもかわいそうな気分になってくる。
「あー。ななみはどこいったのかなぁ」
ミカン箱がガタッっと震えた。中のななみは緊張で大きく息をしているのがわかる。ミカン箱が大きく呼吸に合わせて上下しているのだ。
そろそろ付き合わんであげてもいいだろう。
俺がミカン箱に近づくと足音を察知してか、カタカタと小刻みに震え出した。
「バレてるっつうに」
そう言った後ミカン箱を引っぺがし、ななみの首根っこを押さえて窓から部屋に放り込んだ。
さて、次の手を考えてきたな。
「ふはははは、鷲谷! いくら貴様でも空を飛ぶ方法は知るまいよ!」
そりゃ知るわけない。さらに言うとお前が知っているわけがない
「空をいくとお前も手が出ないだろうな! 私は快適な空の旅をご提供されてくるよ! ゆけ! 時は今!」
ななみは、今どこぞのヒーローの衣装を着ている。あれで本当に飛べると思っているなんて、高校生とは思えない。
「信じれば人は飛べる! アイキャンフライ!」
ユーキャンノットフライ。
二階のベランダから颯爽と飛び出したななみは、当然地面に落ちていった。
こんなんで怪我をする奴じゃない。頭に反比例して体だけは丈夫な奴だ。
「なぜだ……」
なぜって、そんなの考えるだけバカらしいだろ。ななみの首根っこを掴んで部屋に放り込んでやった。
まだあいつの部屋のなかから音が聞こえてくる今度はシーツを使って何かをする気らしい。音でわかる。
カーテンを開けドアからシーツをかぶったななみが飛び出してきた。
「うおおおおお! おばけだぞおおおお!」
両手を広げて俺の前にまで走り寄ってきた。
バカの少ない脳の容量で考えられる事も限界になったか。お化けのフリをして俺の事を脅しにかかった。
「私カノヤマ君の幽霊だ! プールでの水泳中に心臓発作で亡くなった幽霊だぞ!」
またカノヤマ君か。だからいったいなんでそこまで細かい設定まで用意しているんだよ。
「人生のすべての楽しみをやりつくしたと思っていたカノヤマ君だが、唯一美少女ゲームを極めるのだけは忘れていたのだ!」
それは重要だね。深いものとかあるしな。
「ある日ゲームショップで一目見た未菜山 セリカ(みなやま せりか)というキャラに恋をしていたのだ。だがゲームのキャラであると思ってそれを恋だと認識できなかった。だが死んだあと、心残りとなっていろんなゲームショップに行って未菜山 セリカの事を探した。美少女ゲームなど変遷が激しい。見つけるのには時間が必要だ。だが死したカノヤマ君には時間が無限にあったのだ」
また語り始めやがった。
「そしてついに見つけたのだ。期待を込めてそのゲームのプレイ動画を見る機会を得た。だがそれでカノヤマ君は恐怖のどん底に落ちてしまったのだ」
どんな恐怖だよ。死んでまでやりたいことがそれってなんだよ。全然人生の楽しみをやりつくしてねぇよ。
「なんとゲームは鬼畜凌辱ものだったので肌に合わなかったのだ!」
「知るかアホ!」
俺はシーツを引っぺがしてななみの事を持ち上げ、問答無用で部屋に叩き返した。
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