第7話 ななみの説得は終わり

 俺たちはちかどさんの家にお邪魔した。良賢君は昨日は調子が良かったが、今日は寝込んでいるというのだ。

 良賢君は神社の隣にある家屋一部屋。畳の敷かれた部屋で布団を敷いて横になっている。

 俺はななみと一緒に初対面である良賢君の前にいきなり出ていくことになった。

 顔色はしっかりしていて、顔も不健康そうではない。肌は真っ白で外に全く出ていないのがわかる。

「はじめましてだ良賢君。君、やりたいことはないかね」

 いきなりこの質問だ。ななみは脈絡というものを知らないらしい。

「もうない。どうせできないから」

「弱気になることはないぞ。君は生きている限り何でもできるのだ」

 ななみは病人にムチャな事を言い出した。

「無理をしなさい。なんでもいいから」

 その意見はわからんでもないが、こいつだから言える意見でもある。

「誰もがお前みたいにやたらめったら飛び回っているわけじゃない」

「口を挟むんじゃない!」

 ダメだこいつ。自分の意見を押し付ける事しか考えてない。

「そろそろおいとまさせてもらうよ」

 俺はななみの様子を見て話を打ち切った。

「コラ! 話は終わってない!」

「なにがコラだ! 説教をされるのはお前だ!」

 ななみの事を後ろから羽交い絞めにして止めた。こいつはちみっちゃいから片手でもヒョイと持ち上げることができる。

 足をバタバタさせて俺の腹を蹴りまくっているものの、俺はそんなものは全く気にせずにななみを抱えて退室をしていった。


「そろそろあきらめんか」

 ななみの事を羽交い絞めにしている。

 家を出て公道を歩いている状態にもかかわらず、ななみはいまだにバタバタ暴れていた。

「お前こそ、私のありがたい話を途中で止めおって! 何様のつもりだ!」

「何がありがたい話だ! お前こそ何様のつもりだ!」

 口で言っても聞きそうにないが、ここは公道だ。ふん縛ってしまったら警察を呼ばれかねない。

「お前が人の事を説得しようなんて無理だったんだよ。バカはバカなりに考えてから良賢君に物を言ったらどうだ!」

「考えた結果だ! これ以上考えてもこれ以上の結論など出はせんわ!」

 もう警察呼んで事情を話して協力をしてもらったほうがいいような気がしてきた。

「あ! おまわりさーん! 助けてー」

 ヤバイ! 警官さんが近くにいたのか。

「こいつ、最近巷で有名になっているカノヤマ君です! 捕まえてください!」

 何言ってんのこいつ?

「カノヤマ君は、小学生達の事をつけまわす変質者です。登下校中に不審者が子供に近づかないように見守るとかいって、登校中に監視をしているんです!」

 それ、近所のおじいさんとかがやってくれるボランティア活動だよね。カノヤマ君かなりいいやつじゃん。

「中学校、高校を優秀な成績で卒業して将来を有望視されたものの、三億円の宝くじに当たってからは働かずに暮らしている。毎日ジムに通って体を鍛えておりリンゴを片手で握潰せる強健の持ち主です!」

 どこまでの設定を考えてあるんだよ。カノヤマ君どんだけヌルい人生歩んで、しかも健康的な生活維持しているんだよ。

 すっげぇ二枚目のハンサム君のイメージしかわかないんだけどねぇ。

「現在二十四歳で親も金持ち。でも「俺、空手やってるんだよね」と言われるとびびって命乞いをはじめるという弱点を持っています!」

 どんだけ小心者なんだよカノヤマ君。体鍛えてるんじゃなかったのかよ! カラテやっているくらいの相手にビビるなよ。

 警官がこっちに来た。まさかとは思うけど俺は逮捕とかされないよな。

 ものものしい様子はなく、徒歩で俺たちの前にまで歩いてきた警官さん。

「カノヤマ君。一体何があったんだ? 君の口からこの状況を説明してくれるかい?」

 そりゃそうか。ななみの言う事聞いても何言っているかわからないもんな。俺に状況を尋ねてくるのは当然だ。

 あと、俺はカノヤマ君じゃない。

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